【教授に聞く】インプラント埋入のため骨のボリュームをアップ!サイナスリフト手術の方法を解説

東京医科歯科大学・丸川恵理子(まるかわえりこ)先生にインタビュー。上顎の骨の高さを調整増生する手術・サイナスリフトについて解説していただきました。

サイナスリフト手術を行う主な目的や、どのように進められているのかなど、分かりやすく教えていただきます。

※前回の記事「失われた顎の骨をつくる『骨移植』とは?治療期間の目安なども解説

この記事の目次

サイナスリフトとは、使われる素材・人工骨とは?

歯の教科書 編集部

サイナスリフトとはどういった手術で、どういった目的のために行われるのでしょうか?

丸川恵理子先生

サイナスリフトは、インプラントを入れることを目的として、上顎の骨のボリュームを増やしてあげるという手術になります。

サイナスというのは目の下にある空洞である上顎洞(じょうがくどう)のことを指します。その底辺にある骨が薄いとインプラントを埋め込むことができないので、盛り上げてあげるんですね。

歯の教科書 編集部

骨を増やす手術は、どのように進められるのでしょうか?

丸川恵理子先生

上顎洞は空洞ですので、そこに骨の素となる素材を置いても動いてしまいますよね。

そこでまず、空洞の内部には骨膜が付いているのですが、それをそっと剝がしてあげるという繊細な手術を行います。

次に、その剝がれた膜と骨の隙間に、骨の素となる素材を移植してあげるんですね。

サイナスリフト手術の手順 ※画像提供:丸川恵理子先生

①写真左:粘膜を剥がした様子。写真右:移植後の様子。

②粘膜を剥がして、移植する空間ができた状態。

③インプラントが埋め込まれると同時に上顎の骨と骨膜の隙間に素材が移植された様子。

歯の教科書 編集部

骨の素となる素材とは、どのような素材なのでしょうか?

丸川恵理子先生

小さい粒・顆粒(かりゅう)のリン酸三カルシウムやアパタイトといった人工骨やウシ由来の骨があります。それらを移植して、半年くらい待っていると自身の骨に置き換わっていきます。

または、これらの素材に自身の骨を混ぜるという方法があります。大きさによって、口の中の一部の骨や足の脛骨(けいこつ)などから取ってきます。取ってくる骨を細かくして人工骨に混ぜてあげるんですね。

それを移植することで、より早く骨になりやすくしましょうねということですね。

また人工骨には、全て自身の骨に置き換わる材料と、一部だけ置き換わる材料とあって、2つを混ぜて使っている先生もいます。これは、先生の考え方によって変わってきますね。

国民の皆さんも、このような素材にはどういった作用があるのかなど、詳しく知る必要がある時期になっているのではないかと感じています。

サイナスリフトに使用される顆粒の人工骨・β-リン酸三カルシウム。写真はオリンパステルモバイオマテリアル株式会社のオスフェリオン®、MサイズとLサイズ。
※画像提供:丸川恵理子先生

インプラントと同時手術も可!メリット・デメリットを解説

歯の教科書 編集部

サイナスリフトの手術を受けるメリット・デメリットを教えていただけますか?

丸川恵理子先生

メリットは、インプラントを入れることができるということになります。もともとの骨に厚みがあり、少し増やせばインプラントを入れられるという場合は、1日で同時にサイナスリフトとインプラント埋入手術を受けることも可能ですよ。

デメリットでいうと、素材を入れる際なのですが、膜がすごく薄い方がいて穴が空いてしまうということがあるんです。空いてしまった箇所には、コラーゲンの膜を置いて処理をしますが、ちょっとテクニックが必要になってきますね。

空いてしまった膜を処置できないでいると、上顎洞に炎症が起きて感染を起こし、いわゆる蓄膿症(ちくのうしょう)の様な状態になってしまったりします。さらに、素材も骨に置き換わることがなく、インプラントを入れられるような状態にならない可能性があります。

ほかには、花粉症の方は手術を受ける時期に気をつけてください。花粉症の時期に手術を受け、逆行性に感染してしまう可能性があります。

歯の教科書 編集部まとめ

サイナスリフトとは、上顎の骨の厚み・高さを増してあげる手術ということが分かりました。目的は、インプラントを埋め込むためで、そのほかに用いられることはまずないそうです。

比較的成功率の高い方法として採用されているとのことですが、花粉症であることなどを術前に伝えておかないと、トラブルを誘発する原因となってしまいます。身体の状況は、しっかりと伝えておくことが重要です。

東京医科歯科大学 大学院 医歯学総合研究科
口腔再生再建学
丸川恵理子教授監修
経歴・プロフィール

東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 口腔再生再建学 教授

1997年3月:東京医科歯科大学歯学部 卒業
2000年2-3月:ドイツFreiburg大学顎顔面外科 留学
2000年3月:東京医科歯科大学大学院歯学研究科博士課程 修了
2000年4月:東京医科歯科大学歯学部附属病院口腔外科 医員
2002年4月:日本学術振興会 特別研究員
2004年8月:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎口腔外科学分野 助教
2013年4月:東京医科歯科大学歯学部附属病院口腔外科 講師
2014年6-8月:ドイツFreiburg大学顎顔面外科 留学
2017年4月:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎口腔外科学分野 准教授
2019年4月:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面外科学分野 准教授
2021年8月:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔再生再建学 教授    
現在に至る

ドクター詳細ページへ

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。