お口の中の虫歯菌や歯周病菌を減らす3DSという治療方法をご存じですか?
専用の薬をマウストレー(マウスピース)に入れて装着することで、口腔内細菌を除去することができる方法です。また、自宅で行うことができるため、セルフケアの向上にもつながります。
では、3DSはどのように受けることができるのでしょうか? ほかの歯周病予防とは何が違うのかや、気になる費用まで、開発者である鶴見大学・花田信弘教授に解説していただきます。
開発のきっかけになったヒントなども明かされます。
※前回の記事「コロナ予防に口腔ケア?歯周病治療で重症化を防止」
唾液で薄まらない!薬剤による口内細菌の除去
虫歯・歯周病の予防治療となる3DSの特徴を教えてください。
口腔清掃には、3つの手段があります。まず、バイオフィルムを歯ブラシやデンタルフロスで除去していく物理的な方法です。次は、洗口液などによって清掃するケミカルコントロールです。そして、乳酸菌などの力でバイオフィルム形成菌を追い出そうというプロバイオティクスの考え方です。
このように、物理学、化学、生物学という順番で口腔清掃をすることができるんです。ですが、2番目の化学的制御(ケミカルコントロール)というのは非常に難しいんです。
なぜかというと唾液で、洗口液などに含まれた成分が希釈されてしまい有効濃度を保てないからです。そこで、希釈されない方法として考えたのが、個人マウストレーですね。
マウストレーで薬を使えば濃度を有効な時間持続できるだろうということで…。マウストレーを用いた殺菌消毒法・3DS 、Dental Drug Delivery System(デンタル ドラッグ デリバリー システム)を開発したんです。
開発までには、どのような実験が行われたのですか?
開発のきっかけになったのは、1998年にロンドン大学から出された論文でした。そこには、ミュータンス菌は除菌できるということが記載されていたんです。
当時、私は国立感染症研究所にいましたので、そこのグループで追試をしたんです。そして、歯のクリーニングを行い、口腔で使用される殺菌消毒薬とマウストレーを駆使した臨床実験を行った結果、ミュータンス菌がいなくなったんですね。
これを開業医が行えるようにした方法が3DSです。
3DSを受けることで、虫歯菌を口内から除去することができるんですね?
ただ、実際にやってみるとミュータンス菌の除菌は、けっこう難しいんです。バイオフィルムはやはりしつこくて…。むしろ歯周病菌のほうが除菌できているということが分かったんです。
最初は逆だと思っていたんです。歯周病菌には細胞侵入性があるので、薬を塗布するだけではダメだろうと…。ところが、歯周病菌にはバイオフィルム形成能があまりないので、Pg 菌などは、あっさりと除菌できるということが分かってきました。
新型コロナウイルスの重症化を防止するためにも、歯周病は重要なターゲットです。3DSを普及させることで、このウイルスに勝てると思っています。
3DS治療の流れ
3DS治療の流れを教えてください。
治療の流れは、次のようになります。
導入
① 潜血検査を行います。
唾液中の血液の有無を調べることで、歯周病の初期段階かどうかチェックします。検査結果は、5分程度で出ます。
② 唾液細菌検査を行います。
唾液細菌を調べることにより、歯周病や虫歯のリスクなど、口腔内の状態を詳しく知ることができます。検査結果は、1週間程度で出ます。
③ 位相差顕微鏡を用いた検査を行います。
自身の口腔内には、どんな細菌がいるのかを目で確認できます。
④ 次回の予約を行います。
1回目
① 検査結果や同意書の説明を行います。10分程度です。
② 歯科衛生士による歯のクリーニングを行います。30分程度です。
③ 自分に合ったマウストレーの型を取ります。10分程度です。
④ 次回の説明や予約を行います。5分程度です。
2回目以降
① 血圧測定や体組織測定を行います。
② 歯科衛生士による歯のクリーニングを行います。30分程度です。
③ いよいよ個人マウストレーを使った3DSを行います。5分程度です。
薬剤をマウストレーに入れて装着します。自宅では、朝と夜寝る前の2回行うことを推奨しています。
④ 保健指導を行います。5分程度です。
⑤ 次回の説明と予約を行います。約5分です。
※4回目には効果を確認するため、潜血検査、唾液細菌検査、位相差顕微鏡での検査を行います。
5回目には検査結果を説明し、今後の一人ひとりに合ったスケジュールを決めていきます。4カ月に1回の通院を提案しています。
3DSと、ほか歯周病予防・治療との違い
歯周病の予防や治療で行われているスケーリングやSRPと3DSでは、どのような違いがあるのでしょうか?
BOP(Bleeding On Probing)が低下します。BOPとは、歯周ポケットの深さを検査するため、先が丸くなっている短針を入れた際に起こる歯肉出血ですね。歯肉炎で炎症を起こしている口腔内は、押しただけでも血が出てしまうんです。
歯肉からの出血の改善を目安にすると、3DSを受けた人はかなり下がるといえます。
ただし、歯周ポケットの深さの改善には半年ほどかかると思うので、3DSでも短期間に修復されるということはありません。
3DSは、誰でも受けることが可能なのでしょうか?
妊娠中のかたや、虫歯になりやすい子供まで、誰でも受けることが可能です。
3DSを受ける費用の目安
3DSを受けために必要な費用の目安を教えてください。
治療を行うために材料費など実費で6万円ほどかかりますので、歯医者さんでは10万円前後で提供しています。
具体的には、まず細菌検査を1回行うと1万円以上かかってしまいます。細菌検査は2回行いますので、2万円以上かかっていますね。
それからマウストレーをつくるのに片顎約1万円、両顎で約2万円。これで4万円程度かかっています。そして、薬を出しますので、薬代で約1万円ですね。
マウストレーを作製する際の型取りであったり、石膏模型の作製であったりを含めると、実費で6万円はかかっています。
ですから、提供するためには10万円前後かかってしまうということですね。
インフルエンザウイルスの予防をはじめ、新型コロナウイルスの重症化を防止することにもつながる治療方法ですので、保険導入されることを期待しています。
歯の教科書 編集部まとめ
3DSとは
●3DSは、専用マウストレーと薬剤を用いて虫歯菌・歯周病菌を除去するケミカルコントロールです。
新型コロナウイルスの重症化を防止
●歯周病は、新型コロナウイルス感染症の重症化につながると考えられます。歯周病菌を除去できる3DSを受けることで、重症化の防止をすることが可能です。
誰でも受けることができる
●3DSは、妊娠中のかたや虫歯になりやすい子供、誰でも受けることができます。
値段の目安
●受けるためには10万円前後かかります。
誰でも受けることが可能で、虫歯菌・歯周病菌を大きく除去することができる3DS。現状では10万円前後かかりますが、保険適用されれば3万円ほどの費用で受けることが可能になります。
呼吸器系ウイルス感染症の重症化予防も可能となってきますので、今後、より普及されることが期待されます。
1981年:九州歯科大学歯学部 卒業
1885年:九州歯科大学大学院歯学研究科 修了
1985年:九州歯科大学歯学部 助手/講師
1987年:米国ノースウェスタン大学医学部微生物・免疫学講座 博士研究員
1990年:岩手医科大学歯学部 助教授
1993年:国立感染症研究所 口腔科学部長
2002年:国立保健医療科学院 口腔保健部長
2008年:鶴見大学歯学部 教授
現在に至る。
※この間、日本歯科医学会学術委員会副委員長、健康日本21計画策定委員、内閣府新健康フロンティア戦略賢人会議専門委員を務める。
現在、日本歯科大学客員教授、明海大学大学客員教授、東京理科大学光触媒研究センター客員教授、長崎大学、東京医科歯科大学非常勤講師を併任。
執筆者:
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