【専門家に聞く】コロナ禍の収入減が歯痛に影響|精神的ストレスとの関連性についても解説(後編)

2021年4月、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野 助教 松山祐輔先生がThe Japan COVID-19 and Society Internet Survey(JACSIS)の一環として研究した「経済状況の悪化と歯痛の関係性」について論文を発表しました。

前編はこちら

この記事では「経済状況の悪化と歯痛の関係性」について、なぜ経済状況が悪化すると歯痛が起きるのかということに着目し、松山先生に解説をしていただきます。

この記事の目次

収入減による精神的ストレスが歯の痛みに寄与する可能性

歯の教科書 編集部
改めて世帯所得の減少と歯痛の関係について詳しく教えてください
松山祐輔 先生
今回の調査では「コロナ禍で世帯収入が減少した人はそうでなかった人より1.4倍歯の痛みを感じる」ということが明らかになりました。

また、世帯収入の減少以外にも、「仕事が減少した」という人(回答者の19.5%)はそうでない人に比べ1.6倍、「失業した」という人(回答者の1.1%)の場合は2.2倍、痛みを感じている割合が多いという結果が得られています。

この研究では経済状況の悪化と歯痛の関係性だけでなく、「コロナ禍における世帯収入の減少が歯の痛みに至る理由」を明らかにする分析も行いました。

歯の教科書 編集部
具体的にはどのような要因があったのでしょうか?
松山祐輔 先生
「世帯収入の変化」と歯痛の関係性に特に着目し詳細な分析をしました。

その結果、精神的ストレスが約21%、歯科受診の延期が約12%、間食が約9%、歯痛に寄与しているということがわかりました。

精神的ストレスがあるせいで間食が増えるなど、複雑な関係性があると考えられますが、この結果はこれらの要因に対処することで歯痛を予防できる可能性を示しています。

精神的ストレスはなぜ歯痛を引き起こす?

歯の教科書 編集部
精神的ストレスで歯が痛くなるというのはよくあることなのでしょうか?
松山祐輔 先生
今回の研究では「痛みの有無」だけを聞き取っており、痛みの具体的な原因までは調査していませんが、例えばストレスによって歯ぎしりや食いしばりがおき、歯茎に過度な力がかかることによって、痛みを感じることなどが想定されます。

あるいは精神的ストレスがかかって免疫が低下したことにより、歯周病の炎症が進行して痛みが出るという可能性もあると思います。

コロナ禍の長期化による歯痛以外への影響

歯の教科書 編集部
歯痛以外にも、このままコロナ禍が長引くことによって懸念される「健康への影響」はありますか?
松山祐輔 先生
コロナ禍で人との交流が制限された状態が長く続くことで、メンタルヘルスの悪化はもちろん懸念されます。今回の研究でも示されましたが、口腔と精神的な健康状態は互いに関係し合っているので、歯痛以外の口腔疾患にも影響があるかもしれません。

特に社会的に弱い立場の人ほどコロナ禍の影響を受けやすく、健康への悪影響も大きい可能性があり、継続的に研究していくべきところと考えています。

歯の教科書 編集部
このような状況の中で私たちが歯痛の予防としてできること、その他気をつけるべきことを教えてください
松山祐輔 先生
例えば、食いしばりにより歯の痛みを感じている人は、パソコンの画面の付近など、「普段自分の目に付くところなどに付箋を貼っておいて、その付箋が目に入ったら上下の歯を離して食いしばりを解くようにする」など、意識するきっかけを作るようにすると良いでしょう。

また、家にいる時間が長くなると、ついつい間食が増えてしまうかもしれませんが、砂糖を含まないものに変えてみるといった対策ができるかと思います。もちろん、フッ化物入りの歯磨き粉を使うなど、虫歯予防の対策はコロナ禍であっても続けると良いでしょう。

オンライン通話などを利用して誰かと話すことで人との交流を保ち、ストレスを溜め込まないようにすることは歯痛の予防のためにも良いのではないかと思います。

歯の教科書 編集部
松山先生が考える、今後の研究課題を教えてください
松山祐輔 先生
今回の研究を発展させ、コロナ禍の口腔の健康への長期的な影響を明らかにしたいと考えています。例えば「痛み」という主観的なものだけではなく、「虫歯」の本数がどうなったかなどについても調べていきたいです。

また、「口腔と全身の健康の関係性」についても関心があります。

たとえ口腔状態と全身の健康に関係があったとしても、共通のリスク因子をみてしまっている可能性があります。口腔状態が本当に全身状態に影響を与えているかを精緻にみていき、その影響の大きさを明らかにしたいと考えています。

歯の教科書 編集部まとめ

前編に引き続き、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 助教の松山先生に、コロナ禍における収入の減少と歯痛の関係性について詳しくお伺いしました。

歯痛の原因の一つとして、精神的ストレスにより食いしばりが起きることが挙げられました。認知行動療法的な手法を取り入れ、食いしばりに気づくきっかけを作ることが大切です。

またこれまでもさまざまな有識者の方が提言しているように、できる限り社会とのつながりを保つこと、ストレスの発散方法を見つけることで、心身の健康を保っていきましょう。

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
松山 祐輔助教監修
経歴・プロフィール

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野 助教

【略歴】
2017年3月 東北大学大学院歯学研究科 国際歯科保健学分野 博士課程 修了
2017年4月 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野 日本学術振興会特別研究員(PD)
2017年5月 Radboud university Department of Quality and Safety of Oral care Visiting Researcher
2018年5月 University College London Visiting Researcher
2019年1月 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野 助教

ドクター詳細ページへ

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。