痛みが出るまでむし歯を放置してしまう人もいるのではないでしょうか。
むし歯は、ごく初期の段階であれば再石灰化によって進行を抑えられることがありますが、歯に穴があいた状態になると自然に元へ戻ることは基本的にありません。放置して進行すると、急に激しく痛み出したり、さらに悪化して歯を失ったりすることがあり、日常生活にも影響が出てしまいます。
しかし、放置してしまったむし歯でも、状態に応じた治療法を検討することはできます。
この記事では、むし歯を放置するリスクや、放置してしまったむし歯の治療法を中心に、治療費用の目安なども紹介しています。一緒に歯の大切さを再確認していきましょう。
※本記事に掲載している自由診療の料金は、2026年時点でEPARK歯科に掲載されている歯科医院の料金情報を参考にしたものです。料金は地域や施術内容、使用する機材、歯科医院の方針等によって異なります。実際の料金については受診予定の歯科医院へご確認ください。
1.むし歯を放置することのリスク
1-1 むし歯が進行して激しく痛む
むし歯は、ごく初期の状態を除いて基本的に自然に元へ戻ることはありません。
放置したむし歯が進行して神経の近くに達すると、熱いものや冷たいものがしみるようになります。
さらに放置するとむし歯が神経まで達し、日常生活に影響を与えるほど強く痛むことがあります。
1-2 咬み合わせが悪くなる
むし歯がある人は、痛みを避けるためにむし歯がない方の歯で食べ物を噛むことがあります。
一方の歯だけで噛み続けると、よく噛む方の歯や顎に負担がかかり、咬み合わせや顎の違和感につながることがあります。
頭痛や肩こりがある場合は、他の原因も含めて医療機関で相談しましょう
1-3 顎の骨に影響を与える
むし歯を放置した結果、細菌感染が歯根や顎の骨の周囲に広がると、痛みや腫れ、発熱といった症状が出ることがあります。
歯の根の先に炎症が起きたり、膿が溜まったりすると、周囲の骨に影響を与える場合もあります。
状態によっては、根管治療や外科的な処置が必要になることがあります。
1-4 感染が広がるリスク
むし歯が重症化し、口の中の感染が広がると、まれに全身の健康に影響を与えることがあります。
特に、免疫力が低下している人や持病がある人では、口腔内の感染を放置しないことが大切です。
また、口腔内の細菌と全身疾患との関連が指摘されることもあります。ただし、むし歯があるから必ず全身疾患につながるというわけではありません。
強い腫れや発熱、飲み込みにくさ、口が開きにくいといった症状がある場合は、早めに歯科医院や医療機関に相談しましょう。
1-5 子どものむし歯リスクに関係することがある
生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、むし歯の原因菌は定着していないとされています。
その後、養育者など身近な大人から、むし歯の原因菌が子どもへ伝播することがあると報告されています。
ただし、食器やスプーンの共有だけを避ければよいというものではありません。子どものむし歯予防では、家族全体が歯科健診を受け、むし歯や歯周病を放置せず、口の中を清潔に保つことが大切です。
1-6 治療費が高くなる
むし歯を放置して進行すればするほど、治療範囲が広がり、治療回数や通院回数が増えることがあります。その結果、治療費の負担も大きくなりやすくなります。
目立ちにくい被せ物や入れ歯、インプラントなどを希望する場合は、自由診療になることがあり、さらに費用がかかる場合があります。
1-7 見た目や発音に影響を与える
前歯のむし歯を放置して歯を失った場合、人前で口を開くことをためらってしまうことがあります。
前歯を失うと、発音に影響が出ることもあります。
被せ物や入れ歯も、口を開けたときに見た目が気になるという人もいます。
1-8 噛む機能・栄養への影響
食べ物を食いちぎるのが前歯、すり潰すのが奥歯といったように、歯にはそれぞれ役割があります。
歯を失うことで食べ物がしっかり噛めなくなり、食事内容が偏ったり、栄養摂取に影響したりすることがあります。
噛む機能を維持することは、毎日の食事や生活の質を保つためにも大切です。
2.放置してしまったむし歯の治療について
2-1 放置したむし歯の治療は痛い?
「削るときや麻酔のときの痛みが苦手」という理由で歯科医院に行かず、放置してしまう人もいるようです。
進行したむし歯は治療の範囲が広くなるため、「治療は痛いのではないか」と心配になる人もいるでしょう。
近年では、痛みに配慮した治療法を取り入れている歯科医院もあります。
細い麻酔針を使う、電動注射器で圧力を一定にして麻酔薬を注入する、麻酔針を刺す前に表面麻酔を使うなど、痛みを軽減するための工夫が行われることがあります。
痛みが苦手な場合は、事前に歯科医師へ相談しましょう。治療内容や麻酔方法について説明を受けることで、不安を軽減しやすくなります。
2-2 放置して穴があいてしまったむし歯の治療
歯に穴があいてしまった、熱いものがしみる、食べ物が触れると痛むなどの場合、むし歯の部分を削って詰め物で修復する治療が行われることがあります。
むし歯治療では主に「レジン」「インレー」といった詰め物が使われます。
《レジン》
むし歯を削った場所に、白色の歯科用プラスチック材料を直接詰める方法です。 むし歯の大きさや部位によっては、1回の治療で済むことがあります。
《インレー》
むし歯を削ったあとに型を採り、穴に適合する詰め物を作製します。 後日詰めることになるため、複数回の通院が必要になることがあります。
2-3 放置したむし歯が深く進行した場合の治療
放置した期間が長く、むし歯が歯の奥深くまで達している場合、根管治療を行うことがあります。
根管とは歯根の中にある管で、神経や血管が通っている部分です。
むし歯菌に感染した神経や血管を除去した後、洗浄と消毒を繰り返し、最終的に薬剤を詰めて密閉する治療法です。
薬剤を詰めた後は、歯の状態に応じて被せ物(クラウン)で修復することがあります。
《根管治療とクラウン修復》
●むし歯を除去し、根管内を洗浄・消毒する
↓
●根の長さや状態を確認し、必要に応じて洗浄・消毒を繰り返す
↓
●薬剤を詰める
↓
●被せ物を支える土台を作る
↓
●被せ物の型採りをする
↓
●できあがった被せ物を装着する
根管治療は複数回におよぶことがあります。 通院回数は、歯の状態や根管の形、炎症の程度によって異なります。
2-4 奥深くに進行したむし歯を放置してしまった場合の治療
強い痛みを我慢して放置し続けると、そのうち痛みがおさまることがあります。
これは、むし歯が治ったわけではなく、神経が死んだため痛みを感じにくくなった可能性があります。 痛みがなくなっても、むし歯や感染が進行していることがあります。
放置してしまうと、やがて歯根の奥深くまで進行し、「根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)」といった炎症が起こることがあります。
歯根の先に炎症が起こることで膿が溜まり、顎の骨に影響したり、強い痛みや腫れが出たりすることがあります。
根管治療だけでは対応が難しい場合、歯根の先を切除する処置や、一度抜歯して病巣部分を取り除き、同じ場所に戻す処置などが検討されることもあります。
2-5 放置した結果、歯を失った場合の治療
むし歯を放置した結果、歯を失ってしまった場合は、人工歯などで失った歯の機能を補う治療を検討します。
歯科医院で行われる主な治療と、それぞれのメリット、デメリットを紹介します。
《インプラント》
歯を失った部分の顎の骨に、チタンやチタン合金などで作られた人工歯根を埋め込み、その上に人工歯を取り付ける治療法です。
メリット:
・周囲の歯を大きく削らずに治療できる場合がある
・固定式のため違和感が少ない場合がある
・見た目や噛み心地が自然に近いと感じる人もいる
デメリット:
・外科手術をともなう
・治療期間が長くなることがある
・全身状態、喫煙、歯周病の状態などによっては適さない場合がある
・原則として自由診療のため治療費が高額になりやすい
《ブリッジ》
失った歯の両隣の歯を削り、その歯を支えにして橋のように連なった人工歯を入れる治療です。
メリット:
・固定式のため着脱する必要がない
・入れ歯より違和感が少ないと感じる人もいる
デメリット:
・支えにする歯が健康でも削る必要がある
・支えにしている歯に負担がかかる
・支えの歯の状態によっては適応できないことがある
《入れ歯》
失った歯を補うために人工歯を入れる治療です。 取り外し可能で、総入れ歯と部分入れ歯があります。
メリット:
・適用できる範囲が広い
・取り外して洗浄できる
・保険診療で作れる場合がある
デメリット:
・口を開けたときに目立つことがある
・浮いた感じや違和感を覚えることがある
・使用しているうちに合わなくなることがある
《自家歯牙移植》
失った歯の部分に、別の場所に生えている自分の歯を移植する治療です。 親知らずを移植に使うケースがあります。
メリット:
・自分の歯を活用できる場合がある
・条件を満たせば保険診療で行える場合がある
デメリット:
・移植に適した歯が必要
・移植する歯や移植先の状態によってはできない
・治療後の経過観察が必要
2-6 むし歯を放置しても「恥ずかしいこと」はない
むし歯を放置してしまう人の中には、
「先生や歯科衛生士に口の中を見せるのが恥ずかしい」
「悪化するまで放置していたことを怒られるのではないか」
と心配している人もいるようです。
しかし、歯科医院は口の中の悩みを相談する場所です。 むし歯が進行していても、まずは現在の状態を確認し、どのような治療ができるか相談することが大切です。
歯科医院を受診して自分の口の中を把握し、歯磨きなどのケア方法を指導してもらうことで、将来的なむし歯リスクを減らすことにもつながります。
3.治療法ごとの費用の目安
3-1 保険診療と自由診療
治療には、保険が適用される「保険診療」と、保険が適用されない「自由診療」があります。
保険診療は、むし歯や歯周病など病気の治療が目的の場合に適用されることがあります。 たとえば、むし歯を削って詰め物をする、被せ物をする、ブリッジや入れ歯を作るなどの治療が対象になる場合があります。
一方、自由診療は、保険診療で認められていない材料や方法を選ぶ場合、審美目的の治療、ホワイトニングなどで行われます。
自由診療の場合、使用する材料や治療方法、医療機関によって費用が異なります。
3-2 むし歯治療に使う人工物の費用目安
むし歯の進行度や本数、使用する材料、保険適用の有無によって、治療費は大きく変わります。
また、診療報酬改定により保険診療の費用も変わるため、下記はあくまで目安です。実際の費用は受診する歯科医院で確認してください。
| 治療に使う人工物 | 保険診療費用の目安 | 自由診療費用の目安 | 保険適用の有無 |
|---|---|---|---|
| レジン | 約1,000円~3,000円 | 約34,000円~67,000円 | 保険適用になる場合があります |
| インレー | 約2,000~8,000円 | 約57,000円~90,000円 | 材料によって保険適用になる場合があります |
| クラウン | 約3,000~10,000円 | 約80,000円~120,000円 | 材料や部位によって保険適用になる場合があります |
| ブリッジ | 約8,000~30,000円 | 約190,000円~350,000円 | 条件を満たす場合、保険適用になることがあります |
| インプラント | - | 約350,000円~500,000円 | 原則として自由診療です。ただし、顎の骨の大きな欠損など一定の条件では保険適用になる場合があります |
| 自家歯牙移植 | 約5,000円~15,000円 | - | 条件を満たす場合、保険適用になることがあります |
※別途根管治療費用や被せ物費用などかかる場合があります。
※ここでは2026年現在の3割負担の場合の保険診療の費用を記載しています。初診料やレントゲンは含んでいません。区分や制度の改定でも変動しますので、あくまで目安としてください。
※2026年時点のEPARK歯科掲載自由診療料金情報を参考に編集部集計
4.まとめ
むし歯を放置すると、痛み、治療期間、費用、見た目、噛む機能など、さまざまな面でリスクが生じます。
歯に穴があいたむし歯は自然に元へ戻ることがないため、放置すればするほど、治療の負担が大きくなることがあります。
むし歯を放置している人は、これ以上悪化させないためにも、できるだけ早く歯科医院を受診しましょう。 痛みが苦手な人は、事前に歯科医師へ相談し、痛みに配慮した治療方法について説明を受けることをおすすめします。
【参考サイト】
・厚生労働省 e-ヘルスネット「シーラント(予防法)」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-02-011.html
・厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33814.html
・厚生労働省 令和8年度診療報酬改定について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
・日本小児歯科学会「乳幼児期における親との食器共有について」
https://www.jspd.or.jp/recommendation/article24/
・日本歯科医師会
https://www.jda.or.jp/
1968年 東京歯科大学 卒業
1968年 飯田歯科医院 開院
1971年 University of Southern California School of Dentistry(歯内療法学) 留学
1973年 University of Southern California School of Dentistry(補綴学・歯周病学) 留学
1983年~2009年 東京歯科大学 講師
現在に至る

執筆者:
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