誤嚥性肺炎を口腔ケアで予防!高齢者が快適に生活するために役立つ知識

高齢者の口腔トラブルにはさまざまな種類がありますが、中には生命にかかわるものも存在しています。生命にかかわる口腔トラブルの代表が、「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」です。

誤嚥性肺炎は、普通の肺炎と異なり、「口腔トラブルが原因の肺炎」です。こちらの記事では誤嚥性肺炎を予防するための「口腔ケア」について解説することにしました。

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この記事の目次

1.誤嚥性肺炎を予防する「口腔ケア」の必要性!

2017年現在、日本人の「死因別死亡率」を確認すると、肺炎は第3位です。第1位の「悪性新生物(28.7%)」、第2位の「心疾患(15.2%)」に次いで、肺炎は「9.4%」を記録しています。病気によって亡くなる方のうち、おおよそ10人に1人が肺炎で亡くなっているわけです。

肺炎で亡くなっているのはほとんどが高齢者であり、「肺炎による死亡者の96.6%」が65歳以上の高齢者となっています。そして、高齢者の肺炎の70%以上が誤嚥性肺炎であることがわかっています。これらのデータを要約すると、「誤嚥性肺炎は、高齢者の主な死因の1つである」と結論づけるしかありません。

参照URL①:http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/dl/gaikyou27.pdf
参照URL②:https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/50/4/50_458/_pdf

1-1 誤嚥性肺炎は口腔ケアで予防することができる!

誤嚥性肺炎の「誤嚥」は、「食べ物・唾液などが食道ではなく、気道に入りこむこと」です。若く健康な人なら、異物が気道に入った瞬間、むせて咳きこむでしょう。これを「咳反射(せきはんしゃ)」といいます。咳きこんだときに異物は気道から放り出されますから、気管支・肺に入ることはありません。(厳密にはごく微量に入ることがありますが、健康を害するほどの問題にはなりません)実のところ、「むせて咳きこむ」というのは、異物が気道に入るのを防ぐために大切な反応です。

しかし、身体が弱った高齢者は、咳反射が衰えています。異物が気道に入っても、咳反射が起こらない…という例が増えてきます。結果、食べ物・唾液が頻繁に気道に入ってしまいます。つまり、頻繁に誤嚥を起こすわけです。

誤嚥を繰り返すと、気道の中に「細菌を含んだ唾液・飲食物」が入りこみ、気道感染が起こります。そして、感染が肺にまで及ぶと、誤嚥性肺炎になるわけです。ただ、原因が誤嚥である以上、「誤嚥を防げば、誤嚥性肺炎を予防することができる」という可能性に行きつきます。

では、どうすれば誤嚥を防ぐことができるのでしょうか?その答が「口腔ケア」です。実際、「口腔ケアをしていない高齢者」の19%が2年以内に肺炎になったのに対し、「口腔ケアをしている高齢者」は11%しか肺炎にならなかった…という統計も出ています。これをわかりやすく言い換えると、「口腔ケアをおこなうことで、高齢者の肺炎リスクが40%減少した」と表現できます。

1-2 口腔ケアでは、どのようなケアをおこなうのか?

口腔ケアというのは、「口腔内の衛生状態を維持するケア」と「口腔の機能を維持・向上するケア」の総称です。「口腔内の衛生状態を維持するケア」のことを「器質的(きしつてき)口腔ケア」と呼び、「口腔の機能を維持・向上するケア」のことを「機能的口腔ケア」と呼んでいます。

器質的口腔ケア

歯みがき、義歯(入れ歯)清掃のほか、粘膜・舌のクリーニングなどを実施します。訪問診療をおこなっている歯医者さんの歯科衛生士など、専門的技術を持った方のプロフェッショナル・ケアを受けるのが効率的です。

器質的口腔ケアを受けると、口腔内・咽頭内の細菌が減少します。唾液に含まれる細菌が減れば、唾液を誤嚥しても感染を起こしにくくなります。健康な人でも時には誤嚥を起こすわけですから、高齢者の誤嚥をゼロにすることはできません。「誤嚥が起きても感染が起きないようにしよう」という考え方が、むしろ大切です。

機能的口腔ケア

口腔周囲の運動訓練、咳嗽訓練(咳払いの練習)、嚥下促通訓練(上手に飲みこむ練習)などを実施します。要するに、誤嚥を起こしにくいように、「上手に食べて、飲みこむためのリハビリテーション」をするわけです。

機能的口腔ケアを受け続けることで、口に入れてから飲み込むまでにかかる時間を短縮することができます。実際、口腔ケアを続けたことで、「嚥下するまでの時間(LTSR)」が「平均10秒」から「平均5秒」に短縮された…というデータもあります。うまく飲みこめるようになれば、それだけ誤嚥性肺炎のリスクも減少します。

「うまく食事・嚥下できない状態」を「摂食・嚥下障害」といいます。摂食・嚥下障害を改善するためのリハビリテーションをおこなうことが、機能的口腔ケアの意義です。

2.誤嚥性肺炎を防ぐ!口腔ケア以外の予防方法は…?

もちろん、口腔ケア以外にも、誤嚥性肺炎を予防する方法は存在しています。この章では、「セルフケアとして実践できる予防方法」と「医薬品を用いた予防方法」を紹介したいと思います。

2-1 セルフケアで予防!食事中・食後の姿勢管理

食事中、身体を後ろに傾けていると誤嚥を起こしやすくなります。そこで、イスに座れる場合は前傾姿勢をとり、かかとまでしっかりと床につけるようにしてください。お尻の下にクッションなどを入れ、自然と前傾姿勢になるよう調整するのも良い方法です。

ベッドに寝た状態で食事をとっているのであれば、上半身を30度以上は起こしてください。さらに、ひざの裏にクッションなどを挟み、足の裏がベッドにつくようにしましょう。足の裏を接地し、なるべく起き上がった姿勢に近づけることが誤嚥防止の第一歩です。

2-2 医薬品で予防!ACE阻害薬&アマンタジン

「アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)」といって、嚥下機能を改善する医薬品が存在しています。嚥下・咳反射を促す「サブスタンスP」という物質の分解を阻害することで、嚥下機能を改善する作用がある医薬品です。ACE阻害薬により、高齢者の肺炎が1/3程度に減少したという統計もあります。

そのほか、「アブスタンスP」の合成を助けるドーパミン作動薬―「アマンタジン塩酸塩」も誤嚥性肺炎の予防に役立ちます。こちらは肺炎の発症率1/5程度に低下させるという統計が存在しています。

3.まとめ

日本において、肺炎は「死亡要因の第3位」となっています。年間12万人以上が肺炎で亡くなっており、「肺炎の予防」は高齢者介護の基本ともいえるでしょう。

高齢者の肺炎は約7割が誤嚥性肺炎といわれています。口腔ケアを通じて誤嚥性肺炎を予防することは、高齢者の体調管理において重要な意味を持ちます。また、肺炎などの疾病を予防することができれば、体力低下が防がれ、結果的に「要介護状態になるのを遅らせる」という意味もあるはずです。高齢者の健康維持・介護において、誤嚥性肺炎を予防することは重要な意味を帯びています。

 

先生からのコメント

人間が最後まで自分で飲み込めるものが自分の唾液です。その機能が失われると感染症へまっしぐらとなってしまいます。ご家族に寝たきりの方や、足腰が弱くなっている方がいらっしゃったら歯科医師が訪問して診療を行う歯科医院もあります。ぜひご家族のことまで考えていただければと思います。

執筆者:歯の教科書 編集部

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