【教授に聞く】お口の情報をデジタルデータ化!デジタル技術を生かした補綴治療について解説

【教授に聞く】お口の情報をデジタルデータ化!デジタル技術を生かした補綴治療について解説

4回にわたりブラキシズムの原因や治療法、歯の欠損を補う補綴治療について昭和大学 歯学部 教授の馬場一美先生にお話をお伺いしてきました。

最終回のこの記事ではデジタル技術を使った歯科治療について、また昭和大学における「補綴治療のデジタル化」への取り組みについて詳しく伺います。

この記事の目次

日々進化する歯科医療|デジタル技術の導入

馬場一美 教授
馬場一美 教授

補綴治療や矯正治療などでお口の型取りをすることがありますが、弾性印象材という粘土のような型を取る材料を使います。型取りをしたことがある方はわかるかと思いますが、とても苦しいですよね。例えば障がいのある方やお子さんの型取りをするのは、歯科医師もより慎重になります。

そういった場合に、デジタルテクノロジーを取り入れた口腔内スキャナーを用いて、口の中をカメラで撮ることで型取りができれば、患者さんも楽ですし、時間も短く済みます。

昭和大学 歯科病院では、デジタルラボという補綴物の製作室を設け、治療のデジタル化に注力しています。昭和大学がデジタル化を推進する大きな理由は、できるだけ患者さんが心地よく治療を受けられるような仕組みにしたいからです。

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

デジタル技術を使うと、かぶせ物が1日でできると聞いたことがあります
馬場一美 教授
馬場一美 教授

今は被せものを作るのに、クリニックでもCAD/CAMが取り入れられていますが、CAD/CAM冠の何がいいかというと、その日のうちに被せものができるというのももちろんですが、お口のデータを保持しておけるということがあります。

大学病院やクリニックが歯のデータを持っていれば、そのデータを使って何度でも被せものを作製することができます。そういうと変に聞こえるかもしれませんが、例えば歯を治療して被せものを入れたあとに、それが欠けたり外れたりすることがあります。そういった場合に、初めからまた型を取らなくても、新しいものをすぐに用意できるのです。

またCAD/CAMで作ると労働のコストも下がります。昭和大学のデジタルラボは本格稼働して7年ほどですが、安定した運用ができるようになっています。もっと軌道に乗れば中長期的に見たときにコストダウンになり、患者さんの経済的な負担軽減にもつながると考えています。

デジタルテクノロジーを取り入れることは、患者さんにとっても、診療を受けるうえでメリットがあるのです。

補綴治療、矯正治療などさまざまな分野でデジタルデータが活用されている

馬場一美 教授
馬場一美 教授

補綴治療の中でもインプラント治療のデジタル化がとくに進んでいます。インプラントのリスクを抑えて埋入手術をするためには、顎骨の形をコンピューター上で3次元的に見ることで、どこに危ない解剖学的な構造があるかを確認します。

例えば下顎骨の中には下歯槽神経と呼ばれる太い神経が通っていて、そこにインプラントがあたると麻痺が起こる可能性があります。あるいはインプラントが舌側方向の誤った方向に埋入されれば、動脈を破ってしまうおそれがあります。

そのため解剖学的な情報をデジタルデータ化し、それを使いながらインプラントを埋入するシミュレーションをするのです。「ガイドサージェリー」といってシミュレーションをした通りにインプラントの埋入手術をするような仕組みもあります。デジタルデータは手術から最終的な補綴まで、スムーズでより精密な医療に多大に貢献しています。

昭和大学デジタルラボ
歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

デジタル技術はほかにどのような治療に生かされているのでしょうか?
馬場一美 教授
馬場一美 教授

昭和大学の歯科病院ではアライナー矯正という、患者さんにとって侵襲性が少ない、ワイヤーではなくマウスピースを使った矯正治療にも精力的に取り組んでいます。矯正治療の現場でもデジタル技術を基盤にして、診療の効率化とより精密な治療を届ける仕組みを構築するということに注力しています。

補綴物をつくるためには印象材を用いて型取りを行い、模型を作る必要があります。大学病院だとたくさんの補綴治療を行いますので、すべての患者さんの模型を保管しておくスペースをつくっておくことは困難です。

患者さんのお口の形態情報をスキャンしデジタルデータとして保存しておけば、印象材もいらず模型もいらなくなります。いずれは補綴物をつくるための型取りに、口腔内スキャナーが使われることが普通になっていくでしょう。

歯科医療の進歩・デジタル技術の発展によって変わる歯科技工士の仕事

馬場一美 教授
馬場一美 教授

歯科医師が患者さんの治療に集中できるのは、デジタル技術を駆使した技工を、歯科技工士が担当してくれているおかげです。診療の方法が進歩して広がっていっていますが、それを支えているのは歯科技工の進歩です。歯科医師、歯科技工士のいずれもがどんどん高めあいながら一緒に進んでいかなければいけません。

そういう意味でいうと歯科技工士の仕事は大きく変わってきているといえるでしょう。被せものを手作業で製作するのではなく、コンピューター上でデザインし、デザインした被せものの形態データを加工機へと送り、加工機で削り出された被せものを仕上げるという流れがベーシックになってきました。デジタルデータを駆使して技工を行うわけです。

昭和大学デジタルラボ

将来的には口腔内の検診に口腔内スキャナーが取り入れられればよいと思っています。

例えば、患者さんが事故で前歯を折ったとして、事故前と同じ形にしたかったとします。口腔内検診でスキャンしたときのデータがあれば、そのデータを用いて元と同じ形の前歯を製作することができます。デジタルデータを活用したこうした作業は、ノウハウを持っている歯科技工士にしかできない仕事です。

昭和大学は「多職種連携」・「専門性」で多様なニーズに応える

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

最後に昭和大学 歯科病院の展望などをお聞かせください
馬場一美 教授
馬場一美 教授

昭和大学は「医系総合大学」です。医学部があり、歯学部、薬学部、保険医療学部があります。

「歯医者だから高血圧のことはわかりません」ということがあってはいけません。また外科の先生がオペをするときに「周術期口腔ケア」を怠るということもあり得ません。「周術期口腔ケア」とは、口腔ケアをしていないと術後の感染率が上がるため、口腔ケアを行うようにするための仕組みです。実際に口腔ケアにより術後の在院日数が減ることもわかっています。

そのため昭和大学全体で「多職種連携」というのを一つのキーワードとしていますが、これは患者さんにとっても、非常に有益なことだと思います。

また本学には旗の台、洗足、藤が丘、豊洲の4つの総合病院、加えて烏山に精神病院がありますが、すべての付属病院に歯科室が入っており、各病院の患者さんの周術期口腔ケアを多職種のスタッフが連携して行っています。

また歯科病院にも病床が22床あり、年間1200件以上の全身麻酔オペを実施しており、専門性、先進性の高い歯科医療を提供しています。外来についても一般診療のみならず、根管治療や入れ歯、ドライマウス(口腔乾燥)などに特化した専門外来や、インプラント、頭頸部腫瘍、睡眠の問題など包括的対応が可能なセンターを配置し、患者さんの多様なニーズに応えるというのが昭和大学歯科病院の一つの大きな方針です。

お子さんからご高齢の方まで、予防から最終的な補綴まで、全てを継ぎ目なく取り組んでいく、その基盤になる技術として「デジタルテクノロジー」を役立てていきます。

歯の教科書 編集部まとめ

5回にわたり昭和大学 歯学部 教授の馬場一美先生に、ブラキシズムや補綴治療についてのお話を詳しくお伺いしました。

最終回のこの記事では、歯科医療の現場で活用されるデジタル技術と、その技術を生かした補綴治療について、また昭和大学での取り組みについてお話を伺いました。

昭和大学は紹介状がない初診でも診療を受け付けていますが、かかりつけの歯医者さんからの紹介状があると診療がスムーズとのことなので、受診を検討している方は参考になさってください。

昭和大学歯科病院 昭和大学歯学部歯科補綴学講座
馬場一美教授監修
略歴・所属

1986年:東京医科歯科大学歯学部 卒業
1991年:東京医科歯科大学大学院 修了(歯学博士)
1991年:東京医科歯科大学歯学部附属病院 医員
1994年:東京医科歯科大学歯学部 助手(歯科補綴学第一講座)
1996-1997年:文部省在外研究員米国UCLA
2001年:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 助手
2002年:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 講師
2007年:昭和大学歯学部歯科補綴学講座 教授 (現職)
2013年:昭和大学歯科病院副院長
2019年: 同 病院長・昭和大学執行役員

日本補綴歯科学会 常任理事(副理事長)
日本歯学系学会協議会 常任理事
日本デジタル歯科学会・日本顎口腔機能学会・日本顎関節学会・国際補綴学会(ICP):理事

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執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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