昭和大学・歯学部・歯周病学講座・山本松男教授に歯周病と、歯周病に関係する病気について伺いました。
近年の研究から歯周病は、24時間ずっと全身に影響を与えているかもしれないということが分かってきているようです。
また、歯周病と妊娠している女性の関係性や、予防についても説明していきます。
前回の記事「【教授に聞く】歯周病を悪化させる原因!タバコやお酒、ストレスも関係?」
この記事の目次
山本松男教授に聞く!歯周病が起こす体の不調
Q1.歯周病の進行具合は自身で判断できますか?
多くの方が歯周病に気づくきっかけは、歯茎の腫れですよね。しかし、症状がだいぶ進行してしまっていて、歯が“ぐらぐら”と揺れ出してもおかしくないころに腫れるということもあるんです。想像以上に進んでいることが多いのが特徴です。
ですから、よく歯ブラシをしていただき、歯ブラシに少しでも血がにじんでいるかどうかに注目していただきたいですね。ですが、歯肉炎のときでも歯周炎のときでも、毎回血が出るかというと、そうでもないかもしれません。なので、歯磨き粉の白い泡をよく見ていただき、赤っぽい、黄土色っぽくなっているなど観察することが大切です。
Q2.歯科衛生士さんに「歯茎にたまっている血は、歯周病菌のえさになっているので、よく出しましょう」と言われたことがあります
いろいろな言い方、言い回しをして患者さん一人ひとりに歯磨きの意識を持ってもらい上手になってもらおうという理由が考えられます。
その歯科衛生士さんがおっしゃったように、歯周病菌の中でもよく知られているポルフィロモナス・ジンジバリス(PG菌)というのは自分が成長するために鉄原子を欲しています。
鉄原子は、僕たち人間や動物が持っている赤血球の中に入っているヘモグロビン、このヘモグロビンの中心に鉄の原子が入っているんですね。どうもそれをうまく分解して栄養源にしているということが分かっています。
そして、PG菌というやつは出血させやすいような毒素を持っていたりします。PG菌は、歯肉炎のときからいる場合がありますけれど、歯周炎になるとかなり多くはびこっています。そのため、PG菌に起因する出血が起こりやすいということがあるかと思いますね。
かといって、昔の「瀉血(しゃけつ)」のように血を出して症状を治めるということではありません。歯科衛生士さんは、容易に出血しやすい状態で怖くなっても「歯ブラシを止めてはダメですよ」ということを伝えたくて、「悪い血を出してしまいましょう」という表現の工夫をしたのかもしれません。
私たち医療従事者が共通して意識していることは、患者さんが症状の原因になっている歯の磨き残しを「毎日ブラシできれいに払いのけてくれるようになってほしい」ということです。
「丁寧に磨いてください」という言葉だけでは、患者さんの心に残りにくい。そのため、私たちは患者さんの心に残るようなフレーズをいろいろと工夫して持っているんですよ。
言いたかったことは「歯磨きを丁寧にしていただき、歯と歯肉の境目のところによくブラシが行き届くようにしてください。結果的には血が出てしまうかもしれないけれど、一週間単位でよくなっていきますよ」ということだと思います。歯間ブラシやデンタルフロスも同じことです。
Q3.歯周病は、全身疾患につながることがあるのでしょうか?
ここ20年くらいの研究で、歯周病が体の病気に影響していることが分かってきました。
歯周病は、あるときひどくて、あるとき治まってという緩急を繰り返して進行していきます。
ですが、炎症はずっと続いているんですね。これが、口以外のところに影響を与えているということが分かってきました。
体のけがをしたときの炎症、お腹が痛いときの炎症など、体というのは炎症が起こっているときに炎症物質を送っているんです。歯周病がある長い期間、この炎症物質が絶えず、血液の中に供給されているんですね。
例えば糖尿病をわずらっている場合、肝臓や脂肪細胞の中で炎症物質が取り込まれてしまい、炎症を悪くさせてしまうということが考えられます。
口の中で痛みや腫れがあらわれたり、治まったりしたとしても、体の方は24時間ずっと影響を受けている。そんな怖いことも分かってきました。
Q4.妊婦さんにも歯周病は影響を与えるのでしょうか?
妊娠されている女性の方で、ひどい歯周病を持っている場合、早産を引き起こしてしまう可能性があります。早産になってしまうと、必然的に低出生体重児になってしまうという問題がありますね。
海外での報告もあり、国内でも調査が行われていますが、どうも口の中にひどい炎症がある場合、炎症物質が血中に乗り、子宮の方に行くのではないかと推測されています。歯周病を治したら完全に防げるという結論には至っていないのですが、丁寧なブラッシングをしていただきたいです。
妊娠性の歯肉炎という症状も頻度は高いです。これはホルモンバランスの変化によるものです。妊娠の初期のころに歯茎がすごく腫れてきたり、痛くなったり、出血したりするという方がいます。
丁寧なブラッシングをすることで、多くの場合、出産後には治まっていくことがほとんどです。ですからあんまり心配されなくてもいいんですけれど、できれば歯科医師、歯科衛生士に妊娠していることを伝えて相談してください。適したアドバイスを差し上げられると思います。
まとめ
歯周病が緩やかに進行している中、炎症物質というものが24時間体中に供給されているという、怖い事実が分かりました。
妊娠されている女性の方は、早産の危険性もあるということです。丁寧なブラッシングでケアをするということが大切だと聞くことができました。
また、歯医者さんは患者さんのブラッシング向上のために、心に残るようなフレーズの工夫をしているということが印象的でした。
平成4年 東京医科歯科大学歯学部卒業
平成8年 東京医科歯科大学大学院修了・博士(歯学・歯周病学)
平成9年 米国アーカンソー州立医科大学内分泌部門・骨粗鬆症センター(ポスドク)
平成12年 鹿児島大学歯学部助手(歯周病学)
平成14年 鹿児島大学生命科学資源開発研究センター助教授
平成17年 昭和大学歯学部教授(歯周病学)
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