親知らずは「口腔トラブルの原因になりやすい歯」と認識されています。その理由は、親知らずの生え方です。現代人はあまり顎が大きくないので、「親知らずが生えるのに十分なスペースがない」というケースも散見されます。そのため、真っ直ぐ生えることができず、横向きに生えてくることも多いのです。
こちらの記事では、「横向きに生える親知らず」の基礎知識をまとめることにしました。「どのような口腔トラブルが起こり得るか」に加え、「基本的な治療方法」も掲載しているので、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
1.親知らずが横向きに生えると、何が起きる…?
多くの場合、横向きに生えてくるのは下顎(したあご)の親知らずです。横向きに生える親知らずは、一部または全部が歯茎に埋まっています。「斜めに生えて一部が歯茎に埋まっている親知らず」を「不完全埋伏智歯(ふかんぜんまいふくちし)」、「真横に生えて全体が歯茎に埋まっている親知らず」を「水平埋伏智歯(すいへいまいふくちし)」と呼んでいます。この章では、「横向きの親知らず」に起因する口腔トラブルを紹介したいと思います。
1-1 智歯周囲炎
斜めに生えてくる親知らず(不完全埋伏智歯)は、歯磨きの邪魔になることが多いです。斜めに生えている歯の周囲には、歯ブラシが届きにくいからです。結果、周辺の歯茎に歯垢が溜まり、歯垢の中で細菌が増殖します。やがて、増殖した細菌が歯茎に炎症を起こし、親知らずの周囲が腫れてしまうわけです。
一時的な炎症だと思って放置する方も多いですが、親知らずの生え方に原因がある以上、自然治癒は期待できません。いったんは治まっても、何かの拍子に再発することが多いです。
1-2 虫歯
これも、斜めの親知らずで起こりやすい問題です。斜めに生えている歯は歯ブラシが届きにくく、全体をくまなくブラッシングするのが困難になります。そのため、磨けない部分があっという間に虫歯になることがあります。
また、磨けない部分はたいてい、親知らずの手前にある「第二大臼歯(12歳臼歯)」との境目付近です。なので、親知らずと第二大臼歯の隙間で虫歯菌が増殖し、両方とも虫歯になる例もよくあります。手前の歯を巻き込んで虫歯になってしまうわけです。
1-3 第二大臼歯の歯根吸収
横向き・斜めに生えてくる親知らずは、手前側を向いて生えてくるのが普通です。つまり、第二大臼歯のほうに傾いているわけです。すると、親知らずが生えてくるとき、第二大臼歯を圧迫する形になります。
強い圧迫を受け続けると、第二大臼歯の歯根(歯の根っこ)は溶けてなくなっていきます。歯の根っこが溶けてしまうことを「歯根吸収」と呼びます。歯根吸収は、第二大臼歯の寿命に多大な悪影響を及ぼします。
1-4 歯並びへの悪影響
横向き・斜めに生えてきた親知らずが、手前の歯(第二大臼歯)を圧迫するのは前述のとおりです。このとき、歯根ではなく「第二大臼歯全体」を圧迫すると、どのような影響が及ぶでしょうか?
第二大臼歯全体が押された場合は、徐々に第二大臼歯が手前に移動してきます。当然、連鎖的に第一大臼歯(6歳臼歯)が圧迫される形になり、最終的には歯並び全体に影響が及びます。
1-5 含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)
親知らずが全て埋まっている場合、含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)と呼ばれる病変が発生することがあります。嚢胞というのは「身体の内部にできる袋状の病変」です。歯が袋に包まれた状態で歯茎に埋まっているわけです。
埋伏していても上向きに生えていれば、歯茎を切開して歯を保存できる場合があります。しかし、横向きに生えている水平埋伏智歯であれば、歯の保存は困難です。嚢胞と親知らずをともに摘出することになります。
2.「横向きに生えてきた親知らず」への対処法
親知らずが横向きに生えてきた場合、多くは抜歯になります。歯ブラシが届きにくい位置に斜め・横向きの歯があるのは、プラスになりません。周囲の歯を巻き込んで虫歯になるなど、口腔トラブルが拡大する原因になるからです。
2-1 斜めに生えている不完全埋伏智歯~通常抜歯
斜めに生えている親知らずは、よほど複雑な生え方をしていなければ通常抜歯となります。麻酔をかけて歯を抜くだけなので、それほど大がかりな処置にはなりません。ただし、親知らずの根っこが曲がっている場合などは処置に時間を要することもあります。
2-2 横向きに生えている水平埋伏智歯~水平埋伏智歯抜歯術
横向きに埋まっている親知らずは、通常抜歯ができません。横向きに生えている歯を「下から上に抜く」というのは不可能だからです。歯は、生えている方向にしか抜くことができません。つまり、手前を向いている歯は、手前に抜く必要があります。
しかし、親知らずの手前には第二大臼歯があります。第二大臼歯が邪魔になって、「親知らずを手前に引き抜く」ということはできません。そのため、やや複雑な手順で抜くことになります。
まず、歯茎を切開して、親知らずの頭部分を切除します。上の部分を切除すると、「親知らずと第二大臼歯の間」にいくらかの隙間ができます。この隙間を利用して、親知らずを手前に引き抜くのです。この処置を「水平埋伏智歯抜歯術」と呼んでいます。
2-3 水平埋伏智歯は経過観察で良い場合も!
一部が歯茎に埋まっている不完全埋伏智歯は、ほぼ抜歯になります。智歯周囲炎、第二大臼歯を巻き込んでの虫歯などを引き起こすからです。しかし、全て埋まった水平埋伏智歯は、場合によっては抜歯しないこともあります。
横向きで全て埋まっている親知らずで、「第二大臼歯を圧迫しておらず、嚢胞などの病変を伴わないもの」は放っておいても問題ありません。その場合、あえて抜歯はおこなわず、経過観察で済ませることもあります。
3.まとめ
横向きに生えてきた親知らずは、第二大臼歯をはじめ、周囲の歯にまでトラブルを波及させることがあります。親知らずが斜めに生えてきたとき、親知らずが生えてくる部位に異変を感じたときは、早めに歯医者さんを受診するようにしましょう。歯科口腔外科に知見を持った歯医者さんを受診すれば、水平埋伏智歯抜歯術などの外科的治療もスムーズに受けることができます。
水平になった親知らずは一度、歯科口腔外科を専門とした歯科医院の先生にご相談すると良いと思います。悩まずに一度ご相談ください。
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歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。