東京医科歯科大学・水口俊介(みなくちしゅんすけ)教授にインタビューを行い、日々の口腔ケアのアドバイスをいただきました。
ブラッシングで目安とする時間をはじめ、選択するべき歯磨き粉、歯ブラシの形やかたさなどを解説していただきます。
また、歯科衛生士さんに正しいケアを教えてもらう大切さや、歯科衛生士さんの存在の重要さなどが明かされます。
※前回の記事「CAD/CAM(キャドキャム)システムで行える治療、行えない治療!技術の進化で変化する歯科治療」
30分は磨いてほしい!目安時間と磨き方のこつ
日々のブラッシングで、大切だと思うことを教えてください。
いろいろな考え方はあると思うのですが、歯ブラシを使用している時間を長くするということが大事だと思います。3分とか5分ということではなく、30分です。
まあ、お口の中の状態は人によりさまざまで、必ずしも30分ということはないのですが、皆さん3分は磨いているよ、とおっしゃっても1分程度しか磨いてないことが多いので、少し誇張していっている、ということはあります。
30分もですか? とても長く感じられます。
テレビを見ながらや、新聞や本を読みながらでもいいんです。そうすれば30分なんてすぐにたってしまいますよ。
結局のところ、歯ブラシをくわえて磨いている時間が長いと、口の中がきれいになっているという考え方なんです。
これは別に、毎回の歯磨きを30分やりなさいということではなく、1日に1回は長く時間を取り口の中のプラークをできるだけ0に近づけようということなのです。例えば、寝る前だけは時間をかけて磨くといった感じですね。
どういった磨き方を意識するといいのでしょうか?
基本的には、細かく磨けるスクラッピング法を推奨しています。細かく磨くことで、歯と歯茎の間などにブラシの先端が入りやすくなりますよ。
そして、デンタルプラークはねばねばしているため、細かく毛先を動かすことで、より取り除きやすくなるんですね。
また、磨き方がちゃんとできているかどうかは、歯医者さんでチェックしてもらってください。
ゆすがなくてもOK!フッ素を滞留
歯磨き粉は、どういったものを選ぶとよいのでしょうか?
歯磨き粉をつけると、長時間磨くことができなくなってしまうということがあるので、あまりおすすめはしていないのですが…。
全くつけないと、ヤニや茶渋といった着色汚れが落ちづらいので、時々つけることを推奨しています。その際には、フッ素の含有量が多いものを選ばれるといいのではないでしょうか。
フッ素が多く含まれた歯磨き粉を、たっぷりと口の中に入れて、口の中に滞留させておくんです。そして、歯磨きが終わった後は、吐き出すだけでゆすがなくてもいいんですよ。フッ素でお口の中をコーティングしておくことが大切なんです。
これは、フッ素が入っていない歯磨き粉で行ってもダメですよ。また、フッ素は大量にとってしまうと毒性があるため、食べてしまう可能性のあるお子さん用の歯磨き粉には入っていません。したがってお子さんが使用する際は、十分にお気をつけください。
歯ブラシのサイズなどは、どう選ぶべき?
歯ブラシのヘッドのサイズやかたさなどは、どのように選ぶべきでしょうか?
大きめのヘッドですと、どうしても磨き方が雑になってしまうので、小さめのサイズをおすすめしています。小さめのヘッドを使用して、ピンポイントで磨いていただきたいですね。
また、歯ブラシの大きさは使い分けが大切になってくると思います。奥歯の向こう側などは、タフトブラシのような特殊な形状の歯ブラシを使用していただくのもいいのではないでしょうか。
かたさに関しましては、歯茎はどんどんと強くなってきます。ですので、重度の歯周病などの方は、やわらかい歯ブラシから磨き始め、どんどんと歯茎が引き締まってからかたいブラシに変更していってみるといいと思いますよ。かたい歯ブラシの方が汚れは落としやすいですからね。
僕も学生のころに初めて電動歯ブラシを使用したとき、痛くてたまらなかったんですよ。ですが、慣れや歯茎が強くなったこともあって、痛みはなくなっていきましたね。
正しいケアを行うために!歯科衛生士さんの大切さ
正しいケアを自分で行うためには、歯医者さんに通って、自分に合った磨き方を教えてもらうことが大切ですね。
そうですね。自分に合ったアドバイスを歯科衛生士さんにもらってください。
これからの高齢化社会にとって、地域包括ケアシステムを支えていくためにも、歯科衛生士さんという職種はすごく重要になってくるんです。歯科衛生士さんは、口の中の健康を管理できる職種なんです。
歯科衛生士さんは、地域包括ケアシステムのために足りているのでしょうか?
現在、歯科衛生士さんの免許をもっている方は、26~27万人いるのですが、実際に職に就いている方は、その半分くらいといわれています。この人数では、地域包括ケアを行っていくことはできません。歯科衛生士さんの数はもっと必要なんです。
結婚や出産など、さまざまな理由から離職されることがあるのですが、復帰しようと思ってもなかなか戻れないのが現状です。
それは、仕事から離れて戻ろうと思ったとき、医療の現場が変わってしまっている、自分の技術が落ちてしまっているということが考えられます。
このことに厚生労働省も非常に危機感を持っていて、復職支援事業を行っています。このように今後の歯科界は、歯科衛生士さんが働きやすい、戻りやすい職場であることが重要になってくるんです。
皆さんも歯科衛生士さんの大切さを理解していただき、歯のケアの方法を教えてもらってくださいね。
歯の教科書 編集部まとめ
テレビなどを見ながらの“ながら磨き”でもいいので、30分は口の中に歯ブラシを入れておくのが大切だということです。ただし、ただ入れておくのではなく、細かく磨けるスクラッピング法を意識してください。
また、フッ素を多く含んでいる歯磨き粉を使用して、口をゆすがなくてもいいということは新しい発見でした。その際、正しい磨き方を行えるように歯科衛生士さんにアドバイスをもらってください。
2005年3月~2006年2月:東京医科歯科大学院医歯学総合研究科口腔老化制御学分野 助教授
2006年2月~2008年2月:東京医科歯科大学院医歯学総合研究科全部床義歯補綴学分野 准教授
2008年3月~2013年3月:東京医科歯科大学医歯学総合研究科全部床義歯補綴学分野 教授
2013年4月~:東京医科歯科大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野 教授
現在に至る
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歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。