虫歯の進行度ごとの治療法や治療費、期間などを説明します。虫歯の治療を受けるのに抵抗感がある人は多いと思いますが、痛みに配慮した治療もあります。歯医者さんに行こうかためらっている人は、参考にしてください。妊婦さんや幼児の虫歯治療のポイントも解説しています。
この記事の目次
1.虫歯の進行度と治療方法
虫歯は、放置するとどんどん進行してしまうことがあります。悪化するほど治療が大がかりになってしまうため、できるだけ早く歯医者さんを受診することが大切です。
この章では、虫歯の進行度を『CO~C4(※)』の5つに分けて、段階ごとの治療法を紹介します。
※虫歯の進行度をあらわす『C』は、英語で虫歯を意味する『Cries(カリエス)』の頭文字です。歯医者さんでは、この『C』を用いて虫歯の進行度を判定しています。また、「CO」の「O」はゼロではなく「O(オー)」です。英語で観察を意味する「Observation(オブザベーション)」からきています。
関連記事:【歯科検診】CO、GOとは何か?診断結果に応じた対策法も紹介
1-1 「CO」虫歯になりかけの状態
歯の表面が白く濁っている、わずかに着色しているといった“虫歯になりかけ”の状態が『CO』です。痛みを感じることはないとされています。
◆治療法
歯医者さんでは、歯の状態によって「再石灰化」を促すためにフッ素を塗る治療をします。
フッ素は歯を溶けにくくしたり、カルシウムを作ったりする働きがあり、虫歯の進行を防いでくれます。歯医者さんで使用しているフッ素は、市販のものより濃度が高く、歯質を強くさせる働きも期待できます。
『CO』は経過観察で済む場合がありますが、その後のケアの状況によっては虫歯にならないとは限りません。歯医者さんの定期健診を受けてチェックしてもらうことをおすすめします。
1-2 「C1」黒や茶色に変色し小さく穴が空いた状態
虫歯になりかけていた状態から進行し、歯に小さく穴が空いてしまった状態が『C1』です。
穴は黒や茶色に変色していますが、歯の表面のエナメル質にだけ虫歯ができている状態のため、痛みをともなうことはほとんどありません。ただし、冷たい飲み物がしみるといったことはあるようです。
◆治療法
虫歯になっている部分を削り、コンポジットレジンと呼ばれるプラスチックの詰め物をするのが基本です。小さい虫歯であれば、1回の治療で済むことが多いです。
1-3 「C2」虫歯が象牙質まで進行した状態
歯のエナメル質の下には、象牙質があります。虫歯が象牙質まで進行すると、虫歯の部分と神経との距離が近くなるため、甘いもので痛みが出たり、冷たいものがしみたりするようになります。
象牙質はエナメル質よりもやわらかいため、虫歯の進行も早いと言われています。放置してしまうと歯の内部の歯髄(しずい=歯の神経がある部分)まで進行し、何もしなくても痛みが生じます。
できるだけ早めに歯医者さんを受診することが大切です。
◆治療法
痛みがある場合は、麻酔をしてから虫歯になっている部分を削り、コンポジットレジンを詰めたり、セラミックや金属の詰め物をしたりします。
型を取って詰め物を作る場合、通院は2~3回程度が目安となります。
1-4 「C3」虫歯が歯髄に達し激痛をともなう状態
虫歯が歯髄に達すると、何もしていなくても激痛を感じることがあります。我慢してしまうと神経が死んでしまうため、できるだけ早く歯医者さんを受診しましょう。
すぐに歯医者さんに行けないときは、市販の鎮痛剤を服用するといった応急処置も検討しましょう。市販薬を使用する際には薬剤師の指示に従い、用法用量を守って使用してください。
◆治療法
虫歯になっている象牙質を除去するとともに、リーマーやファイルと呼ばれる針状の特殊な器具を使い、虫歯が達してしまった神経を取り除く「根管治療」という方法もあります。
神経を取り除いた歯髄部分をきれいに清掃し、再度細菌に感染しないよう消毒をしてから薬剤で密閉します。
削った象牙質部分に替わるものとして、被せ物をします。歯冠部(歯茎から出ている部分)が残っていない場合は、まず土台を設置し、土台に被せる治療です。
『C2』までの状態よりも、治療にかかる回数や費用、身体的な負担などが大きくなります。
関連記事:歯が痛い!寝られないほどの痛みに応じた応急処置と、歯医者さんでの対処法
1-5 「C4」歯冠部がほとんど溶けてしまった状態
『C4』までくると、歯冠部がほとんど溶けてしまい、歯髄の神経も死んでいることが多くなります。神経が死んだことで痛みを感じなくなります。
しかし、そのまま放置すると歯の根の先まで虫歯が進行し、膿がたまって歯茎が腫れ、痛みが出るようになります。歯冠部がなくなってしまったら、痛みを感じなくても、できるだけ早く歯医者さんを受診しましょう。
◆治療法
歯を残せる場合は、『C3』と同じように根管治療をし、詰め物や被せ物をします。しかし、『C4』になると、歯が残せないことも多いと言われています。
歯を残せない場合、抜歯をして「ブリッジ」「入れ歯」「インプラント」など歯の機能を取り戻す治療をおこなうケースが考えられます。
関連記事:虫歯を放置するリスクとは?放置した虫歯の治療法、費用目安も紹介
2.虫歯の治療費、保険診療と自由診療の違い
虫歯治療のほとんどは「保険診療」でまかなうことができます。虫歯の進行度によって異なりますが、神経を抜いた場合の治療費は4000円程度、歯を抜いた場合は3000円程度が目安と言えます。
より自然な見た目やよい使用感を求める場合、「自由診療」で治療を受けることもできます。自由診療は保険適用外のため全額自己負担となりますが、セラミックなどを使用した詰め物や被せ物も選べます。
保険診療の銀の詰め物や被せ物と、自由診療のセラミックを使用した詰め物や被せ物の費用の目安は、次の通りです。
詰め物/被せ物 | 費用の目安 | 保険診療/自由診療 | 期間の目安 |
銀の詰め物 | 4000円程度 | 保険診療 | 1~2週間 |
銀の被せ物 | 5000円程度 | ||
セラミックの詰め物 | 3~6万円程度 | 自由診療(※) | |
セラミックの被せ物 | 6~14万円程度 |
※自由診療の費用は歯医者さんによって異なります。詳細は歯医者さんに確認しましょう。
セラミックは、より本物の歯に近い色で修復できるほか、経年劣化が少なく体になじみやすいというメリットがあります。
ただし、強すぎる力がかかると割れたり欠けたりすることがある、費用が高額になってしまいがちといったデメリットもあります。
一方の銀を使った詰め物や被せ物は、費用を抑えられるというメリットがあります。
しかし、劣化が早いため、劣化した部分から細菌が侵入して虫歯を招いてしまうリスクや、目立つといったデメリットがあります。歯医者さんとよく相談し、自分が納得のいく方を選びましょう。
3.痛み軽減に欠かせない麻酔
虫歯治療では、麻酔を用いることも少なくありません。麻酔のおかげで、痛みを抑えた治療を受けることができます。
しかし、麻酔の針を刺すときや麻酔液を注入するときの痛み、違和感が苦手な人にとって、麻酔は歯医者さんに行くのをためらってしまう理由になることもあります。
ところが、近年では麻酔そのものの痛みを抑える工夫を取り入れた歯医者さんも増えてきています。
3-1 針を刺すときの痛みを軽減する「表面麻酔」
表面麻酔は、歯茎の表面に麻酔液を塗って麻痺させることで、針を刺すときの痛みを軽減させる麻酔です。注射器タイプの麻酔をする前や、チクチクとした刺激が生じかねない歯石除去の際に用いられています。
3-2 「浸潤麻酔」と「伝達麻酔」
◆歯医者さんでおこなう一般的な麻酔が浸潤麻酔
浸潤麻酔(しんじゅんますい)は、歯医者さんでおこなう一般的な麻酔です。表面麻酔を併用することで、針を刺すときの痛みが軽減されます。
歯医者さんによっては、麻酔液を人肌程度に温めることで温度差による刺激を軽減したり、細い針を使用して刺すときの痛みを軽減したり、といった工夫も取り入れられています。
電動麻酔注射器を使用して、麻酔液を注入する速度を一定にし、圧力による痛みを軽減する方法もあります。
◆治療後の痛みまで緩和させる伝達麻酔
浸潤麻酔よりも広範囲に、長時間にわたって効き目をもたらすのが伝達麻酔です。下顎の奥歯といった、麻酔が効きにくい箇所に注射する際に用いられることが多くあります。
浸潤麻酔と併用することで治療後の痛みも緩和でき、鎮痛剤の量が減らせるといった特徴があります。
3-3 下の奥歯と炎症部分は麻酔が効きにくいことも
歯を支えている「歯槽骨(しそうこつ)」の表面は「皮質骨(ひしつこつ)」と呼ばれる硬い骨に覆われています。特に下の奥歯の皮質骨は硬くて厚いため、麻酔が効きにくいとされています。
また、歯茎に炎症がある人も麻酔が効きにくくなってしまうことがあるようです。麻酔が効きににくいと感じる場合は、遠慮なく先生に相談しましょう。
◆麻酔が効きにくい人には「歯根膜注射」も
麻酔が効きにくい人には、歯と歯槽骨の間にある歯根膜に直接注射することもあります。効き目が早く、麻酔液の量が少なく済むとされています。
しかし、圧力がかかるため痛みが出やすく、麻酔が切れてからも歯が浮いたような感じが残る人もいるようです。
4.妊婦さんの虫歯治療について
Q:妊娠中でも虫歯治療は受けられる?
A:妊娠中も虫歯治療を受けることは可能です。
ただし、妊娠初期(~4カ月程度)の場合、つわりといった体調の変化が大きいため“応急処置”程度で済ませ、妊娠中期(5~7カ月の安定期)に入った時点で治療するのが望ましいと言われています。
妊娠後期(8~10カ月)は、母体や胎児への影響に配慮し“応急処置”で済ませることが多いようです。
歯医者さんで治療を受ける前に書く問診票には、「妊娠何カ月(何週目)か」「かかりつけの産婦人科はどこか」といった情報を正しく記入しましょう。
また、産婦人科の主治医の先生に、虫歯治療を受けても問題がないかどうか相談しておくことも検討しましょう。虫歯の治療中に体調が優れないといったときは、遠慮なく歯医者さんに申し出ましょう。
Q:レントゲン撮影はお腹の赤ちゃんに影響しない?
A:歯医者さんのレントゲン撮影は、口に向けておこなうため、お腹の赤ちゃんに影響を与えることはないとされています。また、被爆を防ぐためのエプロンを首に掛けるといったように、体への影響について配慮されています。
Q:麻酔はお腹の赤ちゃんに影響を与えない?
A:虫歯治療の際におこなう麻酔は、部分的に麻酔液を注入する局所麻酔です。そのため、お腹の赤ちゃんに影響を与えたり、胎盤や母乳を通して麻酔が送られたりすることもないとされています。
Q:歯医者さんで処方される鎮痛剤は大丈夫?
A:妊娠していることを伝えれば、歯医者さんでは妊婦さんが使用可能な鎮痛剤を処方してくれます。心配な人は、妊娠中の体の状態をよく分かってくれている、産婦人科の先生に相談してみることも検討しましょう。
5.幼児の虫歯治療について
5-1 子どもは虫歯になりやすい
乳歯は、エナメル質と象牙質が大人よりも薄いため、虫歯の進行が早いとされています。また、生えてきたばかりの歯は酸に弱く、虫歯になりやすいと言えます。
大人がしっかり仕上げ磨きをしてあげましょう。
歯の生え替わり時期は、大人の歯と子どもの歯が混在して凹凸が多い、歯茎が腫れやすいなど、歯を磨きにくい状況にあります。奥歯の噛み合わせの溝や歯と歯の間が、特に虫歯になりやすいので気をつけてあげましょう。
5-2 虫歯が進行すると変色や歯並びへの影響も
虫歯が進行した場合、神経に達していなければ、虫歯の部分を取り除いてプラスチックの詰め物をする治療が基本です。
しかし、虫歯が進行して神経に達していたり、歯の根まで侵されていたりすると、歯の根の先に膿が溜まり、永久歯が虫歯になりやすくなる、変色する、歯並びに影響を与えてしまうといったリスクが生じます。
その場合、乳歯の神経を抜くこともあります。定期的に歯医者さんを受診し、虫歯の早期発見につなげましょう。
5-3 虫歯予防にはフッ素塗布とシーラント
歯医者さんで痛い思いや怖い思いをすると、子どもが歯医者さん嫌いになってしまうかもしれません。
できるだけ痛みの少ない治療をおこなってもらうには、定期的に歯医者さんを受診して虫歯を早期発見することが大切です。日頃のケアと併せて、定期健診を受けることも検討しましょう。
幼児の虫歯予防として代表的なのは、フッ素です。
自宅ではフッ素配合の歯磨き粉を使ってのケアがおすすめです。併せて、3カ月ごとを目安に歯医者さんでフッ素塗布をしてもらい、虫歯を防ぐとともに歯質の強化を目指しましょう。
フッ素を塗るだけなら痛みは感じません。また、定期的に歯医者さんに通うことで、恐怖心を取り除くことも期待できます。
フッ素以外にシーラントと呼ばれる乳歯の虫歯予防法もあります。シーラントとは、乳歯で虫歯ができやすい奥歯の噛み合わせの溝にプラスチックを詰め、虫歯を予防する方法です。
6.まとめ
虫歯治療の痛みを抑えたり、削る部分を減らしたりするための技術は日々研究されています。先生も、虫歯の進行度や状況に応じた治療を選択し、大切な歯をできるだけ良い状態で残すことに努めてくれます。
受診をためらっている人は、まずは相談だけでもしてみましょう。口内がどのような状況か、どのような治療が必要なのか、不安なことを質問してみましょう。
虫歯をつくらないためには、日頃のケアがとても大切です。歯を磨いていても虫歯になってしまう人や、子どもの歯磨きに不安がある人は、歯医者さんで歯みがきの仕方を指導してもらうのもおすすめです。
血液型:B型
誕生日:1978-09-07
出身地:千葉県
趣味・特技:映画鑑賞、読書、勉強(歯科医療関係)
座右の銘:一意専心
好きな食べ物:唐揚げ(唐揚げニスト)、ハンバーガー、ステーキ
2003年 明海大学歯学部 卒業
2005年 すまいる歯科 分院長就任
2008年 あすか歯科クリニック 分院長就任
2012年 東葉デンタルオフィス 開院
現在に至る
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。