夜に限って歯が痛くなる!その理由や治療法、応急処置を紹介【歯科医師監修】

「夜になると歯が痛む」「寝ているときに歯が痛くなる」と訴える人がいます。「就寝中に限って、歯の痛みで目が覚めることが何日か続く」といったケースもあるようです。

なぜ、寝ているときに歯が痛くなるのでしょうか?

この記事では、夜に歯が痛いという人に向けて「夜間に歯痛が起こる主な原因と治療法・応急処置」「夜間に歯痛が悪化しやすい理由」などを解説しています。なお、記事では市販薬の服用についても触れています。市販薬を使用する際には薬剤師の指示に従い、用法用量を守って使用してください。

この記事の目次

1.夜に歯が痛いとき、考えられる原因と治療法・応急処置

1-1 虫歯に起因する歯髄炎

虫歯が悪化し、歯髄(しずい=神経がある部分)に達すると「歯髄炎」と呼ばれる炎症を起こします。

炎症によって血流が増加するため、神経が圧迫されて強い痛みを覚えます。血管が膨張するごとに痛みが強まるので、ズキズキと一定のリズムを刻む典型的な「拍動痛(※)」をともないます。

※脈拍に合わせてズキズキと痛むのを拍動痛(はくどうつう)と呼んでいます。拍動痛が見られる場合、歯の内部にある血管が膨張して、血液が流れるたびに神経を圧迫していることが考えられます。

【歯髄炎の治療法・応急処置】

歯髄炎を起こすのは「C3」と呼ばれる段階で、かなり進行した虫歯です。歯医者さんで歯髄を抜く処置(抜髄)をおこない、歯の内部を無菌化(※)する「根管治療」がよく行われます。夜中に痛み出した場合、朝まで我慢しなければならないことも多いです。

自宅でできる応急処置は、市販の痛み止めを服用することと、患部を冷やすことです。患部を冷やせば、血流が低下するので拍動痛の軽減が期待できます。

ただし、歯に直接、冷たいものがあたると悪化することがあるため、頬の上から冷やすのが基本です。氷を口の中に含むといった方法は、かえって痛い思いをすることも多いため控えましょう。

※歯医者さんでは、再感染を防ぐための処置を施してくれますが、一度感染した根管(こんかん=歯の神経や血管などが通っている管)は、全くの無菌化が困難と言われています。そのため、根管治療をおこなった歯は再感染のリスクがあります。

1-2 虫歯に起因する根尖性歯周炎

過去に歯科治療で神経を抜いた場合、その歯には神経がありません。また、虫歯が悪化した場合、神経が死んでしまうことがあります。こういった事情で神経が失われた歯を「失活歯(しっかつし)」と呼んでいます。

失活歯の虫歯がさらに悪化するか、失活歯で虫歯が再発した場合、痛みを感じることはほとんどありません。そのため、気づかないうちにどんどん進行していきます。

歯の内部に進んだ虫歯菌は、やがて根尖(こんせん=歯の根の先端)に到達し、歯茎の内部や顎の骨などに炎症を起こします。この、根尖付近の炎症を「根尖性歯周炎」と呼びます。歯茎には神経があるので、炎症が起こると痛みに襲われます。

歯茎が腫れ、膿が溜まるなどすれば、内部からの圧迫で激痛をともなうこともあります。やはり、血管が膨張したときに痛みが強まる傾向があるので、拍動痛が見られます。

【根尖性歯周炎の治療法・応急処置】

根尖性歯周炎を起こしている場合は「感染根管治療」をおこない、歯の中にある感染組織を除去します。その後、再感染を防ぐための薬剤を詰めて、無菌状態の維持を試みます。

感染根管治療で無菌化することが難しければ、さらに「歯根端切除術」を実施します。

歯茎を切開して歯根を露出させ、歯根の先端1~3mm程度を切り取ります。そして、歯根の切断面から薬剤を詰める「逆根管充填」をおこない、内部の無菌化を目指します。

夜中に痛くなった場合の応急処置ですが、有効な手段は市販の鎮痛薬を飲むことくらいです。医療用と同じ鎮痛成分(ロキソプロフェン)を主成分とする鎮痛薬がおすすめです。

1-3 歯ぎしりによる咬合性外傷

就寝中に歯ぎしりをする癖があると、歯の痛みで目覚めることがあります。歯ぎしりの負荷により、歯根膜などの歯周組織が炎症を起こすことがあるからです。

細菌感染をともなわない歯根膜の炎症を「単純性歯根膜炎」と呼びます。単純性歯根膜炎に代表されるような物理的負荷によるトラブルの総称を「咬合性外傷」と言います。

歯ぎしりが原因の咬合性外傷の場合、拍動痛よりも咬み合わせた瞬間に強く痛む・冷たいものがしみる、といった痛み方が特徴です。

【咬合性外傷の治療法・応急処置】

歯ぎしりが原因であれば、マウスピースを用いる方法があります。就寝時にマウスピースを装着することで、歯にかかる物理的な負荷が分散され、歯や歯周組織が受けるダメージを軽減できます。歯医者さんでは、自分の歯並びや歯の形に合ったマウスピースを作製してもらうことができます。

痛みが生じた場合の応急処置としては、鎮痛剤を飲むことで様子を見ましょう。歯ぎしりが度重なると歯周病を誘発することもあるので、早めに歯医者さんを受診しましょう。

1-4 その他の原因による歯の痛み

夜に歯が痛くなるのは、虫歯や咬合性外傷によるものが多いですが、その他にも次のようなことが原因となり、夜に歯が痛くなることがあります。

【その他に考えられる原因と治療法・応急処置】

・歯周病の急性症状
歯周病が進行して歯周炎を起こし、歯茎の炎症が急激に生じた場合、歯茎の腫れや出血のほか、激しい痛みをともなうことがあります。特に、体調不良などで免疫力が低下しているときに起こりやすくなると言われています。

歯周病は放置してしまうと歯が抜け落ちてしまいます。歯茎の腫れや出血をともなう痛みであれば、歯医者さんを受診して歯周病かどうか診断してもらいましょう。夜に痛み出したときは、市販の鎮痛薬を服用して様子を見ましょう。

・親知らずによる刺激
親知らずがまっすぐに生えていない場合、あごの神経や歯茎、隣り合う歯などを刺激して痛むことがあります。

親知らずについては、抜歯するかどうかも含めて慎重に検討することが大切です。まずは歯医者さんを受診して相談しましょう。夜や寝ているときなどに痛み出した場合は、鎮痛薬を服用したり、患部を外側から冷やしたりしましょう。

また、親知らず周辺は食べカスなどが溜まりやすく、不衛生になりがちです。歯磨きに加えて、ワンタフトブラシといったケア用品を併用するのもおすすめです。

・歯の破折
歯が割れたり欠けたりして神経が刺激を受け、痛みが出ている場合があります。

歯医者さんを受診して、ひびや割れが悪化するのを防ぐための処置を受けましょう。夜に強く痛みが出た場合は鎮痛薬を飲んだり、頬を冷やしたりしましょう。

2.夜に歯が痛くなる理由とは?

2-1 首から上への血流が増加する

眠っているときは身体を横たえています。そのため、重力の関係上、立っているときや座っているときと比べて頭部への血流が増加します。その結果、血管が膨張して神経を圧迫し、拍動痛が起こりやすい状況になります。血流が増えるほど、血管は膨張しやすくなるからです。

2-2 副交感神経優位の状況になる

人間の自律神経系には、交感神経と副交感神経の2つがあります。活動時には交感神経が、リラックス時には副交感神経が優位になります。眠っているときにはリラックスしているため、副交感神経が優位な状況になります。

副交感神経が優位になると、人間の身体には「体温上昇」「血流増加」などの変化が現れます。血流が増加すれば、それだけ血管は膨張しやすくなるため、神経が圧迫されて拍動痛が起こります。

2-3入浴などで血流が良くなる

お風呂に入ったりベッドに入ったりすると血流が良くなり、体温が上昇します。一時的なものですが、血流の増加によって血管が膨張し、拍動痛が起こりやすくなります。

3.まとめ

夜、歯が痛いという人はさまざまな原因が考えられます。すぐに歯医者さんに行けないときは、この記事で紹介した応急処置を試して様子を見ましょう。

歯髄炎や根尖性歯周炎を起こしている場合、悪化すると抜歯になってしまうケースもあります。朝までに痛みが引いたという場合もそのままにせず、できるだけ早い段階で歯医者さんを受診することをおすすめします。

経歴

1980年 岐阜歯科大学 卒業
1980年 (医)友歯会ユー歯科 箱根、横浜、青山、身延の診療所に勤務
1984年~1994年 アクアデルレイ ダイビングショップ 非常勤スタッフ
1985年 コージ歯科 開業
1996年 日本大学松戸歯学部生化学教室研究生
~2002年 歯学博士
2014年 昭和大学  客員講師
現在に至る

医院情報
住所:東京都葛飾区お花茶屋2-5-16
電話:03-3601-7051

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。