【教授に聞く】口を閉じるときに歯まで閉じるのは間違い!歯ぎしりや食いしばりは顎関節症の原因になることも

いわゆる歯ぎしりや食いしばり(噛みしめ)など、歯と歯を接触させてしまう無意識の癖をブラキシズムといいます。

無意識の歯ぎしり、食いしばり(噛みしめ)は、コロナ禍で新しい生活様式への転換が求められる中、変化に順応しきれない体からの、一つのサインといってよいでしょう。

この記事では、昭和大学 歯学部 教授の馬場一美先生に、ブラキシズム(無意識の歯ぎしり、食いしばり)を放置すると起こるリスクについて詳しく伺います。

この記事の目次

歯ぎしりも食いしばりも「ブラキシズム」という症状の一種

歯の教科書 編集部
ブラキシズムとはどんな状態のことをいうのでしょうか?
馬場一美 教授
ブラキシスムというのは「機能的な運動以外の顎や口の運動」のことをいいます。

具体的にいうと、グラインディングという運動(歯ぎしり)、カチカチと歯を合わせるタッピングという運動、そしてグーっと噛みしめるクレンチングという運動(食いしばり)、大きくいうとその三つに分けられます。

例えば噛み砕いたり会話したりと、口には本来やるべき運動(合目的な運動)があります。反対に目的がないように見える運動のことを「非機能的運動」といいますが、ブラキシスムはその一つです。

睡眠中のブラキシスム(歯ぎしり、食いしばり)を睡眠時ブラキシズムと呼び、起きているときに起こるものを覚醒時ブラキシズムと呼びます。

その中でもタッピングはあまり大きな問題にはなりにくいですが、グラインディング(歯ぎしり)とクレンチング(食いしばり)は結構大きな問題となります。

ブラキシズム(歯ぎしり、食いしばり)を放置すると起こりうるリスク

歯の教科書 編集部
歯ぎしりや食いしばりを放置するとどのような問題が起こるのでしょうか?
馬場一美 教授
グラインディング(歯ぎしり)が起こると歯が減ります。セラミックが欠けることもあるでしょう。そしてなんといっても音がしますよね。グリグリと音がして、奥さんや兄弟など同室の人の睡眠を妨げますよね。

クレンチング(食いしばり)の場合、音はしないですが、違う言い方をすると、グーっと静止状態で筋肉が収縮し、ものすごい大きな力が出ます。

起きているときに人間が出せる最大の力、噛む力を「最大咬合力」といいますが、だいたい自分の体重と同じくらいの力が出ます。それが人によっては、睡眠している間に起きているときの最大咬合力よりも大きな力が出ることがあるのです。

それはなぜかというと、起きているときには「思いっきり噛むと歯が折れるんじゃないか」とか「痛い」とか調節がかかりますが、寝ている間は無意識でそのような調節はききませんので、ものすごい大きな力がかかりうるのです。

そのため、クレンチングが続くと、重篤な場合には歯が折れることがあります。歯の根っこが折れてしまうと抜歯、つまり歯を抜かなくてはいけなくなります。

またインプラント治療期間中であれば、手術をした後にインプラントが骨にオッセオインテグレーションする、つまりくっつくときにブラキシズムが起こると、その力によってインプラントが骨にくっつかないということもあり、インプラントの失敗にも関係します。

口を閉じるときに歯まで閉じるのは間違い!歯を閉じていると顎関節症の原因にも

歯の教科書 編集部
起きているときにも食いしばりが起こることはありますよね
馬場一美 教授
ブラキシズムは、睡眠時だけでなく、覚醒時ブラキシズムといって起きている間にも起こります。

覚醒時に起こるブラキシズムの一つに、グーっと力を入れて噛みしめるクレンチング(食いしばり)が挙げられます。

これは緊張したりだとか運動したりするときに起こり、例えばゴルフでティーショットを打つときに噛みしめるかもしれないですし、格闘技の選手も食いしばりますよね。

そして覚醒時のブラキシズムとしてもう一つ挙げられるが、そんなに力を伴わなくても歯が接触しているだけという状態です。

歯の教科書 編集部
口を閉じるときに、歯も閉じてはいけないということですか?
馬場一美 教授
「歯は接触しているべき」と思われている方が多いですが、これは間違いです。よく「口をぽーっと開けて!」なんていいますよね。ところが唇は閉じておかないと口の中が乾燥してしまいますが、歯まで閉じている状態というのは、実は正常ではないのです。

あごがリラックスしているときには上下の歯の間にはスペースがあります。歯と歯を接触させる癖ができてしまうと為害作用があり、例えばかなり治りにくい顎関節症をもつ方の7割が、上下の歯を接触する癖「Tooth Contacting Habit(通称:TCH)」をもっているといわれています。

歯の教科書 編集部
上下の歯が接触している状態がよくないということは初めて知りました
馬場一美 教授
ブラキシズムには大きく分けると睡眠時ブラキシズムと覚醒時ブラキシズムがあり、睡眠時ブラキシズムはグラインディング(歯ぎしり)、クレンチング(食いしばり)、タッピングに分けられます。覚醒時ブラキシズムについてはクレンチング(食いしばり)とTCH(上下の歯を接触する癖)に分けて考えると整理がつくでしょう。

それぞれの為害作用をまとめていうと、基本的にはどれも不必要に力がかかりますので、歯にも悪い影響がある、補綴した歯(特にセラミック)が欠けるということもある、そして歯根が割れるということもあるでしょう。歯根が割れると抜歯するしかありません。加えて歯周病の悪化因子、増悪因子になりうるという為害作用もあります。

そして顎関節症にも影響します。顎関節症というのは、口が開かなくなる、あごの周辺の筋肉に痛みがある、顎関節に痛みが出るという病気ですが、その原因にもなるといわれています。

ブラキシズム(無意識の歯ぎしり、食いしばり)を放置すると、あご周り、お口周りのほとんどすべての器官に対して悪影響があるということです。

歯の教科書編集部のまとめ

この記事では昭和大学 馬場一美教授にブラキシズム(無意識の歯ぎしり、食いしばり)とはどのような症状か、放置すると起こりうるトラブルなどについて詳しくお伺いしました。

下記の記事ではブラキシスムが起こる原因と、対処法について詳しく解説していただきます。

昭和大学歯科病院 昭和大学歯学部歯科補綴学講座
馬場一美教授監修
略歴・所属

1986年:東京医科歯科大学歯学部 卒業
1991年:東京医科歯科大学大学院 修了(歯学博士)
1991年:東京医科歯科大学歯学部附属病院 医員
1994年:東京医科歯科大学歯学部 助手(歯科補綴学第一講座)
1996-1997年:文部省在外研究員米国UCLA
2001年:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 助手
2002年:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 講師
2007年:昭和大学歯学部歯科補綴学講座 教授 (現職)
2013年:昭和大学歯科病院副院長
2019年: 同 病院長・昭和大学執行役員

日本補綴歯科学会 常任理事(副理事長)
日本歯学系学会協議会 常任理事
日本デジタル歯科学会・日本顎口腔機能学会・日本顎関節学会・国際補綴学会(ICP):理事

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執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。