歯の神経治療って何をするの?歯内療法の手順・器具を解説

虫歯がひどくなると、夜も眠れないほどズキズキ痛むようになります。早期治療が大切と分かっていても「自発痛(何もしなくてもズキズキ痛むこと)」の段階になって初めて、歯医者さんを受診する人も少なくないようです。その場合“歯の神経治療”をするケースがほとんどです。

この記事では「歯の神経治療はどんなことをするのか」「治療は痛いか」「なぜ神経治療が必要なのか」など幅広く解説し紹介していきます。

この記事の目次

1.歯の神経治療って具体的に何をするの?痛みは?

1-1 歯の神経治療が必要になる段階

虫歯の進行は「C1~C4」の4段階で表されます。自発痛がみられるのは、そのうち「C3」と呼ばれる段階に進行した状態です。

◆C1:エナメル質う歯(う歯=虫歯)

歯の表面のエナメル質に穴があいた状態です。この段階では痛みは出ませんが、自然治癒することもないため、放置するとどんどん進行していきます。

◆C2:象牙質う歯

虫歯がエナメル質の内側の象牙質に達した状態です。冷たいものがしみたり、甘いもので痛んだりすることはありますが、自発痛はまだありません。

◆C3:歯髄の仮性露出

虫歯が象牙質の奥の歯髄(歯の神経や血管が入った部分)に達し、歯髄炎を起こしている状態です。重度の虫歯で、脈に合わせてズキズキするといった自発痛が特徴です。

放置したり治療が遅れたりすると、やがて神経が死んでしまいます。

◆C4:残根

歯冠(歯の、目に見える部分)がほとんど残っていない状態です。

神経が死んだため痛むことはほとんどありませんが、治ったわけではないため放置すれば歯茎の下に埋まっている部分へ虫歯は進行していきます。

虫歯の進行度と症状について詳しくは「虫歯の進行度に合わせた治療方法と痛い・しみる原因について」でも確認できます。

1-2重度の虫歯「C3」は抜髄することが多い

「C2」段階の虫歯が進み、歯髄のごく一部が炎症を起こした状態であれば、患部を削って消毒し、詰め物をする治療で治ることもあります。

しかし「C3」段階で発生した歯髄炎は、歯髄を元通りにできないため「不可逆性歯髄炎」と言い「抜髄(ばつずい)」と呼ばれる神経治療をすることがほとんどです。

虫歯を削って歯髄を露出させたあと、リーマーと呼ばれる器具を使って神経を除去していきます。

1-3 「歯の神経治療」は抜髄して終わりではない

歯の神経治療は、抜髄して終わりではありません。むしろ、そのあとの行程が重要になってきます。

抜髄すると、神経や血管があった部分が空洞になります。空洞には「大部屋」と「細い通路」があり、それぞれ「歯髄腔」「根管」と呼ばれています。

歯髄腔は“神経が入っていた空間”で、根管は“歯根の方に伸びる神経の通り道”です。

抜髄したあとの歯髄腔と根管を、空っぽのままにしておくわけにはいきません。新たに虫歯菌が侵入・増殖して、再発するリスクが高くなるからです。

そこで、歯髄腔と根管の虫歯や汚れをきれいに取り除き、内部に薬剤を詰める作業をおこないます。

1-4 根管を拡大・形成する

特に大変なのは「根管の虫歯を除去して、薬剤を入れられる状態にするまで」です。

歯によって、人によって、根管の形は異なります。直径0.1mm~0.2mm程度の細くて曲がりくねった管が枝分かれしているなど、非常に複雑な構造をしています。

そのままでは、根管内の感染部分を取り除いたり、きれいに洗浄・消毒したり、薬剤を詰めたりすることが困難です。

そこで、先ほどのリーマーや、ファイルと呼ばれる“針の先端がヤスリ”のようになった器具を使い、根管内の細菌に汚染された部分を除去してきれいに掃除していきます。同時に、 薬剤を詰めやすい形に整えていきます。

1-5 薬剤を詰めて密閉し再感染を防ぐ

根管の拡大・形成が終わったら、いよいよ内部の消毒です。薬品を使って根管内を消毒し、限りなく無菌の状態を作りあげます。

何度か消毒を繰り返してきれいになったところで、再感染を防ぐための薬剤を詰めていきます。

保険診療であれば「ガッタパーチャ」(天然の樹脂)が主体の充填材を用います。根管の中に入れやすいように、細い形状をしています。

このように充填材を隙間なく詰める作業を「根管充填」と言います。根管充填が終わったら、歯の状態に合った被せ物をします。

ここまでの一連の治療を指して「歯の神経治療」と呼んでいます。専門的な言葉では「根管治療」や「歯内療法」と言います。

抜髄や根管治療についてより詳しく知りたい人は「抜髄ってどんな処置?虫歯治療の知識・手順を解説」 もチェックしてみてください。

1-6 歯の神経治療中の痛みは?

歯の神経治療をする際は、局所麻酔をするため痛みはほとんどありません。

局所麻酔に用いられるのは“浸潤麻酔”と呼ばれる、いわゆる液体の麻酔です。針を刺す際の痛みを軽減するために、歯茎に“表面麻酔”を塗ってくれる先生も多くいます。

ほかにも

  • ・麻酔液を人肌程度に温めて注入する際の刺激を軽減する
  • ・細い麻酔針を使用して痛みの軽減を図る
  • ・電動麻酔注射器を使って一定の圧力で麻酔液を注入し圧痛を軽減する

といったように、患者さんの負担をできるだけ少なくするために、さまざまな工夫を採りいれる歯医者さんが増えています。

ただし、痛みの感じ方や麻酔の効き方には個人差があります。人によっては十分に効かないこともあるため、痛みを感じたら遠慮なく先生に伝えましょう。

治療中・治療後に痛みが出るケースや対処法については、こちらの記事も参考にしてください。
【関連記事】「根管治療の痛みを解消する!原因と対処法まとめ」

2.歯の神経治療後、再発する?放置するリスクも

2-1 歯の神経治療後に再発することもある

歯の神経治療は「一度治療すれば、もう再発しない」というものではありません。

虫歯菌は1マイクロメートル(1/1000mm)で、根管は0.5mm。根管の中を入念にきれいにして被せ物で全体を覆っても、内部で虫歯が再発する例はあります。

神経を抜いた歯は、虫歯が再発しても痛みを感じないことが多くなります。痛みが出る頃には、歯根の先にまで炎症が広がって膿が溜まっているといった状態です。

そのため、虫歯の再発に気づかず、歯を残せるかどうかの瀬戸際まで進行してしまうことも少なくありません。これが「神経を抜いた歯は長持ちしない」と言われる所以(ゆえん)です。

虫歯が再発しても、よほど重度に進行していなければ“リトリートメント(再治療)”できることがあります。

しかし、リトリートメントは“イニシャルトリートメント(初回治療)”よりも成功率が低いとされており、将来的な再発率も高まる傾向にあると言われています。そもそも治療のたびに歯の内部を削るため、リトリートメントできる回数にも限度があります。

虫歯の再発を繰り返す場合、抜歯になることもあります。そのため、なるべくイニシャルトリートメントで「再発しにくい、精密な治療」をすることが大切です。

2-2 歯の神経治療をせず放置したらどうなる?

虫歯の強い痛みを我慢したり放置したりしていると、ある日突然、痛みを感じなくなることがあります。

これは、神経が死んでしまったからであり、何もせずにいると死んだ神経が腐っていきます。歯の内部で虫歯菌は生き続け、歯根や、歯を支えている顎の骨までもが汚染され、膿が溜まっていきます。

歯根の先に膿が溜まった状態を「根尖性歯周炎」、炎症が顎の骨にまで及んだ状態を「顎骨骨髄炎」などと言い、激しい痛みが生じます。自分の歯を残せる確率が低くなり、治療にかかる時間や治療費の負担も大きくなってしまいます。

「自分の歯をできるだけ長く残すため」「虫歯菌による感染をそれ以上広げないため」にも、歯の神経治療が必要になってくるわけです。

3.より精密な「歯の神経治療」を目指す技術

再発リスクをできるだけ低くするために、より精密な神経治療を選ぶこともできます。

ただし、より精密な治療に用いられる器具のほとんどは、保険診療における診療報酬が設定されていません。そのため、多くの歯医者さんで自由診療となります。

使用する器具や料金は歯医者さんによって異なるため、事前に確認しておきましょう。

3-1 マイクロスコープの使用

精密な神経治療をするための器具として「マイクロスコープ」が挙げられます。マイクロスコープは歯科用の実体顕微鏡で、治療中の視野を20~25倍ほどに拡大することが可能です。

根管は0.1mmといった細い管で、しかも内部は複雑です。

肉眼で確認できる範囲には限界があるため、治療は目に見えない「ミクロの世界」でおこなわれることとなります。その結果、虫歯を取り残すこともあります。

マイクロスコープを使用すれば、細い根管を拡大して視認しながら治療を進めることができます。

3-2 ラバーダムの使用

神経治療の成功率を上げる手段としては「ラバーダム」もあります。

ラバーダムは、薄いゴム製のシートで“治療する歯”と“それ以外の部分”を遮断するための道具です。

歯の神経治療においては「歯の内部を限りなく無菌化すること」が重要です。

治療中の歯の周囲をしっかり遮ることで、歯の内部に唾液などが入るのを防ぐことができます。唾液に含まれる細菌で、歯の内部が汚染されるリスクを減らせます。

唾液など水分の侵入を抑えることから、この方法を「ラバーダム防湿」と呼んでいます。

3-3 ニッケルチタンファイルの使用

根管内を清掃するとき、多くはステンレス製のファイル(針の先端がヤスリになった形状の治療器具)を用います。しかし、ステンレスファイルは硬く、曲がりくねった根管全体を処置するには不向きな部分があります。

ニッケルチタンファイル(Ni-Tiファイル)なら柔軟に曲がるので、複雑な根管内を効率的に清掃することができ、虫歯を取り残す確率の低減にもつながります。

3-4 MTAセメントの使用

基本的には、根管内部の再感染を防ぐための充填材としては「ガッタパーチャポイント」を用います。しかし、根管の損壊が激しいといった場合、ゴム状の既製品であるガッタパーチャポイントではきちんと隙間を埋めることができないこともあります。

MTAセメントと呼ばれる薬剤なら、ガッタパーチャポイントを入れられない場所にも充填することができます。

MTAセメントはペーストになっているので「既存の形状」がありません。根管の状態を問わず、緊密に充填することができます。

4.まとめ

歯の神経治療は、自分の歯を残すためにも、虫歯菌による感染を広げないためにもとても重要です。

歯の神経治療をするとき、先生は“内部に虫歯菌を残さないようにすること”“再感染防止の薬剤を隙間なく詰めること”など、さまざまなことを考えながら治療に当たってくれています。

患者さん側も、この歯医者さんではどのような神経治療をしてくれるのか、しっかり理解した上で受診するようにしましょう。

先生からのコメント

根管治療は歯を残すための基礎となる治療ですので非常に重要です。きちんと終わるまで完成させてください。痛みが取れたことが治療の終わりではありませんよ。

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。