歯科医師の現状 ~高まるニーズと減少する歯科医師~

歯科医師の現状 ~高まるニーズと減少する歯科医師~

10月28日、一般社団法人日本私立歯科大学協会が主催する「第16回歯科プレスセミナー」に参加しました。

今回のセミナーでは、「歯科医師の現状~高まるニーズと減少する歯科医師」「口腔細菌と全身疾患の関係から考える歯科医療の未来」という、2つのテーマが取り上げられました。

本コラムでは、前半のテーマ「歯科医師の現状~高まるニーズと減少する歯科医師」に焦点を当て、歯科医師の減少によって生じている課題や、今後さらに高まる歯科医師へのニーズについて紹介します。

この記事の目次

歯科医師・歯科診療所の減少

日本の歯科医師は約10万5千人。これまで増加傾向にありましたが、令和2年を境に減少に転じています。「コンビニより歯科医院が多い」といわれた時期もあり、飽和状態と思われがちですが、人口あたりの歯科医師数はOECD38か国中19位と、決して多いとはいえません。

また、歯科診療所は約6万6千施設で、平成29年の68,947件をピークにすでに減少が始まっています。

歯科医師の高齢化

歯科医師の年齢構成を見ると、50代以上が半数を大きく超え、平均年齢も上昇しています。特に開業歯科医師では60代が最も多く、50歳以上が大半を占めています。

歯科医師の従事する施設種別・年齢別構成
出典:日本歯科医師会 歯科口腔保健・医療に関する動向より

歯科医師の後継者不足

調査では、引退後の後継者が決まっていない歯科診療所が約9割にのぼります。このまま高齢歯科医師の引退が進めば、就業歯科医師数の大幅な減少が予想されます。実際に、歯科診療所の数もピークを境に減少傾向が続いています。

地域包括ケアシステムにおける「かかりつけ歯科医師が果たす役割と今後の働き方等」
(2020年3月)に関する調査 日本歯科総合研究機構

歯科医師数の地域格差

歯科医師をめぐるもう一つの課題は地域偏在です。歯科医師は大都市圏に集中しており、人口10万人あたりの数は東京都が約120人に対し、滋賀県や沖縄県では約60人と半分程度です。その結果、全国には歯科医療機関がなく、十分な診療を受けにくい「歯科医療過疎地区」が1,200か所以上存在します。

都道府県別人口10万人対歯科医師数(2020年)
厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」

高齢化に伴う歯科医師数の課題

高齢化の進行により、歯科医師数の問題はさらに深刻化しています。要介護高齢者への訪問歯科診療を行う医療機関は、高齢者10万人あたり全国平均で約60施設。近年は増加が鈍化しており、徳島県が約91施設と最多、沖縄県は約26施設と少なく、地域差が大きい状況です。今後は人口減少に対し高齢患者が増える見込みで、歯科医療の地域・世代格差拡大が懸念されています。

歯科医師の役割の拡大

いまや歯科医師の仕事は、むし歯治療だけにとどまりません。被災地で活動する「災害歯科」や、食べる・飲み込む力を支える「摂食・嚥下リハビリテーション」、睡眠の質を整える「睡眠歯科」、歯や歯周組織を再生する「再生歯科」、アスリートを支える「スポーツ歯科」など、活躍の場は広がっています。

また、地域や行政でも歯科医師は重要な役割を担っています。

【学校歯科医】児童・生徒の歯科検診や健康指導を行う非常勤の公務員。

【産業歯科医】職場で働く人の口腔衛生を守り、安全管理を支援。

【警察歯科医】災害や事件での身元確認に貢献。

【歯科医官】自衛隊で隊員の口腔管理を行う医官。

【行政歯科医・保健所歯科医】行政や地域医療で、公衆衛生の向上に取り組む歯科医師。

近年、口腔細菌と全身疾患の関係が明らかになり、がん・心疾患・脳血管疾患・糖尿病・誤嚥性肺炎・アルツハイマー病など、多くの病気との関連が指摘されています。そのため、歯科医療は今後、むし歯や歯周病の治療にとどまらず、全身の健康維持や未病予防に貢献する重要な分野へと発展していくと考えられています。

歯科医師の求人倍率

こうした歯科医師の活躍の幅が広がる一方で、歯科医師の人手不足は深刻化しています。歯科医師の求人倍率は13倍以上と非常に高く、全国的に「採用したくても人が見つからない」という声が多く聞かれます。特に、訪問診療や高齢者施設での口腔ケアなど、地域医療を支える現場では人材確保が大きな課題です。

参考までに、2024年4月時点の大卒求人倍率が1.71倍であることを考えると、歯科医師の需要の高さが際立っていることが分かります。今後も高齢化や地域偏在の進行により、歯科医師の役割はさらに多様化し、医療・福祉分野でのニーズは一層高まっていくと考えられます。

一般社団法人 日本私立歯科大学協会調べ

株式会社リクルート リクルートワークス研究所調べ

歯科医師の年収

歯科医師は、高い専門性と安定した収入を兼ね備えた職業です。職業別年収ランキングでは、パイロット・医師に次いで第3位。厚生労働省のデータによると、年収1,000万円を超える歯科医師は全体の約7割、2,000万円以上に達する人も約3割とされています。開業すれば努力次第でさらに高収入を目指すことも可能です。一方で、歯学部の学費は6年間でおよそ1,900万~3,200万円と決して安くはありませんが、その後に得られる生涯収入を考えると、十分に見合う投資といえます。

また、専門性を生かして独立開業や訪問診療、企業歯科、教育・研究職など多様なキャリアパスを選べる点も、歯科医師ならではの魅力です。

回答者の属性:開業医253名、勤務医127名(大学・病院勤務者含む)、他3名
歯科医師向け情報サイト「WHITE CROSS」歯科医師の年収に関する調査

歯科医師という仕事の魅力

① 就職率100%の安定した職業

歯科医師の就職率はほぼ100%。開業も含め、私立歯科大学・歯学部への求人倍率は13倍以上にのぼります。不安定な時代の中で、「歯科医師国家資格」は非常に強いライセンスといえるでしょう。

② 生涯続けられる仕事

歯科医師免許は更新の必要がない生涯有効な国家資格です。定年もなく、70歳を超えて現役で働く歯科医師も多く、自分のペースで長く働けます。

③ 人の健康とQOL(生活の質)に直結するやりがい

食べる・話す・息をする——こうした日常生活の基本を支える口の健康を守るのが歯科医師の役割です。子どもから高齢者まで幅広い世代の健康に関わり、治療によって患者さんのQOLが向上するため、「ありがとう」と感謝される機会も多い仕事です。

国家試験の勉強は決して楽ではありませんが、その分だけ得られるものも多い職業です。近年は女性歯科医師も増えており、産休・育休後の復帰もしやすく、短時間勤務でもしっかり稼げるなど、ライフスタイルに合わせた働き方ができる点も魅力です。

セミナー登壇者のお言葉

セミナーの登壇者からは、未来の歯科医師に向けたメッセージも寄せられました。

一般社団法人 日本私立歯科大学協会 羽村 章 会長

教育の現場では、訪問歯科など歯科医師の活躍領域を意識した教育を行っています。地方の歯科医師不足に対応するため、多機能診療所の設置などの取り組みも進めています。高齢患者が増加し、かかりつけ医が患者のもとへ出向く必要性が高まっていますが、私立歯科大学歯学部付属病院は出向くことが可能であり、国立大学の病院では難しいため、このことは私立大学ならではの強みといえます。

1.歯科医学は「命を守る医療」です。

2.歯科医師は0歳から100歳まで、患者さんを生涯にわたって診ることができる職業です。

3.中国の古い格言に「上医はいまだ病まざるものの病を治し、中医は病まんとするものの病を治し、下医はすでに病みたる病を治す」とありますが、歯科医師は“上医”にあたる存在であり、まさに医師の本分を体現しています。

山梨県甲府市 花形歯科医院 花形 哲夫 院長(神奈川歯科大学卒)

口腔は全身の健康と密接に関係しており、歯科医師の役割は今後さらに重要になります。近年では、検死を行う災害歯科の分野でも貢献しており、その活躍領域は実に多岐にわたります。花形院長から未来の歯科医師へのメッセージとして、幅広い分野で活躍できることを知ってほしいとのことでした。

昭和医科大学 歯学部口腔生化学講座 塚崎 雅之 教授

歯学は、全身に関わる幅の広い研究ができるたいへんユニークな学問分野であり、将来サイエンスの道を志す人にとっても魅力的です。歯学部を卒業すれば安定した職に就くことができるうえ、海外に招かれて研究・教育活動を行う機会も多く、世界的に活躍できる分野です。塚崎教授からは、歯学の面白さと国際的に活躍できる可能性を未来の歯科医師に伝えたいとのことです。

高校生がいるご家庭の皆さまへ

お医者さんや歯医者さんになるのは、学力や学費の面でハードルが高いと思われがちです。しかし、私立歯科大学・歯学部の偏差値はおおよそ42.5~58.0と幅広く、歯学部専門の予備校や個別指導塾も充実しています。基礎を積み重ねて努力すれば、誰にでもチャンスがあります。

学費は6年間で高額になるものの、私立大学では学費が全額無料、または大幅に免除になる特待生制度を設けているところもあります。また、多くの大学では提携金融機関の教育ローンや奨学金制度が利用可能です。近年は、国の大学支援制度による給付型奨励金の給付、返済を支援する制度や、地域での修学資金貸与制度も整備されつつあり、経済的な理由で夢を諦める必要はありません。

また、AIがどれほど進化しても、人の表情や痛みに寄り添い、直接手を動かして治療を行う歯科医師の仕事は代替が難しい分野です。「人の健康を支えたい」「手に職をつけたい」という思いがある方にとって、歯科医師は一生を通じてやりがいを感じられる仕事です。

将来の選択肢のひとつとして“歯科医師の道”を考えてみませんか?

Instagramでの歯科医師・歯学部紹介

第1回:歯科医師の魅力
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第2回:私立歯科大学・歯学部の魅力
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第3回:歯科医師Q&A
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第4回:歯科医師のイメージ
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第5回:歯科医師の給料・年収
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第6回:歯科医師の求人倍率
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第7回:女性歯科医師の活躍
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執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。

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