親知らずの下の歯を抜くと痛いって本当?抜歯にまつわる基礎知識

ウェブなどで「親知らずの抜歯」について調べてみると、「抜歯後、ものすごく痛かった」と訴える人がたくさんいることに気づきます。しかし、一方で「別に何ともなかった」と回想する人も少なからずいらっしゃるようです。「親知らずの抜歯は痛いのかどうか」と不安になっている方も多いのではありませんか?

実のところ、「親知らずの抜歯が痛いかどうか」は、親知らずの生え方で変わってきます。一概に言えるものではありません。とはいえ、「明確な傾向」は存在しています。それは、「上顎と比べて、下顎の親知らずを抜歯するときに負担が大きくなる」という傾向です。

こちらの記事では「親知らずを抜歯するとき、下の歯だと痛い」と言われているのはなぜなのか…、その理由を追求したいと思います。

この記事の目次

1.下の歯を抜くと痛いのはなぜ?下顎親知らずの抜歯

もともと、「下の歯を治療するのは、上の歯より痛い」と訴える人が多いです。これは気のせいでも何でもありません。歯を削るときも、「下顎の奥歯は痛みが出やすい」とされています。この章では「なぜ、下の歯を治療すると痛みが強いのか」という問題について考えてみましょう。

1-1 下顎には麻酔が効きにくい!骨密度と痛みの関係

歯科治療でよく使われる局所麻酔は「浸潤麻酔」といいます。浸潤麻酔は骨の中を染みこんでいくように広がり、歯の神経をマヒさせます。しかし、下顎骨は骨密度が高く、麻酔液がなかなか浸潤しません。結果、「下顎の奥歯は麻酔が効きにくい」と言われているわけです。

ごく普通の「歯を削る治療」でも、下顎の奥歯に麻酔が効かず、痛い思いをする人がいます。麻酔の効きが不十分なら「伝達麻酔」といって下顎全体をマヒさせる麻酔に切り替えますが、「下の歯を削られたときにすごく痛かった」という記憶は、患者さんの心に長く残る傾向があります。

同様に抜歯の際も、「下の歯を抜くとき、感覚が多少残っていて痛みを覚えた」「麻酔が切れるのが早く、抜歯後に痛みを感じた」といったケースが(少なくとも上の歯よりは)多いようです。結果、ウェブの随所で「下の歯を抜歯するのは痛い」という感想をたくさん目にすることになります。

1-2 下顎骨(かがくこつ)は硬く、抜歯のときに力が加わりやすい

骨密度が高いことで、下顎骨は上顎骨より硬くなっています。そのため、下の歯はがっちりと固定されているのです。当然ながら、抜歯をするときには、より強い力を加えないと抜くことができません。結果、痛み・腫れともに強くなる傾向があります。

1-3 下顎の親知らずは埋伏智歯になりやすい

親知らずの生え方には、いくつかのバリエーションがあります。真っ直ぐ上向きに生えてくれれば良いのですが、なかなか4本すべてがきれいに生えることはありません。一定の確率で、斜め・横向きに生えてくるからです。斜めに生えてきて一部が歯茎に埋まったままの親知らずを「不完全埋伏智歯」、横向きに生えてきて全体が歯茎に埋まっている親知らずを「水平埋伏智歯」と呼びます。

さて、下顎の親知らずは、上顎に比べて「不完全埋伏智歯」「水平埋伏智歯」になる確率が高くなっています。埋伏智歯の抜歯は「歯茎の切開」「骨の開削(骨を削ること)」を伴うので、どうしても抜歯の傷が大きくなってしまいます。結果、「下の親知らずを抜くと、激しい痛みを伴いやすい」という感覚を持つ人が多くなるわけです。

2.下の親知らずを抜歯!麻酔が切れたあとの痛みを抑えるには…?

上述のとおり、「下の歯を抜くと痛みが出やすい」というのは事実です。しかし、口腔トラブルの原因になる親知らずを放置するわけにもいきません。必要があれば、抜歯する必要があります。そこで、この章では「抜歯後、麻酔が切れた際の痛みを緩和する方法」について考えてみたいと思います。

2-1 抜歯直後、きちんと30分にわたってガーゼを噛む

親知らずを抜歯すると、抜歯箇所にガーゼを入れられて「30分くらい噛んでいてください」と言われます。これは止血用のガーゼなので、面倒くさがらずにきちんと30分噛み続けてください。早く血が止まるほど、痛みは少なくなります。

2-2 麻酔が切れる前に鎮痛剤を服用する

鎮痛剤を処方されているはずなので、麻酔が切れる前に1回目を服用してください。すでに痛みがあると、鎮痛剤の作用は鈍くなる傾向があります。痛み出す前に服用することで、鎮痛剤の作用を享受しやすくなるのです。

2-3 抜歯から24時間は患部を冷やす

「市販の冷却シート」「氷」などを使って、患部を冷やしましょう。口の中に氷を含んだりはせず、外側から頬を冷やしてください。ただし、冷やして良いのは抜歯から24時間だけです。24時間以上にわたって冷やし続けると、血液のめぐりが悪くなり、治癒が遅れてしまいます。

2-4 患部に物理的刺激を与えない

抜歯した傷口は、「血液がジェル状になった塊」で覆われているはずです。ジェル状の物体を「血餅(けっぺい)」と呼びます。「かさぶた」と同じような役割を負っていて、抜歯した傷跡を保護してくれているものです。

万一、血餅が外れてしまうと、歯槽骨まで直通の穴が開いてしまい、非常に強い痛みを覚えます。血餅を外してしまうような物理的刺激を与えないように注意してください。「うがい」「ストローで飲み物を吸う動作」「強く鼻をかむこと」「患部に歯ブラシを当てること」などが、血餅を脱落させる要因になります。

3.まとめ

下の歯は、上の歯に比べて「抜歯後の痛み」が強くなる傾向にあります。特に「下顎の親知らず」は埋伏智歯になりやすく、難抜歯になることも多いです。「ガーゼできちんと止血する」「麻酔が切れる前に痛み止めを飲む」「患部を冷却する」など、基本的な注意事項をしっかりと守って、少しでも痛みが少なくなるように努めましょう。

 

先生からのコメント

どうしても下の歯は抜いた後に唾液が入りやすいので、感染や血が止まりにくいことが多いです。抜歯した後の注意を守りましょう。

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執筆者:歯の教科書 編集部

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