【専門家に聞く】コロナ禍の収入減が歯痛に影響|精神的ストレスとの関連性についても解説(前編)

【専門家に聞く】コロナ禍の収入減が歯痛に影響|精神的ストレスとの関連性についても解説(前編)

2021年7月現在、新型コロナウイルス COVID-19の国内での感染が確認されてから1年以上がたちますが、感染が抑え込まれたとは言いがたい状況です。

新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野 助教松山祐輔先生はJournal of Dental Researchにて、「コロナ禍で所得が減少した人はそうでなかった人より1.4倍歯の痛みを感じる」という論文を発表しました。

この記事では研究の概要となぜ口腔の健康に着目したか、どのような調査を行ったかなど、松山先生に詳しく解説をしていただきます。

(後編はこちら

この記事の目次

コロナ禍による世帯収入の減少とその精神的ストレスは歯痛の原因になりうる

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

今回の研究を行った背景と論文の概要を教えてください
松山 祐輔アイコン
松山 祐輔

私が専門として研究している「社会疫学」という分野では、社会経済状態と健康状態の関係について広く研究されています。

例えば歯科にかかわることでは、社会経済状態が悪い人は虫歯や歯周病が多い、また高齢期に残っている歯の本数が少ないといったことが、新型コロナウイルスの感染が拡大する前から言われていました。

そのため、新型コロナウイルスの感染対策のために経済活動が停滞し、世帯収入が減少する、失業するといったことが起こることで、口腔の健康に影響を与える可能性があると考えました。

今回の調査は、2020年の8月から9月にかけて、15歳から79歳の約2万5000人の男女を対象に、インターネットのアンケートによる聞き取りを行い、新型コロナウイルスの感染拡大による経済状況の変化と歯痛の関連性を分析しました。

結果としては世帯収入の減少、仕事の減少、失業が歯の痛みに関連しているということが明らかになっています。

歯の教科書 編集部
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今回の研究ではなぜ「歯痛」に着目したのですか?

松山 祐輔アイコン
松山 祐輔

新型コロナウイルスの感染拡大で社会経済が停滞することによる経済状況の悪化が、口腔の健康状態に与える影響を懸念していました。

そのような中で、社会のなかのどういった人が新型コロナウイルスの影響をうけているのか明らかにするインターネット調査の研究プロジェクトに参画させていただく機会があり、日々の生活への影響が大きく、かつ比較的答えやすいと考えられる 「歯の痛み」 に着目しました。

また、虫歯や歯周病が進行するのにはある程度の期間が必要ですが、歯の痛みは早期に影響がみられるのではないかということもありました。

「痛みの有無」については正しく回答が得られるだろうということで、調査では直近1カ月で歯の痛みがあったかどうかということを聞き取り、「コロナ禍での社会経済状態の変化」との関係を分析しました。

調査では世帯収入が減少した人はそうでない人の1.4倍歯痛があった

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

世帯所得の減少と歯痛の関係について詳しく教えてください

松山 祐輔アイコン
松山 祐輔

今回の調査では対象となった約2万5000名のうち、9.8%の人が「歯痛があった」と回答しています。

経済状況の変化というところに着目してみると、「世帯収入が減った」と回答した人(回答者の25.1%)のうち、12.9%が「歯の痛みがあった」と回答し、また「仕事が減少した」という人(回答者の約19.5%)においては14%、「失業した」という人(回答者の1.1%)においては25%の人が、歯が痛いことがあったと回答し、統計的に意味のある関係性がみられました。

さらに、コロナ禍前の状況の違いや、基本属性の違いを考慮するために、年齢や性別、居住地域やコロナ禍前の歯科受診状況なども調査項目に含めていました。

それらを考慮して統計学的に分析をしたところ、コロナ禍によって世帯収入が減った人は、減っていない人に比べて1.4倍ほど歯の痛みを訴える可能性が高いということが明らかになりました。

また、この調査の結果から、なぜ所得の減少が歯の痛みに至ったかという中間因子として、精神的ストレスや歯科受診の延期、間食の増加があることもわかっています。

歯の教科書 編集部まとめ

この記事では東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 助教の松山祐輔先生に、コロナ禍における収入の減少と歯痛の関係性について詳しくお伺いしました。

新型コロナウイルスは「感染」という直接的な影響だけではなく、社会経済を停滞させ、私たちの心身の健康に間接的な影響を及ぼすことがわかりました。

後編ではなぜ経済状況の悪化が歯痛につながるのか、その原因についてさらに詳しく解説していただきます。

【専門家に聞く】コロナ禍の収入減が歯痛に影響|精神的ストレスとの関連性についても解説(後編)

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
松山 祐輔助教監修
経歴・プロフィール

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野 助教

【略歴】
2017年3月 東北大学大学院歯学研究科 国際歯科保健学分野 博士課程 修了
2017年4月 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野 日本学術振興会特別研究員(PD)
2017年5月 Radboud university Department of Quality and Safety of Oral care Visiting Researcher
2018年5月 University College London Visiting Researcher
2019年1月 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野 助教

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執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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