「ロイテリ菌」という言葉を聞いたことはありませんか?口腔内や胃腸の健康に役立つとして注目されている細菌です。
近年、ロイテリ菌を使って虫歯や歯周病を予防する「バクテリアセラピー(※)」なども知られるようになってきました。
この記事では、ロイテリ菌がどんな細菌か、私たちの体内でどう作用するのか、ロイテリ菌を使ったバクテリアセラピーのメリット・デメリットは何かなどを紹介していきます。
※スウェーデンで生まれた予防医療です。本記事で紹介する「ロイテリ菌を用いた虫歯・歯周病予防」もバクテリアセラピーに含まれます。善玉菌を活用して健康の増進や改善を図ることをプロバイオティクスと呼ぶこともありますが、本記事ではバクテリアセラピーとして紹介します。
この記事の目次
1.ロイテリ菌ってどんな細菌?本当に虫歯や歯周病予防になる?
1-1 ロイテリ菌はヒトの体内に存在する善玉菌
ロイテリ菌は、正式名称を「ラクトバチルス・ロイテリ菌」といいます。
ラクトバチルスを略して「L.ロイテリ菌」と書くこともあります。
乳酸菌の一種で、1900年代後半から研究が進められてきました。
ロイテリ菌は、もともと私たちヒトの消化管や母乳などにも存在している細菌です。
細菌は善玉菌、悪玉菌、日和見菌などに分類されますが、ロイテリ菌はそのうち、体内で人体に対して有用な働きをする善玉菌に分類されています。
善玉菌を用いて体内の細菌バランスを良好に保ち、健康増進を図ることを「バクテリアセラピー」と呼ぶことがあります。
ロイテリ菌を使ったバクテリアセラピーには、次のようなメリットやデメリットがあります。
メリット | デメリット |
・虫歯菌や歯周病菌を減らしてくれる ・口臭予防にもつながる ・ピロリ菌を抑制する作用も期待できる ・副作用の心配がほとんどない など |
・効き目が出るまでに時間がかかることがある ・虫歯や歯周病が治るわけではない ・ランニングコストがかかる など |
次の章では、それぞれのメリット・デメリットをもう少し詳しく解説します。
2.ロイテリ菌によるバクテリアセラピーのメリット・デメリット
2-1 メリット
■ロイテリ菌には虫歯菌や歯周病菌を減らす作用がある
さまざまな研究結果から、ロイテリ菌には、口の中にいる虫歯菌・歯周病菌を抑制する働きがあることが分かってきました。
ロイテリ菌は、体内で「ロイテリン」と呼ばれる天然の抗菌物質を作り出します。
ロイテリンには、善玉菌には影響を与えず、虫歯菌・歯周病菌をはじめとする複数の悪玉菌などが増えるのを抑える働きがあります。
そのため、ロイテリ菌が多くいる口腔内は「目覚めたときの口内のネバネバ感が減る」など、衛生的な環境になりやすいと言われています。
■口臭予防にもつながる
歯周病菌は、硫化水素やメチルメルカプタンなど、口臭の元になるガスを発生させます。
ロイテリ菌の作用によって歯周病菌が減ることで、口臭の予防・改善につながると言われています。
■ロイテリ菌は胃や腸でも作用する
ロイテリ菌には、胃炎や胃潰瘍、胃がんなどの原因にもなることがある「ピロリ菌」を抑制する作用や、腸内の悪玉菌を減らし、善玉菌を増やす働きも知られています。
口腔環境を整える働きに加えて、腸内の細菌バランスを良好に保ち、便秘・下痢などを改善する働きも期待されています。
■副作用などのリスクはほとんどない
ロイテリ菌は、もともと私たちの体に存在しているヒト由来の細菌であり、薬ではありません。
現在までにロイテリ菌によって副作用が起こったという報告はないと言われています。
2-2 デメリット
■効き目が出るまでに時間がかかることがある
ロイテリ菌が口腔内に定着するまでの時間には、個人差があると言われています。
数週間程度で定着する人もいるようです。
また、ロイテリ菌の作用には即効性がないとされているため、短期間では十分な効果が得られないことも考えられます。
■進行した虫歯や歯周病が治るわけではない
ロイテリ菌を使ったバクテリアセラピーが、虫歯や歯周病予防を目的としていることからも分かるように、ロイテリ菌自体に虫歯や歯周病を治す働きはありません。
進行した虫歯や歯周病を改善するには、歯医者さんを受診して歯を削る、歯石を除去するといった処置を受けることになります。
■ランニングコストがかかる
ロイテリ菌は、歯磨きやうがいで流れたり、口腔内の細菌のバランスが変化して数が減ったりします。
生きた細菌なので、死んでしまうこともあります。
衛生的な口腔環境を維持するには、ロイテリ菌が定着してからもコンスタントに摂取することになるため、ランニングコストがかかります。
具体的な価格の目安については3章で紹介します。
3.ロイテリ菌によるバクテリアセラピーを始めるには
3-1 ロイテリ菌はサプリメントやヨーグルトから摂取できる
ロイテリ菌は、サプリメントやヨーグルトから容易に摂取できます。
サプリメントは、1日1~2錠程度を水なしで口に含んでゆっくりなめたり、舌の上で自然に溶かしたりして、口腔内にロイテリ菌を広げるのがベーシックです。
サプリメントを選ぶときは、どのような許可を受けている製品か、配合量、添加物などを確認したうえで、使用上の注意を守って摂取するようにしましょう。
また、最近ではロイテリ菌を含んだヨーグルトも販売されています。
ヨーグルトには、ビフィズス菌やブルガリア菌をはじめさまざまな乳酸菌が含まれています。
その中でもロイテリ菌が含まれているものを選びましょう。
価格の目安は次の通りです(※)。
サプリメント | ヨーグルト |
30粒3000円前後~ | 1個150円前後~ |
継続するためのコストはかかりますが、比較的購入しやすい価格帯が多いようです。
サプリメント、ヨーグルトいずれも「なめる」「食べる」だけのため、始めやすく継続しやすいといった特徴があります。
※2018年12月歯の教科書編集部調査
3-2 ロイテリ菌が働きやすい状態を作ることも大切
ロイテリ菌の抗菌作用を十分に得るためには、毎日の歯磨きをきちんとおこない、歯垢(プラーク)を溜め込まないようにすることが大切です。
ロイテリ菌には歯垢を除去する働きはないためです。
せっかくロイテリ菌が虫歯菌や歯周病菌を減らしても、口腔環境が不衛生ではすぐに増殖してしまいます。
また、ロイテリ菌は虫歯菌などと同じ細菌です。
そのため歯磨きや殺菌作用の高い洗口液などで洗い流されてしまうことがあります。
歯磨きの後に摂取したり、うがいから少し時間をあけて摂取したりするなど、ロイテリ菌が働きやすい状態を作ってあげることも心がけましょう。
4.まとめ
ヒト由来の乳酸菌であるロイテリ菌は、虫歯菌や歯周病予防のほか、腸内環境を整える働きも期待されています。
虫歯・歯周病予防を目的としたバクテリアセラピーを取り入れている歯医者さんも出てきています。
患者さんの口腔環境に応じてロイテリ菌のサプリメントを提案してくれることもあるようです。
興味がある人は、予防歯科に力を入れている歯医者さんに相談してみましょう。
ロイテリ菌がその力を十分に発揮できるように、毎日の歯磨きをしっかりおこなうなど、できるだけ悪玉菌を増やさないような生活を心がけましょう。
最近話題になっている菌活。ヨーグルトなどはお腹に良いとイメージしやすいかもしれませんが、善玉菌を増やすことは体全体にとって良いことと思えば理解しやすいかもしれません。
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。