【教授に聞く】唾液をつくる唾液腺に起こる疾患とは!唾液腺疾患の種類や“すぐ歯科医院を受診した方がいい前兆”について解説

普段はあまり意識することがない唾液ですが、その作用は口腔内の湿潤状態を保ってくれているほか、糖質の分解に関わる消化作用、食事をスムーズに摂るための潤滑作用、食事後に酸性に傾いた口腔内を中和する緩衝作用、感染予防のための抗菌作用、虫歯の発生・進行を防ぐ再石灰化作用、傷ついた口腔粘膜の再生を促すなど粘膜修復作用など、非常に多岐にわたります。

また、口の中に“じわっ”と湧いてくる唾液ですが、湧いてくるもとになっている唾液腺に関しては、更に意識することが少ないのではないでしょうか。ですが、唾液腺に起こってしまうトラブル、すなわち唾液腺疾患があるようです。

鶴見大学歯学部口腔内科学講座の里村一人(さとむらかずひと)教授にお話を伺い、唾液腺疾患にはどういったものがあるのかなど解説していただきました。

※前回の記事「口腔感染症とは!よく耳にする“あの症状”も口腔感染症

この記事の目次

“3大唾液腺”と“小唾液腺”!いずれかの唾液腺に起こる疾患

Q1.唾液腺疾患とは、どういったところに起きるものなのでしょうか?

唾液腺には、耳の前にある耳下腺(じかせん)、顎の下にある顎下腺(がっかせん)、口腔の底の部分にある舌下腺(ぜっかせん)という“3大唾液腺”といわれているものがあります。

また、口腔粘膜のすぐ下にも小唾液腺といわれるものが数多くあるのですが、そのいずれかの唾液腺に起こる疾患は、すべて唾液腺疾患と呼ばれます。

おたふく風邪や唾石症(だせきしょう)!さまざまな唾液腺疾患

Q2.唾液腺疾患には、どのような種類のものがありますか?

唾液腺関連でよく知られている病気には、おたふく風邪がありますね。正しくは流行性耳下腺炎といい、ムンプスウイルスというウイルスの感染によって起こります。両側の耳下腺(ときには顎下腺も)が炎症を起こし、腫れて痛みを伴い、発熱する病気です。

読者の方の中にも、小さいときに経験した方が多いのではないでしょうか。この病気は小児期にかかり、その後は終生免疫ができるために、実際の歯科において問題となることはほとんどありませんが、症状を思い出していただくと、唾液腺(とくに耳下腺)がどこにあるのかを理解していただきやすいと思います。

また、唾液腺でつくられた唾液は、口腔粘膜にある孔(あな)から口腔内へと分泌されるわけですが、なんらかの原因により唾液がうまく出せないと、口腔内の細菌がこの孔から逆に侵入してしまうことがあります。

そして、これを洗い流せない状態が続くと唾液腺管(唾液腺でつくられた唾液を口腔内へ導くための管)内、さらには奥の唾液腺自体に炎症が起こります。この状態は細菌性唾液腺炎と呼ばれ、抗菌薬を用いた治療が必要になります。

このほかで比較的多い唾液腺疾患としては、唾石症(だせきしょう)というものがあります。

これは、唾液腺でつくられた唾液に含まれているミネラルなどの成分が析出し、唾液腺管内や唾液腺自体の中に結石をつくってしまう病気で、顎下腺に起きることが多いです。胆石や腎結石の唾液腺版と考えていただければ分かりやすいと思います。

このように結石ができてしまうと、唾液がうまく流れなくなるため、強い痛みを感じるようになります。特に、食事のときには唾液がたくさんつくられるのですが、結石があるために唾液をスムーズに出せず、唾液腺が腫れて、非常に強い痛みを感じます。

食事を終えて唾液の分泌が少なくなると、腫れも少しずつ引いていきますし、痛みも徐々に楽になっていきます。ところがまた食事をしようとすると、痛みと腫れが出てきてしまうということを繰り返す病気です。症状の出方に大きな特徴があるので、このような症状があれば早期に歯科医師にご相談下さい。

強い痛みを感じる唾石症!症状を改善させるには

Q3.唾石症になってしまったら、そのように対処したらいいのでしょう?

顎の下の部分が急に腫れ、強い痛みがありますので、最初は何だろうと驚かれると思います。実際に20mmを超えるような結石ができてしまっている方もいらっしゃいます。

小さいものでも、自然に唾液で洗い流すということができないので、治療としては手術で取るしかありません。

多くの場合は口の中を切開して唾石を摘出することができますが、唾石の位置によっては唾液腺自体を含めて摘出することもあります。この場合には、顎の少し下の部分に切開を加えることになります。

最近では、唾液の出てくる孔から唾液腺管の中へ特殊な器具を入れて、唾石を摘出する方法も用いられるようになってきています。

注意が必要な唾液腺疾患の例

Q4.ほかにも注意しなければいけない唾液腺疾患はありますか?

数としてはそう多くはないですが、唾液腺にも腫瘍があります。そしてほとんどの場合は良性腫瘍ですが、ときに悪性腫瘍であることもあるので注意が必要です。

唾液腺にできた腫瘍は臨床症状や画像検査だけでははっきりと診断することが難しく、治療も手術で摘出することが原則となります。そこで、この機会に皆さんにお願いしたいことは、耳の前から頬にかけて(耳下腺)、顎の下(顎下腺)、あるいは口の中の底の部分(舌下腺)の腫れやしこりに気づいたら、すぐに歯科医院を受診していただければと思います。

たとえ、それが手術が必要なものであったとしても、早期に発見さえすれば手術は驚くほど小規模で済みます。

鶴見大学 歯学部 口腔内科学講座
里村一人教授監修
経歴・プロフィール

昭和63年3月:徳島大学歯学部卒業
昭和63年4月:徳島大学大学院歯学研究科(口腔外科学第一講座)入学
平成4年3月:徳島大学大学院歯学研究科修了 学位取得【博士(歯学)】
平成4年4月:徳島大学助手歯学部(口腔外科学第一講座)
平成7年1月:米国国立衛生研究所 (NIH, National Institute of Dental and Craniofacial Research) Visiting Fellow (長期出張)
平成13年7月:徳島大学講師歯学部附属病院(第一口腔外科)
平成15年10月:徳島大学講師医学部・歯学部附属病院(歯科口腔外科)
平成17年1月:徳島大学准教授大学院ヘルスバイオサイエンス研究部(口腔顎顔面外科学分野)
平成21年4月:鶴見大学歯学部教授(口腔内科学講座)
平成28年4月:鶴見大学歯学部長(併任) ※平成31年3月まで
平成31年4月:鶴見大学副学長(併任)
現在に至る

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執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。