昭和大学・歯学部・歯周病学講座・山本松男教授に歯周病のメカニズムについて聞きました。
そもそもの原因は何なのか、悪化させる要因は何なのかを解説していただきます。
また、日本人はどのように歯周病になっていくのかなどを分析していただきました。
前回の記事「【教授に聞く】歯周病とは何なのか?「口臭との関係」「インプラントでもなるのか」など解説」
この記事の目次
山本松男教授に聞く!歯周病を悪化させる原因
Q1.歯周病になってしまう原因は何なのでしょうか?
歯周病の原因は、歯と歯茎の間のところにたまっている微生物の塊で、「歯垢」や「デンタルプラーク」と呼ばれています。
歯垢・デンタルプラークの正体は、食べ物の残りと口腔内微生物の混ざったもので、より細かくいえば微生物から出される粘性の高い多糖類が絡まった「多数種類の菌や代謝産物の複合体」になっています。
その中には悪い菌もいますし、あまり悪さをしない菌もいますが、たまってくると歯茎が炎症を起こして、放置すると歯周病になってしまいます。
Q2.悪化させる要因を教えてください
同じような汚れ具合でも、ひどくなりやすい方もいれば、進行しづらい方もいるんですよ。
では何が違うのか? 病気を後押しする要因があることが分かってきています。
例えばストレス。職場やご家庭、人間関係など、さまざまなストレスが免疫力を低下させると考えられています。
また、ストレスからくる歯の食いしばり、歯ぎしりなどが、微生物に由来した炎症を“アクセルを踏むように促進する”とも考えられています。
さらに、大きな関わりがあるのは糖尿病ですね。糖尿病や肥満を抱えていると炎症が起きやすい体質になってしまうので、歯周病は進みやすいといわれています。糖尿病がひどくなってくると免疫力も下がってくるので、やはり歯周病が進行しやすいことが分かっています。
ほかにも、さまざまな報告があって、リウマチの方や、骨粗しょう症で骨が弱くなっていると歯周病が進みやすかったりする傾向にあることが分かっています。
Q3.喫煙は歯周病の原因・悪化につながりますか?
糖尿病より、歯周病を後押しする大きな要因がタバコです。ご年配の方で「自分の口はヤニでコーティングしてあるから大丈夫!」とおっしゃる方がいますが、そんなことはありません。
タバコを吸っている年数が長ければ長いほど、口腔内は、体のほかの部分と同じように弱くなっています。ではなぜ、口内が弱っていないという誤解が生じてしまうのかというと、タバコを吸うことで口の中の免疫力が抑えられて目立たなくなっているからなんです。
免疫力が抑えられると、歯ブラシをしたときに出血しにくくなります。血が出て歯周病だと気づくことがないので、どんどん進行している場合があるんですよ。
また、ヘビースモーカーの方は、お口の臭い、歯茎の色などにも影響が出ていることがあります。
Q4.電子タバコであれば問題ないのでしょうか?
電子タバコは最近出てきたものなので、基礎研究、疫学研究などの根拠は少ないです。ただ、出始めている研究結果によると、火が付いているタバコと同等の悪さがあるのではないかと考えられています。
歯科の分野からは離れますが、今年(2019年)に入ってからアメリカで、電子タバコに原因がもとめられるかもしれない死亡例が40人出たという報告もあります。どうも今まで知られていないような悪さをしているのではないかという心配がありますよね。
電子タバコでもう一つお伝えしたいのは、受動喫煙。電子タバコは煙が見えない、臭いも少ないため、周囲にいるタバコを吸っていない方、例えばお子さんらが気づかずに吸ってしまっているのと同じ状況になる可能性がすごく怖いといわれています。そのことも気をつけていただきたいなと思いますね。
Q5.お酒は歯周病の原因・悪化につながりますか?
お酒を飲んでいるから歯周病に悪いとか、逆にアルコールだから消毒されているということもないんです。
しかしアルコールの過剰摂取を継続すると、次第に体の機能が低下し、唾液分泌の低下などが起こりやすくなります。その結果、自浄作用が効きにくいなど、口内環境が悪化してしまい歯周病の予防という点ではマイナスです。
ただし、これは過剰摂取が長くつづくような場合のことで、アルコールにはリラックス作用などもありますし、歯周組織がどんどんやられてしまうということもないので、適度に飲む分には問題ないかと思いますね。
Q6.歯周病になりやすい性別、年齢はありますか?
歯周病に性差はありません。年齢に関しては、厚生労働省のホームページで公開されている「歯肉の状況」「歯や口の状況」「全国抜歯原因調査結果」を見ていただければと思います。
30代後半くらいから60、70、80歳にかけて、お口のお悩みの上位に入ってくるのが分かりますね。
歯肉炎に関しては、腫れるだけであまり痛みを感じないということもあり、10代から20代、30代の方も含めて多くいます。
日本人の傾向として、若い内に歯肉炎、30代なかばから歯を支える顎骨の方に炎症がおよんで歯周炎に移行していくということが統計的にも分かっています。
平成28年歯科疾患実態調査結果の概要「歯肉の状況」
※4mm以上の歯周病ポケットを持つ方の割合は、高齢になるにつれ増加している。
また、歯肉出血を有する方の割合は、15歳以上の年齢階級で30%を超え、30歳以上55歳未満で40%を超える。
平成28年歯科疾患実態調査結果の概要「歯や口の状態」
2005年に全国2000余の歯科医院にて実施「全国抜歯原因調査結果・棒グラフ」
2005年に全国2000余の歯科医院にて実施「全国抜歯原因調査結果・円グラフ」
※出典・厚生労働省 e-ヘルスネット
また、グラフは山本教授による加工箇所を含んでいます。
まとめ
歯周病の大きな原因は歯垢ですが、人によっては進行しやすい・しづらいと個人差があることが分かりました。
ストレスは重症化する理由の一つになっているということなので、ケアだけでなく、生活環境の改善も大切なのかもしれません。
平成4年 東京医科歯科大学歯学部卒業
平成8年 東京医科歯科大学大学院修了・博士(歯学・歯周病学)
平成9年 米国アーカンソー州立医科大学内分泌部門・骨粗鬆症センター(ポスドク)
平成12年 鹿児島大学歯学部助手(歯周病学)
平成14年 鹿児島大学生命科学資源開発研究センター助教授
平成17年 昭和大学歯学部教授(歯周病学)
執筆者:
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