虫歯を予防!フッ素が歯を強くするメカニズムとは?

虫歯を予防!フッ素が歯を強くするメカニズムとは?

一般に「フッ素は歯に良い」と言われているのは、ご存じだと思います。ドラッグストアなどには「フッ素を配合した歯磨き粉」が売られていますし、予防歯科に力を入れている歯医者さんでは「フッ素塗布」をおこなっています。

ところで、なぜフッ素は歯に良い影響を与えてくれるのでしょうか?この記事では、「フッ素が歯を強くする理由」「フッ素で歯の健康を守る方法」について解説することにしました。

この記事の目次

1.フッ素が歯を強くしてくれる理由

フッ素が「歯を強くする」と言われているのは、「歯が酸に抵抗する力」を強化してくれるからです。「酸に抵抗する力」を「耐酸性(たいさんせい)」と言います。この章では、まず虫歯になる理由を解説し、その上で「フッ素が耐酸性を強化するメカニズム」をお伝えします。

1-1 虫歯の原因は、虫歯菌が作り出す「酸」

虫歯菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)は、口の中にある「糖類」を「酸」に変える働きをします。すると、口の中が酸性に変化します。

口腔内が酸性になると、歯の表面にある「エナメル質」が影響を受けます。歯のエナメル質は「リン酸カルシウム」の一種―「ハイドロキシアパタイト」です。ハイドロキシアパタイトは酸に弱く、酸性の状態では「カルシウム」「リン酸」が唾液の中に溶けだしてしまいます。唾液に溶けだしたカルシウムを「カルシウムイオン」、リン酸を「リン酸イオン」と呼びます。

口腔内が酸性になると、エナメル質の材料が一部、唾液の中に溶けだしてしまう」と理解していただければ、とりあえずは問題ありません。こうして、どんどんエナメル質が溶けていくと、いずれは穴が開いて虫歯になってしまいます。ここで解説した「エナメル質が溶けだす現象」を「脱灰(だっかい)」と呼びます。

1-2 「再石灰化」が起これば、虫歯になりにくい!

「脱灰」が起きただけで虫歯になるわけではありません。エナメル質の表面だけは、自然治癒の可能性があります。

唾液に溶けだした「カルシウムイオン」と「リン酸」は、何ごともなければ、大半が歯に戻っていきます。食事が終わって40分くらい経つと、唾液の働きで口の中の環境が元に戻ります。口腔内は酸性から中性になり、エナメル質の脱灰が止まるわけです。

そして、無事に「カルシウム」と「リン酸」がエナメル質の「ハイドロキシアパタイト」の中に戻れば、すべては元通りになります。エナメル質は再生し、虫歯になりにくくなります。「エナメル質が再生すること」を「再石灰化(さいせっかいか)」と言います。

脱灰が起きても、きちんと再石灰化が起きれば虫歯になりにくくなります。しかし、再石灰化が不十分だと、エナメル質がどんどん溶けて虫歯になるリスクが高まります。

1-3 フッ素はエナメル質を強化し、再石灰化をサポートする

さて、虫歯のメカニズムがわかったところで、フッ素の作用を解説することにしましょう。まずは「フッ素が、どのようにエナメル質を強化するか」という部分から説明します。

エナメル質を構成する「ハイドロキシアパタイト」は、大きくわけて「カルシウム」「リン酸」「水酸基(すいさんき)」の3要素からできています。このうち、脱灰で溶け出すのは「カルシウム」と「リン酸」でした。

歯の表面に「フッ化物(フッ素原子を含む物質)」を塗ると、エナメル質の「ハイドロキシアパタイト」に変化が起こります。具体的には、一部の「水酸基」と「フッ素」が入れ替わります。「水酸基」が「水酸化物イオン」として外に出て、「フッ素(フッ化物イオン)」が代わりに中に入っていくわけです。

フッ素が入り込んだ「ハイドロキシアパタイト」は、別の物質に変化します。この物質を「フルオロアパタイト」と呼びます。

「ハイドロキシアパタイト」は酸に弱い物質でしたが、「フルオロアパタイト」は違います。口の中が酸性になっても、そうすぐには溶け出しません。酸に抵抗する力―「耐酸性」が高いからです。その結果、脱灰が起こりにくくなります。

このように「ハイドロキシアパタイトの一部がフルオロアパタイトに変化する」というのが、「フッ素によりエナメル質が強化される」という現象のメカニズムです。

また、フッ素は脱灰で溶け出した「カルシウムイオン」と「リン酸イオン」がエナメル質に戻るのをサポートする働きも持っています。つまり、再石灰化を促進するわけです。

以上から、フッ素は「脱灰を防ぐ作用」と「再石灰化を促す作用」の両方を持っていることがわかります。わかりやすくいうと「エナメル質を溶けにくくする」と同時に「再生しやすくする」ということです。

2.歯医者さんで実施!フッ素の力で歯を強くする方法

それでは、実際にフッ素の力で歯を強化する方法を紹介したいと思います。歯医者さんでおこなっている「フッ素塗布」だけでなく、「フッ素配合の歯磨き粉」など自宅でできるケアグッズにも予防の働きは認められています。

2-1 「フッ素歯面塗布」~「高濃度フッ化物」を使用できる!

いわゆる「フッ素塗布」のことです。フッ素濃度9,000ppm(1mlあたり9mg)までの濃度が認められており、歯科医師・歯科衛生士のどちらかが実施することになっています。「綿棒でフッ化物を塗りつける方法」「フッ化物の入ったトレイを口腔に装着する方法」など、さまざまな塗布方法が存在します。歯に塗布するフッ化物としては、「フッ化ナトリウム」「酸性フッ化リン酸溶液」「フッ化第一スズ」などが用いられます。

高濃度のフッ化物が使えるので、長期間、フッ素を口の中に残存させることができます。高濃度フッ化物は、歯の表面で「フッ化カルシウム」という結晶になります。口腔内が酸性(pH5.5以下)になると、エナメル質の前に「フッ化カルシウム」が溶けだします。簡単にいえば、バリアのような役割を果たしてくれるわけです。

2-2 「フッ素配合歯磨き粉」~自宅でケアできる!

フッ素を配合した歯磨き粉を使えば、毎日のブラッシングでエナメル質を強化することができます。認められているフッ素濃度は1,500ppm(1mlあたり1.5mg)以下です。フッ素は頻繁に使うことで、低濃度でも効き目を発揮します。毎日使っている歯磨き粉を見直すだけでも、十分な虫歯予防作用が得られるでしょう。

ただし、フッ化物を飲み込まないようにする必要があるので、自分で歯磨き粉を吐き出せる年齢になってから使用してください。

2-3 「フッ素洗口液」~OTC医薬品でケア!

フッ素を含んだ洗口液で、口をゆすぐ方法です。かつては「フッ素洗口液」を購入するのに歯科医師の処方箋が必要でしたが、今はOTC医薬品として市販されています。フッ素濃度は250~900ppm(1mlあたり0.25~0.9mg)が一般的です。

3.まとめ

フッ化物を使った虫歯予防は、医学的根拠もあり、非常に有用だと考えられます。歯医者さんでおこなう「フッ素塗布」を除けば、自宅で取り入れることもでき、はじめやすいのも大きなメリットと言えるでしょう。

フッ素によるオーラルケアを上手に取り入れれば、虫歯リスクを低減することが可能です。ぜひ、口腔内の健康を維持するために、フッ素を使ったケアを取り入れてみてください。

経歴

出身校(最終学歴): 北海道医療大学 歯学部
歯科医暦:24年目
歯科医を目指したきっかけ:父親が歯科医で、背中を見て歯科医になろうと思った。

執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。

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