日本大学・歯学部・小児歯科学講座・白川哲夫教授に、どうしたら子供の歯の健康を守れるのかインタビューを行いました。
「キスで虫歯菌はうつるのか」「歯並びに影響する癖はあるのか」「虫歯になりにくい食事はあるのか」などの疑問を投げかけ、対応について解説していただきます。
※前回の記事「1歳の子供の歯が“ぐらぐら”!?全身に影響する“骨の異常”の可能性」
この記事の目次
キスで虫歯はうつる!?親子で細菌の遺伝子が一致
Q1.キスをすると大人の虫歯菌が赤ちゃんにうつることはありますか?
研究結果からいうと、そういうことになりますね。
歯が生えてきた1歳、2歳くらいのお子さんが持っている口内細菌を取って、細菌の遺伝子を調べます。お子さんの細菌と、お母さんの口内細菌の遺伝子配列を比べてみると、大半は遺伝子配列が一致しているということ分かっています。
お父さん、祖父母からもらっているお子さんはあまりいないらしいんですね。お母さんから引き継いでしまった・うつってしまったという場合が多いんです。
これは食事の際の食器や手などを介した細菌感染など、日常的な生活の中で感染が起きているということが考えられます。なるべく、同じ食器やスプーンでの食事はしない方がいいんですけれども、ちょっと寂しい感じもありますね。
そのため、小さなお子さんを持つお母さん・お父さんも口の中の状態をよくし、細菌数を減らしておくことが大切ですね。口の中に虫歯の原因菌がほとんどいないお母さんから細菌が移ったとしても、移った細菌自体があまり悪さをせず、虫歯にはなりにくいということがあります。
指しゃぶり、爪噛みなど!歯並びに影響を与えてしまう癖
Q2.どういった癖が歯並びに影響するのか教えてください
歯並びに影響を及ぼすといわれている習癖は、まず指しゃぶりではないかと思います。これは基本的に、親指ですね。
親指を口に入れる行為は、2~3歳児ではやっている子も多く、3歳くらいの間に止めてしまえば悪影響は出にくいです。しかし、4歳、5歳、6歳と続けている場合には、永久歯の歯並びにも影響が出てしまうことがありますね。
指しゃぶりは、寂しさや不満があるなど、心理的な要因があってなかなか止めさせることは難しいんですけれども、根気よく声かけをするなどして、早めに止めてもらったほうがいいと思います。
ほかにも、 “ベロ”をちょっと前に出してしまう口の習癖があります。これは飲み込み方が悪いせいで出す子もいますし、指しゃぶりの影響で、上下の前歯の間に隙間ができてしまったために出してしまう子もいます。
前歯同士が噛み合っていない・隙間があると、ベロが前に出やすくなるんですよね。こういう癖が続くと、永久歯の歯並びに影響が残ることがあります。
それ以外でも、爪噛みの癖、唇を巻き込むような癖など、口の周りの癖が、歯並びに影響を与えることがあります。
何がマイナスに!?歯みがき剤を避ける理由
Q3.「小さいうちは歯磨き粉を使わない方がいい」といわれるのはなぜでしょう?
市販の練り歯磨き剤は、発泡作用があり、香りもあり、唾液も出やすいので短時間で“磨いた気”になってしまうんですね。そういったマイナス面が考えられるので、小児歯科では「歯磨き剤をなるべく使わないで磨きましょう」と伝えています。
ただし、歯磨き剤を使うことで、本人が意欲的に歯磨きができるという場合は、少量付けて磨いていただいても大丈夫です。時間をかけてちゃんと磨けているかどうかを保護者の方に確認していただいて使う分には問題ないかと思います。
虫歯になりにくい食事とは?キシリトールの効き目は?
Q4.虫歯になりにくくなるような食事のとり方を教えてください
バランスよく食べることが大切です。好き嫌いがあるよりは、いろんなものを食べる方が、虫歯にもなりにくいといえますね。
いつもお菓子ばかり、柔らかいものばかり食べていて、野菜や肉も嫌いといった偏食があると虫歯にむすびつきますし、結果的に歯並びにも悪影響を及ぼすということがあります。
現代の食生活では、歯ごたえのあまりないものを食べていますよね。しっかりと噛める食材を選んで、お子さんに食べてもらうことが、虫歯予防だけでなく、咀嚼にかかわる骨格、筋肉の発育にもつながるのではないかと考えます。
Q5.キシリトールが含まれたお菓子を選んだ方がいいのでしょうか?
キシリトールはかなり普及していますし、人工の甘味料としては虫歯になりにくく、むしろ予防作用があるとされていますね。それはほとんど正しいのではないかと思います。ただ、キシリトールを主な甘味料として含むお菓子を選んでおくのは、無難といえば無難ですが、必ずしもキシリトールのおやつを選びましょうということでもないです。
それよりも、砂糖を含んでいるお菓子が世の中にはあふれていますので、そういったものを食べる回数を減らすことが大事になってきます。特に夕食後に砂糖をたくさん含んでいるおやつを口に入れるのは止めましょう。これでは、いくら歯磨きをがんばっていても、歯ブラシの毛先が十分には届かないところ、例えば歯と歯の間や歯と歯茎の境目などに汚れが残ってしまいますよね。
磨きにくいところに砂糖が留まりつづけると、虫歯の原因菌が、砂糖を材料にねばっこいグルカンという成分をつくってしまいます。その後、グルカンの中でさらに細菌が増え、主に砂糖を材料として酸がつくられることで寝ている間に歯が溶けていく恐れがあります。虫歯菌は砂糖さえあればいつでもグルカンをつくりますので、夜だけでなく、日中も砂糖を取る回数を少なめにすることが虫歯予防にとっては重要ですね。
まとめ
子供の歯の健康を守るためには、親御さんも口の環境を整えることが重要だと分かりました。
また、指しゃぶりなどの癖が続くと、歯並びに影響してしまうことが分かっているので、それらの癖はなるべく早く止める必要があるといえます。
そして、キシリトール入りで歯に優しいとされているお菓子ばかりを選ぶことよりも、砂糖を取る回数を減らし、夜には食べないということが大切と知ることができました。
※次の記事「スペシャルニーズ歯科とは?生涯にわたって見守る歯科治療の提供」
日本大学 歯学部 小児歯科学講座 教授
【略歴】
1986年~1989年:北海道大学歯学部附属病院 助手
1989年~2002年:北海道大学歯学部附属病院 講師
2002年~2003年:北海道大学歯学部附属病院 高次口腔医療センター 助教授
2003年~2006年:北海道大学病院 高次口腔医療センター 助教授
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。