【教授に聞く】5.88倍、タバコを吸うことで上がる歯周病のリスク

歯周病になってしまう原因と、歯周病を悪化させる要因について、日本歯科大学生命歯学部・沼部幸博(ぬまべゆきひろ)教授に解説していただきます。

歯周病を発症させる主な原因や、歯周病になりやすくしたり、症状を進行させたりする要因としてよく知られている喫煙ですが、吸っていない人と比べて、どの程度リスクが上がってしまうものなのでしょうか?

また、“電子タバコ”を吸うことで歯周病にかかりやすくなってしまうのかなど、そぼくな疑問に答えていただきます。

※前回の記事「歯肉の腫れは歯周病の初期!?インプラントでも注意が必要なわけ

この記事の目次

歯周病の主な原因!細菌の巣・デンタルプラーク

歯の教科書 編集部

歯周病を発症させる主な原因を教えてください。

沼部幸博教授

歯周病も虫歯も、原因はデンタルプラークになります。これは、“歯の垢(あか)”と書いて歯垢と呼ばれてもいますが、歯の周りに付着する細菌の巣で、バイオフィルムともいいます。

細菌の巣であるデンタルプラークは、口の中にいる虫歯菌が歯の表面に付着して、砂糖を使って、歯の周りに“ねばねば”とした物質をつくることから始まります。そして、その“ねばねば物質”の中に虫歯菌や歯周病菌などが一緒にすんでいるんですね。

そしてこのデンタルプラークは、歯茎を攻撃して歯周病を起こしたり、歯のかたい部分を酸で溶かして虫歯をつくったりといった悪行をするわけです。

すると歯茎は攻撃されることによって、赤く腫れてくるわけですね。ではなぜ腫れるのかというと、デンタルプラーク中の歯周病菌は歯茎の中に入り込もうとするのですが、それに対抗して我々の体は、白血球を繰り出して戦いを挑むんです。

デンタルプラークの中の歯周病菌と、体の中の白血球が歯茎の中で戦いを繰り広げると、その結果、炎症という形で症状に出ます。これは、口の中だけでなく、ニキビなどに代表されるように皮膚などでも起こっている現象です。

5.88倍!タバコを吸うことで上がる歯周病のリスク

歯の教科書 編集部

歯周病になりやすくする原因に、喫煙があると聞きます。タバコはどのように影響を与えるものなのでしょうか?

沼部幸博教授

「1日あたりの喫煙本数と歯周病の関係」という調査があります。タバコを吸わない人を1とした場合、タバコの本数によってどれほど歯周病になりやすいのかということを調べた研究なんですね。

すると、タバコを吸わない人に比べて、タバコを1日に10~19本吸っている方は2.96倍、31本以上になると5.88倍も歯周病になるリスクが高いということが分かりました。

これが、喫煙が歯周病の大きなリスクファクター(危険因子)と呼ばれるゆえんです。また喫煙は、歯周病をより重症にすることも知られています。

歯の教科書 編集部

禁煙をすることで、歯周病のリスクは下がりますか?

沼部幸博教授

1日に何本吸っていたのか、何年吸っていたのかにもよりますが、タバコをやめることで歯周病の危険性はかなり下がります。

禁煙をすることで、歯周病のリスクが4割減ったというデータもあるんです。

タバコは歯周病だけでなく、ほかのさまざまな病気にかかるリスクも上げますので、禁煙していただくことをおすすめします。

磨かないのではなく、磨けていない!歯周病を誘発する磨き残し

歯の教科書 編集部

歯周病で歯医者さんを訪れる患者さんには、やはり喫煙者が多いのでしょうか?

沼部幸博教授

昔はヘビースモーカーの方が多くいらっしゃって、気付いたら「歯が抜けちゃったよ」と、おっしゃる場合もあったのですが、最近は少ないですね。

喫煙はあくまでも歯周病を発症させたり、重傷化したりするリスクファクターであって、直接的な原因は先ほどの歯の表面に付着したデンタルプラークなんです。

歯周病にかかってしまう方の大半は、口腔清掃がうまくいってなくて、歯磨きでデンタルプラークが十分取り除かれていない場合が多いです。これは普段磨いていないのではなく、正しく磨けていないんですね。

毎日の歯磨きを朝・昼・晩と行っている患者さんでも、お口の中を拝見してみると汚れであるデンタルプラークが残っていることがあります。汚れを取るべきところに歯ブラシがきちんと当たっていないんですね。

なので、歯周病の患者さんの治療というのは、まず歯の磨き方の指導から始めます。「そんなの知ってるよ」という方でも磨けていないことが多いので、歯周病の予防・治療には正しい磨き方を覚えていただくことが大切になるんですね。

話を戻しますと、タバコというのは、歯周病のリスクを高める存在ですが、歯周病になっている人に喫煙者が多いかというとそういうことでもありません。やはり、お口の中の汚れの状態が第一に関係します。

リスクは未だ不明!電子タバコの危険性

歯の教科書 編集部

電子タバコの場合は、紙のタバコを吸うより歯周病リスクは低いですか?

沼部幸博教授

誤解されがちなのですが、皆さんが“電子タバコ”と呼んでいるのは、加熱された部分に葉タバコのフィルターを押しつけて吸引しているものではないでしょうか。これは電子タバコではなく、加熱式タバコで、ニコチンを含んでいます。

電子タバコというのは、バッテリーがあって、そこにリキッドがあり、発生した成分を吸い込むというものです。日本ではニコチンの成分が入った物は売られていません。

これらは、最近出てきたものなので研究データが少ないんです。紙巻きタバコと比べて、歯茎に対して害が強いのか、弱いのかもよく分かってはいません。ただ、加熱式タバコもニコチンを吸引しますので、害はあると思われます。ですので、我々としましては「健康に対する害がよく分かっていないものを吸われるのですか?」と提言し、おすすめすることはありませんね。

アルコールと歯周病の関係性

歯の教科書 編集部

アルコール類は歯周病と関係はあるのでしょうか?

沼部幸博教授

お酒は歯周病とは直接的に関係していません。ですが、毎日深酒をしてしまって歯を磨かないで、お口の中が汚れたまま寝てしまうということがないようにしてください。

歯の教科書 編集部まとめ

タバコを1日に31本以上吸うことで、歯周病発症のリスクが5.88倍も上がるというお話には驚きました。

しかし、禁煙をすることでその危険性は低下していくようです。

また、紙巻きタバコに代わる加熱式タバコや電子タバコですが、リスクが明らかになっていない状態のものを吸うこと自体に、リスクがあるのかもしれません。

日本歯科大学 生命歯学部 歯周病学講座
沼部幸博教授監修
経歴・プロフィール

1983年3月:日本歯科大学歯学部卒業
1987年3月:日本歯科大学大学院修了(歯学博士)
1987年4月:日本歯科大学歯学部歯周病学教室 助手
1989年4月:日本歯科大学歯学部歯周病学教室 講師
1989年9月:カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)歯学部 客員講師(〜1991年)
1993年4月:日本歯科大学歯学部歯周病学教室 助教授
2005年6月~:日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座 教授
2018年4月~:日本歯科大学生命歯学部 学部長
現在に至る

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執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。