【教授に聞く】壊れた歯茎や骨を修復させる“歯周組織再生療法”とは?根本から治すことは可能なのか

歯周組織再生療法とは、どういった治療なのでしょうか? 日本歯科大学生命歯学部・沼部幸博(ぬまべゆきひろ)教授に解説していただきます。

歯周病治療で行う歯周組織再生療法とは、失った歯の周りの組織を元に戻すことができる治療なのか、どのような場合に受けられるのかなど、さまざまな疑問に答えていただきました。

※前回の記事「歯周病治療で大切なプラークコントロール!レーザー治療についても解説

この記事の目次

歯周組織再生療法とはどういう治療で、どのような場合に受けられるのか?

歯の教科書 編集部

歯周組織再生療法とは、どのような場合に用いられるのでしょうか?

沼部幸博教授

歯周病の進行は、歯茎の一部が炎症を起こして歯茎が腫れる歯肉炎という状態から、歯の周りの歯を支える骨などが破壊されていく歯周炎という状態へと移っていきます。

この歯周炎も軽度、中等度、重度と段階的に進んでいきます。軽度歯周炎の場合は、歯肉の腫れが大きくなり、歯周病菌が歯の周囲の歯を支える骨などの組織の一部の破壊を開始した状態です。歯のぐらつきを感じることもあります。

中等度歯周炎になると、歯茎の炎症がさらに拡大して骨が大きく壊されるため、歯がさらにぐらつく状態となります。腫れた歯茎から血が出やすくなるだけでなく、膿が出たりすることもあります。

重度歯周炎になると、歯を支える骨が歯の根の長さの半分以上にわたり破壊されてしまい、歯が大きくぐらつきます。歯茎の腫れや出血、膿が出る状態が継続します。

このように歯周病は、歯の周りを取り囲んでしっかり支えている組織や骨を壊していくので、最後には歯が自然に抜け落ちてしまうんです。

そこで、壊れてしまった歯周組織を治す方法として、歯周組織再生療法が用いられます。これは、なくなってしまった骨のほか、骨と一緒に歯を支えている歯根膜やセメント質などの歯周組織を元の形に戻そうという試みなんですね。

歯の教科書 編集部

歯周組織再生療法は、どのような流れで進められるのでしょうか? 再生という意味は“歯の再生”ではないのでしょうか?

沼部幸博教授

まずは手術として歯茎を切り開いて、深いとことろのデンタルプラークや歯石などの汚れをきれいに落としていきます。

次に、歯と歯茎の間にメンブレン(遮断膜)といった特殊な膜を埋め込んだり、または歯の根の表面に特殊な薬を塗ったりするんですね。そうすることで、歯の周りの組織が健康だったときのような形に治ろうとする力を後押ししてあげるんです。

再生という言葉からですと、臓器の再生や、歯の再生といったイメージをお持ちになるかもしれませんが、あくまでも歯の周りの組織、すなわち歯周組織の再生です。壊れてしまった歯周組織が元の形に戻ろうとする力を利用するという考え方ですね。

歯の教科書 編集部

どのような場合、歯周組織再生療法を受けられるのでしょうか?

沼部幸博教授

残念なことに手遅れの状態になってしまった歯周組織に対しては、歯周組織再生療法を行うことはできません。

軽度歯周炎、中等度歯周炎の状態くらいまでが歯周組織再生療法を受けることができると思ってください。重度歯周炎になってしまうと治療を受けることはできません。組織が破壊されすぎてしまうと、歯周組織を元の形に戻そうと活躍してくれるはずの細胞たちがもういないのです。

あくまでも「ある程度破壊された組織をより良く治す方法」であって、手遅れの状態を元通りにする“魔法の治療”ではないということです。

歯周組織再生療法の種類と、治療の進め方

歯の教科書 編集部

歯周組織再生療法には、どのような種類があるのですか?

沼部幸博教授

GTR法や、ストローマンの再生誘導剤・エムドゲイン®ゲル(※1)を使った方法(エムドゲイン法)、さらに、科研製薬のリグロス®歯科用液キット(※2)という薬を使った方法(リグロス法)がありますね。

GTR法(歯周組織再生誘導法)は、特殊な遮断膜・メンブレンを使用して行われます。歯と歯茎の間にメンブレンを埋め込んでスペースをつくってあげることで、スペースの中に骨などが再構築していくように細胞を誘導するのです。

1980年代に考案された歯周組織再生療法なのですが、現在ではあまり主流ではなくなってきていますね。治療には、テクニックが必要になってくるからです。

現在主流になっているのはエムドゲイン法、リグロス法で、歯茎を切り開いて汚れを取った後、歯の根の表面にそれぞれの材料や薬を塗布する方法です。骨をつくる細胞や歯茎の細胞による組織の再生を促進させる成分が含まれていて、歯周組織を再構築させるんですね。

細かくいいますと、リグロス法は保険診療となりますが、エムドゲイン法は自由診療となります。また、どちらも歯周組織の再生を確認できるまで、半年くらいの期間が必要になりますよ。

(※1)エムドゲインゲルはストローマンの登録商標です
(※2)リグロス歯科用液キットは科研製薬の登録商標です

歯の教科書 編集部

歯周組織再生療法によって、失われた歯周組織はどの程度修復するものなのでしょうか?

沼部幸博教授

歯周組織を細部まで元の健康な状態に戻せるかというと、それは無理です。ある程度まで再生することは可能です。

例えば、中等度歯周炎で治療を行ったとします。その場合で、歯を支える骨が数ミリ戻るといった感じですね。本当は、骨をすべて元に戻したいところなんです。

ただしその数ミリが重要で、歯の周りの組織の状態が改善されれば、歯のぐらつきも弱くなり、歯の機能は修復していきます。

失われた歯は元に戻せるのか?

歯の教科書 編集部

失った歯そのものを再生させるような治療は可能なのでしょうか?

沼部幸博教授

歯は、エナメル質があって、セメント質などがあって、象牙質があって、中に歯髄という神経がある。この構造は複雑で、そのままつくり上げるということは、至難の業です。

いろいろなところで研究は進められていて、綿密な形の歯の再生を試みている先生は多くいらっしゃいますが、まだ時間はかかるのではないかなと思います

歯の教科書 編集部まとめ

歯周組織再生療法とは、歯周病によって壊されてしまった歯周組織を元に戻そうという取り組みであって、歯そのものを再生させる治療法ではありません。

また歯周組織再生療法は、歯周病が重度に進んで手遅れになってしまった場合には使えず、軽度や中等度の状態までです。さらに、その状態でも細部まで元通りにできる魔法の治療ではないようです。

歯周病が悪くなってしまってから歯周組織再生療法に頼るのではなく、歯周病が進む前に病気に早めに気づき、早めの治療を歯科医院で受けることが、歯を健康に保つためには大切であると感じさせられました。

日本歯科大学 生命歯学部 歯周病学講座
沼部幸博教授監修
経歴・プロフィール

1983年3月:日本歯科大学歯学部卒業
1987年3月:日本歯科大学大学院修了(歯学博士)
1987年4月:日本歯科大学歯学部歯周病学教室 助手
1989年4月:日本歯科大学歯学部歯周病学教室 講師
1989年9月:カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)歯学部 客員講師(〜1991年)
1993年4月:日本歯科大学歯学部歯周病学教室 助教授
2005年6月~:日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座 教授
2018年4月~:日本歯科大学生命歯学部 学部長
現在に至る

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執筆者:歯の教科書 編集部

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