コンピューターを利用して、口内の補綴物を作成するCAD/CAM(キャドキャム)システムですが、詰め物・被せ物のほか、入れ歯なども作成することが可能なのでしょうか?
東京医科歯科大学・水口俊介(みなくちしゅんすけ)教授にインタビューを行い、入れ歯の作成時はCAD/CAMシステムがどのように使用されているのか解説していただきました。
また今後、AI技術がどのように歯科の世界では使用されていくのかも説明していただきます。
※前回の記事「徐々に口内環境が低下、オーラルフレイルとは?原因、対策などを紹介」
歯科医師はどのようにAI技術と関わっていくのか
CAD/CAMシステムを利用して、入れ歯を作成することはできるのでしょうか?
被せ物や総入れ歯は、CAD/CAMシステムでつくることができるのですが、全ての補綴物を作成できるわけではないんです。
部分入れ歯は、CAD/CAMシステムでつくることはできないんですね。部分入れ歯は、金属の部分とプラスチックの部分、人工の歯の部分とあるのですが、金属の部分をプラスチックの中に入れ込むという作業がまだ機械ではできないんです。
また、総入れ歯であっても、歯をどこに置くかとか、膨らみをどのようにするかとか、歯科医師の腕や経験、認識がもとめられる作業は、CAD/CAMシステムでは行えませんね。
義歯の製作は、歯科医師の技量とそれを実現する歯科衛生士さんの技量があって初めて実現できるんですよ。機械は、まだその技量にあたる部分をすべてはマスターしていませんね。
今後は難しい補綴治療もできるように、AI技術は進化していくのでしょうか?
そのためには、歯科医師の正しい認識をデータとして入れ込まなければいけないですよね。
部分入れ歯や総入れ歯を作成する難しさを、AI技術で乗り越えられるように学習をさせている段階ではあります。
ですが、最終的に患者さんに対してアクションを行うのは、歯科医師であるべきだと考えています。そのバックを支えるのが、AI技術やCAD/CAMシステムだと思いますね。
進化するAI技術!新たな取り組み
どのような技術の研究が行われているのでしょうか?
スマートフォンで口内の写真を撮って、虫歯や歯周病かどうかを個人で診断できるようなソフトウェアを研究中です。これは、さまざまな大学が研究を行っているジャンルです。
ただし、個人が自宅で虫歯かどうかの検査ができても、結果的には歯医者さんに行かなければならないということに変わりはありません。
治療方法が変わっていく中で、日本の歯科の状況はどう変わっていくとお考えですか?
2040年には、虫歯や歯周病を撲滅させようというロードマップを発表することになると思います。
歯科医師の目的も、虫歯や歯周病を撲滅させたうえで、年齢を重ねても口腔機能が落ちないように調整し、終末期においても、おいしいものが食べられるような状態にするということになるだろうと考えています。
それが、人生100年時代、健康長寿社会においての、口腔関連の医療者の役割だと思いますね。
虫歯や歯周病がなくなった後での、歯医者さんの役割とはどのようなものになるのでしょうか?
例えば、トゥースウェアという状態があります。欠けたり、摩耗したりすることで、歯がダメになってしまう、うまく噛めなくなってしまうという症状ですね。こういったトゥースウェアを修復するという役割はありますよね。
現状としては、歯のメンテナンスを定期的に受けるということが大切です。
歯の教科書 編集部まとめ
AI技術がどうのように進化しようとも、患者さんを最終的に見るのは歯医者さんであることが望ましいということが分かりました。
また、自宅で虫歯の診断などが行えるソフトウェアなども研究段階であることを知りました。さらに、今後は虫歯や歯周病がない世の中になるよう働きかけられるようです。
しかし、個人で虫歯かどうか確認できても、虫歯のない世の中になったとしても、メンテナンスなどのために歯医者さんの存在は必要であり、定期的な検診を受けることが、何より大切なのだと実感させられました。
2005年3月~2006年2月:東京医科歯科大学院医歯学総合研究科口腔老化制御学分野 助教授
2006年2月~2008年2月:東京医科歯科大学院医歯学総合研究科全部床義歯補綴学分野 准教授
2008年3月~2013年3月:東京医科歯科大学医歯学総合研究科全部床義歯補綴学分野 教授
2013年4月~:東京医科歯科大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野 教授
現在に至る
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