【教授に聞く】いまさら聞けない虫歯治療について~「おとな虫歯」についても詳しく解説~

前回に引き続き、日本大学歯学部 保存学教室 修復学講座教授 宮崎 真至(みやざき まさし)先生に、虫歯治療についてのお話をお伺いします。

毎日歯磨きをしていても気づかないうちに持っているかもしれない「おとな虫歯」「かくれ虫歯」について解説していただきました。

前回の記事:虫歯の詰め物は銀歯だけじゃない!~虫歯治療における保存修復治療について~

この記事の目次

宮崎先生に【大人の歯科治療】について聞いてみた!

Q1.虫歯を放っておくと「歯の神経が死ぬ」ということは医学的にあり得る?

虫歯を放置していくと、そのまま歯の表面のエナメル質、その下の象牙質まで犯していきます。そのまま放置するとその下にあるいわゆる神経が生えている穴にまで(虫歯菌が)入ってしまいます。そうすると、そこは神経という「細胞」があるので、細胞がばい菌に侵されて生活できなくなる、いわゆる「神経が死んでしまう」という状態になるんですね。

そうすると、死んだ細胞の残渣(ざんさ)、あるいは血液成分などが残ってしまうと、そういった物が歯にしみこんでしまって黒くなってしまうということが起こってきます。例えば、「神経が死んで歯が黒いんです」という芸人さんもいましたが、まさに神経が死んでしまうと、ああいった状態になってしまうんですね。

Q2.神経が死んだ歯は残さずに歯を抜いて治療をするべき?

歯が黒ずんでしまって、神経が死んでしまったような場合でも、やはり歯はとても大切です。

治療法としては、その神経の管の中にある「残渣(ざんさ)」をきれいにして、あるいは細菌がいる場合にも、それらをきれいにして緊密に蓋をして、歯の壊れた程度によって詰め物、あるいは被せ物をすることによって、再び機能と美しさを付与するという治療法が選択されます。

Q3.虫歯になると口臭がきつくなるって本当?

虫歯になると、やはり虫歯菌は虫歯の穴が住みかとなります。そこにどんどんばい菌が溜まっていくと、ばい菌が産生するガスといった物が口臭の原因となります。

これは、歯周病でも同じです。歯周病でも歯茎のところにばい菌が入ると、ばい菌がにおいのきついガスを出します。虫歯も歯周病もやはり口臭の原因になります。

Q4.乳歯の虫歯は、永久歯に生え変わるから放っておいても大丈夫?

乳歯の虫歯の治療もとても大切です。やはり虫歯があると、お口の中に悪い細菌がどんどん溜まっていく可能性があります。また、虫歯をそのまま放置しておくと、だんだんその中の神経にまで影響が及びます。

そうすると、最悪の場合は、その下にある永久歯の形成に影響を及ぼすということも起こってきます。したがって、乳歯の場合でもしっかりと治療するということが大切になります。

日本大学歯学部教授 宮崎真至 先生

Q5.虫歯にならないようにするにはどんな心がけが必要?

口の中の二大疾患というのが「虫歯」と「歯周病」になります。そのいずれにも共通するのですが、食べたら磨く、夜寝る前に磨く、やはりお口の中の清掃が重要なことになります。ただ単にブラシをするだけではなく、「歯磨き粉」もさまざまな物がありますが、自分に合った歯磨き粉をぜひかかりつけの歯医者さんで教えてもらって、それを使用するよう心がけることが大切だと思います。

Q6.虫歯があるけど痛くはない…。先生の考える受診のタイミングは?

昔は歯が痛いから、欠けたから歯医者に行くということがほとんどだったと思います。しかし今は毎日歯を磨く人がほぼ100%近くなってきて、なかなか痛みが出る、欠けるということが少なくなってきているというのが現状だと思います。

そのような中で、現代では「おとな虫歯」、あるいは「かくれ虫歯」と言いますが、だんだんゆっくりと進んで、しかも痛みが出ないという虫歯が見られるようになってきています。ですので、やはり年に1回はかかりつけの歯医者さんに行って、チェックをしてもらうことが大切になってくると思います。
予防をする、早めに手当てをしていくということが、大きな問題になる前にすべきことだとよく考えてください。

Q7.「おとな虫歯」「かくれ虫歯」とはどのような虫歯?

「おとな虫歯」と言われている虫歯は、どのようなところにできるかと言うと、歯の根っこに近い部分です。あるいは歯と歯の間といった、鏡を見てもなかなか見えない部分ですね。そのような部分でじわじわと進んでいって、50代~60代の患者さんが、何か食べていたときに歯と歯の間が欠けたといらっしゃる場合があります。

まったく痛みが出なく、いつの間にか進んでいき、進み方も1~2年という単位ではなく、10年、15年といった長い間にわたって進んでいくというのが、いわゆる「おとな虫歯」になります。

予防法としては、歯ブラシに加えて、歯間ブラシやデンタルフロスといった物を使うことをおすすめします。

Q8.歯科治療の新たな技術や治療法があれば教えてください

例えば、虫歯のレントゲン写真を撮って、虫歯の広がりを見るという診断方法があります。現在、まだ臨床現場では使われていませんが、光をあてて、その反射光を見ることによって断層像を確認するという技術が進んでいます。これは、眼科領域ではすでに臨床現場で使われているような技術です。

虫歯の治療にしてもこれまでは、キーンという音がしていて、高速で削っていくような器具がほとんどでしたが、そういった器具も音が少なくなるような技術が進んでいます。あるいは、ただドリルで削るだけではなくて、液状の薬剤を用いて、虫歯を溶かして取るという技術もあります。

詰め物などではCAD/CAM(キャドキャム)という機械を使って設計をして、一つの形を作ってお口の中に戻すという技術。これはさまざまな工業界でも使われていますが、現在歯科業界でも前向きに取り入れられています。またこれまでは型取りをするときに、柔らかい物をお口の中に入れて、何分かたってからはずすということがありましたが、今はカメラのような物で型取りをして、コンピューター上で設計をするという技術が進んでいます。

Q9.読者の方へ、各年代におけるオーラルケアのアドバイスやメッセージをお願いします

お口の中のケアに関しては、世代ごとに考えるということが大切です。

やはり、赤ちゃんの頃は母親が一生懸命コントロールし、小学生の頃までは、母親父親の言うことを聞いてしっかりと歯を磨きましょう。現在、12歳の虫歯保有率は非常に少なくなってきています。

その後、中学生・高校生となり、勉強が忙しくなってくると、やはりお口の中の環境が悪くなる可能性があります。親御さんの手から離れる時期ですが、ご両親がしっかりと、お口をケアすることを助言してあげるのが大切だと思います。

社会人になる20代、30代は非常に忙しい年代です。そうすると、お口の中の健康を保つことが難しなってくるような年代です。仕事とともに、自分のお口の中をしっかりと管理することが、20代30代では大切になってきます。

そして、40代、50代と、そろそろ自分の仕事も仕上げの時期になってくる年代だと思いますが、その頃が「かくれ虫歯」、「おとな虫歯」ができつつある頃です。また、歯槽膿漏(のうろう)の始まる年代でもあります。ですから、そういった時期には歯ブラシとともに、歯間ブラシ、デンタルフロスなどを併用しましょう。

60代、70代はいよいよ人生の仕上げの時期になってきます。「8020(ハチマルニイマル)運動」という80歳まで20本の歯を残そうという目標ありますが、現在達成率は約50%にまでなってきました。多くの歯が60代以降も残るようになりましたが、歯がたくさんあるために「おとな虫歯」になる可能性がある、歯の根っこに近い部分が虫歯になる可能性がある、そして歯槽膿漏の可能性もあるということです。歯が磨きづらい、磨くのが大変だという年代にもなってくるので、定期的な歯科医院の受診が大切になってくるかと思います。

まとめ

今回は宮崎先生に、「おとな虫歯」の解説と、デンタルケアのアドバイスを年代別にいただきました。次回は、敷居が高く感じがちな「大学病院での歯科治療」について、どのようなときに受診したら良いのかなどをお伺いします。

日本大学 歯学部 保存学教室修復学講座
宮崎真至教授監修
経歴・プロフィール

日本大学歯学部 保存学教室修復学講座 教授

【略歴】
1987年:日本大学歯学部卒業
1991年:日本大学大学院歯学研究科修了
1994~1996年:米国インディアナ州立大学歯学部留学
2005年:日本大学教授(歯学部歯科保存学I)

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執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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