4回にわたり東京歯科大学 水道橋病院口腔外科 山本信治先生に口腔がんやインプラント、顎関節症など歯科口腔外科の診療内容についてお話しいただきました。
今回は、歯科口腔外科の相談内容でも多いと言われる「親知らず」について解説していただきます。治療を検討している方はぜひ参考にしてください。
前回までの記事:
歯科口腔外科ってどういう診療!?口内炎と口腔がんの見分け方も解説
インプラントや入れ歯のメリット・デメリット!抜けた・欠けた歯をどう対処する
顎関節症4タイプの症状と治療方法!予防方法や避けるべき食べ物についても詳しく解説
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この記事の目次
山本先生に【親知らず】について聞いてみた!
Q.1 抜歯をした方が良い親知らずと、しなくても良い親知らずの違いは?
親知らずが横を向いていて半分だけ顔を出している状態で、親知らずの周りの歯茎が炎症を繰り返しているようであれば、抜歯をした方が良いと思います。親知らずが原因で、手前の歯が虫歯になりかけている場合も、抜いた方が良いと思います。
一方で、抜かなくても良い親知らずと言うのは、「これはもう生えてこない」という、骨の深い所に潜っていて症状が何もない親知らずです。あとはまっすぐ生えきって、上の歯と噛み合わさっていて、歯ブラシが届く生え方の親知らずも抜く必要はないと考えています。
Q.2 上下のどちらかだけ抜歯して、対になる親知らずが残っている場合抜歯した方がいいの?
歯と言うのは、「噛む」ことによってその位置にいられますので、噛む(噛み合わせる)相手がいなくなると、下の歯の場合は上に浮いてきます。上の場合は下に伸びてきます。そうすると、手前の歯と、上下的な段差ができてきます。そうすると、そこに汚れが溜まったり、噛み合わせがずれてきたりします。
上下一方だけ残って、段差ができて、伸びてきたような親知らずは抜いた方が良いと思います。
Q.3 上の親知らずと下の親知らずとで、抜歯後の痛みの程度が違うのはどうして?
上顎骨は海綿骨が豊富で、下顎骨とはまったく性質が違うんですね。上顎骨は海綿骨が大きくて、軟らかい骨なので、下の潜っている親知らずよりも、比較的に抜くのがスムーズです。ただし、鼻の脇に上顎洞と言う空洞があって、上の親知らずを抜いた後に口腔と鼻腔が交通する場合があり、併発症の一つとして挙げられます。
上の親知らずを抜いた後に、上顎洞と口腔が交通して、そこから蓄膿症のような症状を起こす上顎洞炎という症状が偶発的に起きる場合があります。そこが、上の親知らずの抜歯で注意するところです。
一方、下の親知らずの場合は、下顎の骨の中に主に下唇の神経をつかさどる「下歯槽神経」が通っています。そして下顎の内側には主に舌の感覚をつかさどる「舌神経」が走っています。また、下顎は皮質骨と言い、骨が厚いです。
そのため、一般的に、骨を大きく削ったり、歯茎を大きく切って開いたりしなければならない下の親知らずを抜いた後の方が、腫れと痛みが強く出ます。骨が硬くて厚いため、骨を削る量が多く、歯茎も比較的大きく切らなければならない、また神経が近くに走っているので、神経の損傷のリスクもあります。そのため、下の親知らずの方が複数で、術後の患者さんの侵襲(ダメージ)、痛み腫れの症状も長くなると言われています。
上の親知らずと下の親知らずは、同じ親知らずでもまったく違うものと考えていただいて良いと思います。
Q.4 抜歯後、腫れやすい人の特徴は?
抜歯後に腫れやすい人の特徴としては、やはり若い方の方が、反応が出ます。年齢が比較的に若い方は腫れやすいです。
あとは、どれだけ歯茎を切ったか、歯があった場所の深さ、隣在歯との距離、どれだけ骨を削ったかも影響します。また生え方によって手術の時間が長くかかった場合なども腫れが長く出ると思います。
腫れのピークは手術の48時間後と言われていますので、抜いた日の翌日から翌々日、2日目か3日目が腫れのピークになります。それ以降だんだん腫れが引いてきて、5日~1週間くらいで落ち着いてきます。他の手術もそうですが、48時間後が手術による腫れのピークと言われています。
Q.5 下の親知らずを抜くと小顔になるって本当?
親知らずを抜くことによって小顔になるというのは都市伝説です。まったく根拠がなく、そういった論文も見たことがないです。
ただし、歯と言うのは、奥の歯が手前の方に動く傾向があります。ですので、親知らずを残しておくことによって、将来的に歯並びが悪くなるということがありますが、抜歯したからと言って、えらが張っているのが小さくなるということはないと思います。
まとめ
今回は山本先生に、抜いた方が良い親知らずや、抜歯後に腫れやすい人の特徴などを詳しく解説していただきました。「親知らずを抜くと小顔になる」というのは、根拠のない都市伝説だったということもわかりました。治療を検討している方の参考になれば幸いです。
明海大学 歯学部 病態診断治療学講座 口腔額顔面外科学分野Ⅰ 主任教授
東京歯科大学 口腔顎顔面外科学講座 客員教授
【略歴】
東京歯科大学卒業
東京歯科大学大学院歯科学研究科(口腔外科学専攻) 修了
東京歯科大学口腔外科学第一講座 病院助手
東京歯科大学口腔外科学講座 助手
学命により中国北京大学口腔医学院顎顔面口腔外科講座に研究留学
東京歯科大学口腔がんセンター 講師
東京歯科大学口腔外科学講座 講師
東京歯科大学口腔外科学講座 准教授
神奈川歯科大学大学院歯学研究科歯学教育学講座 准教授
神奈川歯科大学 客員教授 臨床教授
東京歯科大学口腔顎顔面外科学講座 講師
明海大学 歯学部 病態診断治療学講座 主任教授
東京歯科大学 口腔顎顔面外科学講座 客員教授
現在に至る
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。