地域・職域における歯科口腔保健の推進に向けて
― モデル事業の成果から見える受診勧奨の可能性と今後の課題 ―
はじめに
近年、歯科口腔保健は健康寿命の延伸を支える重要なテーマとして注目されています。歯周病は糖尿病や心血管疾患などの全身疾患とも関連することが明らかになっており、口腔の健康維持は全身の健康管理においても重要な役割を担っています。
一方で、日本の歯科受診状況を見ると、乳幼児期や高齢期と比較して、就労世代における歯科健診の機会は必ずしも十分とは言えない状況があります。多くの企業では定期健康診断を通じて身体の健康状態を確認する仕組みが整備されていますが、歯科領域については制度的な枠組みが十分に整っているとは言えません。
こうした背景のもと、厚生労働省の事業として令和7年度に「全世代向けモデル歯科健康診査等実施事業」が実施されました。NTTデータ経営研究所では、本事業の調査研究の成果を広く共有することを目的として、2026年3月10日に「地域や職域等における歯科口腔保健(歯科受診勧奨)の推進に向けたセミナー」を開催し、自治体や企業、保険者などによる多様な取り組みが紹介されました。【ご参考URL:厚生労働省‐歯科口腔保健関連情報】
本稿では、本セミナーで紹介されたモデル事業の内容を踏まえ、歯科受診促進に向けた取り組みの成果と今後の課題について整理します。
1. 就労世代における歯科受診の課題
日本では8020運動などの取り組みにより、歯の健康状態は長期的に改善してきました。特に子どもの虫歯は大きく減少しており、歯科予防の成果が現れているといえます。
しかし成人期になると状況は変化します。歯周病は依然として多くの人が罹患しており、成人の約半数が歯周病を有しているとされています。さらに、歯科医療の利用状況を見ると、高齢者の受診割合が高い一方で、若年層や働き世代の受診率は比較的低い傾向があります。
就労世代では、仕事や生活の忙しさから歯科受診の優先度が下がりやすく、症状が出てから歯科医院を受診するケースが少なくありません。また、歯周病などの口腔疾患は自覚症状が少ないため、問題があっても本人が気づきにくいという特徴があります。
このように、就労世代における歯科受診の機会不足は、日本の歯科口腔保健における重要な課題の一つとなっています。
2. モデル事業から見えた受診促進の可能性
こうした課題を背景に、今回のモデル事業では就労世代を中心に歯科受診を促すための様々な取り組みが実施されました。
代表的な取り組みとしては以下のようなものがあります。
• 健康診断と連動した簡易的な口腔チェック
• 歯科保健指導や啓発活動による意識向上
• レセプトデータなどを活用した歯科未受診者への受診勧奨
• 薬局や商業施設など生活動線上での簡易的な口腔チェック
特に、企業の定期健康診断の機会を活用した簡易的な口腔チェックは、参加のハードルが低く、歯科受診のきっかけを作る有効な取り組みとして注目されました。また、レセプトデータなどを活用した受診勧奨では、歯科未受診者など対象者を効率的に抽出できる可能性が示されました。
これらの取り組みの結果、歯科受診を促す施策として一定の受診促進効果が確認されたことは大きな成果と言えるでしょう。既存の健康管理制度や地域の生活動線と連携することで、歯科口腔保健の取り組みをより多くの人に届ける可能性が示されました。
3. 行動変容につなげるための今後の課題
一方で、今回のモデル事業では、歯科受診の促進に一定の効果が見られたものの、最終的な行動変容につなげるためにはさらなる工夫が必要であることも明らかになりました。
具体的には、
• 受診勧奨を受けても実際の受診につながらないケースがある
• 歯科受診の重要性に対する理解が十分に浸透していない場合がある
• 継続的に取り組みを実施するための体制やコストの課題
などが挙げられます。
そのため、単なる情報提供にとどまらず、
• 行動を促すタイミングを意識した受診勧奨
• 生活動線を踏まえたアプローチ
• データを活用したターゲット型の施策
といった、より効果的な仕組みづくりが今後の重要なテーマになると考えられます。
まとめ
本セミナーでは、厚生労働省のモデル事業の成果をもとに、地域や職域における歯科口腔保健の推進に向けた多様な取り組みが紹介されました。
健康診断と連動した簡易的な口腔チェックやデータ活用による受診勧奨、生活動線を活用した取り組みなど、歯科受診を促進するためのさまざまな手法が試行され、一定の成果が確認されました。
一方で、歯科受診という行動変容をさらに促すためには、より効果的な受診勧奨の仕組みづくりや継続的な啓発が重要であることも示唆されています。令和8年度もパイロット事業が継続されることが予定されており、自治体、企業、保険者などが医療機関(医療専門職種)と連携しながら、[由塙6.1]歯科口腔保健の取り組みを社会全体で推進していくことが期待されます。
《令和8年度 生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)パイロット事業》
編集部コメント
歯科口腔保健は、日常のセルフケアに加えて、定期的な歯科受診を通じた継続的な管理が重要となる分野です。今回のモデル事業では、健康診断や地域の生活動線を活用した取り組みなど、歯科受診のきっかけを生み出すさまざまな試みが実施されました。こうした取り組みは、歯科医療へのアクセスをより身近なものにする可能性を示すものと言えるでしょう。
「歯科健診の推進を通じ、【攻めの予防医療】を具体化させる」と国の方針でも言及されているように、国民皆歯科健診の体制構築が着実に進んでいくものと思われます。
私たちも、簡易的な口腔チェックでの気付きから実際の歯科受診につながる、いわゆる「ラストワンマイル」の重要性を再認識し、もっと便利に、分かり易く、受診へのあと一歩の背中を押せるかを追求していきたいものです。
私たちは、歯科知識をわかりやすく発信する
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【デジタルの力で、歯科医療の“出会い”と“通いやすさ”を革新し、健康寿命の延伸に貢献する。】ことです。
歯科口腔保健の重要性が社会的に高まる中、情報発信とデジタルサービスの両面から歯科医療へのアクセスを支え、より多くの方が継続的に歯科医療を受けられる環境づくりに今後も貢献していきたいと考えています。
執筆者:
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