上顎洞というのは、鼻の周囲にある空洞(副鼻腔)の1つです。上顎洞の粘膜に細菌が入りこみ、炎症が起きた状態を「上顎洞炎」と呼んでいます。副鼻腔の炎症なので、副鼻腔炎の一種であり、「鼻づまり」「頭痛」「目の奥・上顎の違和感」といった症状をきたします。
症状だけを見れば、虫歯・歯周病などとは無関係に感じられるかもしれません。しかし、「虫歯・歯周病」「抜歯した傷口の感染」が原因で上顎洞炎を起こすことがあります。このようなケースを「歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)」と呼んでいます。こちらの記事では、歯性上顎洞炎を中心に「上顎洞炎の症状・原因・治療法」を解説したいと思います。
この記事の目次
1.上顎洞炎の症状をチェック!
原因が歯であっても、そうでなくても、上顎洞炎の症状自体はほとんど変わりません。ただ、最初から副鼻腔に炎症を起こしたケースでは副鼻腔炎と呼ぶことが多いです。まずは、上顎洞炎(副鼻腔炎)の主な症状を確認してみましょう。
・鼻づまり
・黄色く、粘性の高い鼻水
・頭痛
・頭が重い感覚
・頬(ほほ)の圧迫感
歯が原因の場合、以上の典型的症状に加えて、「歯の痛み」「歯茎からの出血」など口腔内の症状が加わることがあります。上顎洞炎を含む副鼻腔炎が3か月以上にわたって続く場合、「蓄膿症(ちくのうしょう)」と呼ばれます。
2.上顎洞炎の原因は何?
それでは、上顎洞炎の原因を確認してみましょう。前述のとおり、上顎洞炎には「副鼻腔の炎症で発症するケース」と「歯が原因となるケース」が存在しますが、ここではいったん、双方とも解説することにします。
2-1 風邪・インフルエンザが発端の副鼻腔炎
もともと、副鼻腔の分泌物・異物は「自然孔」という穴を通じて鼻腔に入ります。しかし、風邪・インフルエンザなどで炎症を起こすと、自然孔が塞がってしまいます。自然孔が塞がると、副鼻腔には分泌物が溜まり、自浄作用が働かずに炎症を起こします。結果、副鼻腔炎を起こすわけです。
そのほか、別のメカニズムで副鼻腔炎を起こすケースもあります。細菌・ウイルスが、開いた状態の自然孔を通ってダイレクトに副鼻腔へと侵入することがあるからです。この場合、細菌性・ウイルス性の炎症が起こって、副鼻腔炎になります。
2-2 慢性的な鼻炎が原因の副鼻腔炎
アレルギー性鼻炎などで慢性的に炎症を起こしていると、鼻腔の炎症が副鼻腔に拡大することがあります。もともと慢性的に鼻炎を起こしている場合、自然孔の閉塞が長引き、副鼻腔に膿が溜まっていく傾向があります。副鼻腔炎もまた慢性化し、蓄膿症(正式名称:慢性副鼻腔炎)になる確率が高いといえます。
2-3 虫歯・歯周病による歯性上顎洞炎
上顎洞は、鼻の両脇に存在する空洞です。そのため、上奥歯の歯根は、上顎洞のすぐ近くに達しています。中には、歯根が上顎洞まで突き抜けている人もいます。そのため、虫歯・歯周病菌が歯根に感染すると、炎症・感染が上顎洞まで及ぶことがあるのです。
虫歯が歯根付近に炎症を起こすケースは、決して珍しくありません。「神経まで達した深い虫歯」「神経を抜いた歯で再発した虫歯」は、痛みを感じないまま進行します。虫歯菌は根管(歯根の中にある神経・血管の通り道)に侵入して、歯根の周囲に炎症を起こします。この炎症が、上顎洞に及ぶわけです。
同様に、歯周病では「歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)」で歯周病菌が増殖します。歯周病菌が歯根周囲に感染して炎症を起こせば、やはり上顎洞まで拡大することがあります。
2-4 抜歯した傷口の感染による歯性上顎洞炎
前述のとおり、上奥歯の歯根が上顎洞まで及んでいるケースがあります。そのため、上奥歯を抜歯すると、傷口が「上顎洞に直結する穴」になる場合があるわけです。この状態で傷口が不衛生になり、細菌感染を起こすと、当然、炎症が上顎洞まで及ぶ恐れが出てきます。
2-5 根管治療中の感染による歯性上顎洞炎
神経まで達した虫歯を治療するときは、「根管治療」と呼ばれる治療をおこないます。神経が入っていた「歯髄腔(しずいくう)」「根管」の虫歯を手作業で除去し、内部に再発防止の薬剤を詰める処置です。
問題は、上奥歯の根管内で虫歯除去をしているときです。根管治療において虫歯を削りとるとき、「ファイル」「リーマー」と呼ばれる針状の器具を用います。これらの治療器具をうっかり上顎洞まで貫通させてしまうと、根管内の細菌が上顎洞に入りこむ恐れがあります。結果、根管治療中に上顎洞が感染し、歯性上顎洞炎を起こすリスクがあるわけです。
3.上顎洞炎の治療法
上顎洞炎を治療するためには、上顎洞の炎症を鎮めなければなりません。この章では、上顎洞炎の治療方法を確認することにしましょう。
3-1 抗生物質の服用
細菌を除去するために、抗生物質を投与します。基本は、マクロライド系抗生物質―クラリスロマイシンの長期服用が選択されます。同時に、消炎鎮痛剤で症状を抑えるのが普通です。
3-2 原因となっている歯の治療
歯性上顎洞炎であれば、原因となった歯の治療をおこないます。虫歯が原因であれば、感染根管治療をして歯の内部を無菌化します。歯周病が原因なら、歯周病治療が必要になります。これらの治療で改善が見られない場合、原因となった歯を抜歯することもあります。
3-3 上顎洞の洗浄
鼻から細い管を入れたり、上顎洞に針を挿入したりして、生理食塩水による洗浄をおこなうことがあります。歯性上顎洞炎の場合、原因となっている上奥歯を抜歯して、抜歯した穴から膿を抜き、生理食塩水を入れて洗浄します。
3-4 外科的治療
重症例、ほかの治療法で改善が見られない場合は、耳鼻咽喉科での外科的治療がおこなわれることがあります。内視鏡で自然孔を広げ、膿を取りのぞく「鼻内内視鏡手術」をおこなうのがベーシックです。
4.まとめ
上顎洞炎のうち、3割ほどが歯性上顎洞炎といわれています。虫歯・歯周病を放置した結果、副鼻腔の病気にかかるリスクがある…という例からも、「口腔内の健康は、全身の健康に直結している事実」が浮き彫りになると言えるでしょう。
「放置している虫歯」「歯茎からの出血」などがあり、慢性的な鼻炎症状が見られる場合は、歯性上顎洞炎を疑い、最寄の耳鼻咽喉科・歯科に相談してみてください。
上顎洞炎は歯科口腔外科と耳鼻咽喉科で受け持つ疾患です。歯由来のものと鼻由来のものがあり、ともに慎重な診査診断が必要です。一度専門外来を受診して的確な診断および治療計画をしてもらうことが肝要です。
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歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。