親知らずの抜歯手術を解説!状況別の術式・費用を総まとめ

親知らずの抜歯手術を解説!状況別の術式・費用を総まとめ

「親知らずの抜歯で大変な思いをした…」という話を聞いた経験はありませんか? これは決して、大げさな表現ではありません。親知らずの生え方によっては、やや大がかりな手術が必要になるケースもあるからです。

こちらの記事では「親知らずの抜歯手術」に関する基礎知識をまとめることにしました。「どんな生え方をしていると、どんな手術が必要になるのか」を解説していますので、ぜひ参考にしてください。

この記事の目次

1.親知らずを含めて、抜歯はすべて「手術」の扱い!

「どんな生え方をしていると手術が必要になるの?」といった質問を耳にすることがありますが、実のところ、「抜歯はすべて手術」です。保険診療の医療費は「診療報酬」というルールで決められていますが、日本歯科医師会が発行する「診療報酬の早見表」でも「抜歯手術」と表現されています。

ただ、何ごともない「普通抜歯」であれば、それほど大きな困難は伴いません。麻酔などの処置に多少の時間がかかるにせよ、抜歯自体はほんの数分で完了します。麻酔が切れてからも、それほど強く痛むことはあまりないでしょう。そのため、患者さんサイドとして「普通抜歯を手術だと認識しない」というのも頷ける部分があります。

2.「難しい抜歯」とは何か?

それでは、「大がかりな手術を要する難しい抜歯」とは、どのような抜歯を指しているのでしょうか? 「容易・難しい」などと表現すると歯科医師の主観に見えるかもしれませんが、そんなことはありません。「難しい抜歯」はきちんと「日本歯科医師会の診療報酬表」において定義されています。

2-1 普通抜歯~難しさ:★☆☆

特に「抜歯を困難にする理由」がなければ、普通抜歯として扱われます。仮に親知らずが斜めに生えていたとしても、「真っ直ぐ生えている歯と同じ処置で抜歯可能」であれば、普通抜歯です。

2-2 難抜歯~難しさ:★★☆

歯根が歯槽骨(しそうこつ:歯を支える骨)に癒着(骨性癒着 / アンキローシス)していることがあります。この場合、骨を削って抜歯する処置(骨開削)をおこないます。また、大臼歯で歯根が2つ以上あるときは、歯を分割して「問題のある歯根だけを抜歯する処置」を選択するケースも考えられます。この手法を「歯根分離術」と呼んでいます。

骨に癒着している歯のほか、「歯根が湾曲している歯」「歯根が肥大している歯」も、骨開削や歯根分離術を必要とする場合があります。骨開削・歯根分離術を伴う抜歯は、「難抜歯」にカテゴライズされます。

2-3 埋伏歯~難しさ:★★★

歯が歯茎・歯槽骨の中に埋まっている状態を「埋伏歯」と呼んでいます。埋伏歯の中でも「骨と癒着して埋まっている歯」を骨性埋伏歯といいます。骨性埋伏歯は抜歯が著しく困難になります。

また、親知らずが横向きに埋まっている状態は「水平埋伏智歯」と呼ばれます。水平埋伏智歯も、著しく抜歯が難しいものとして扱われています。この場合は「水平埋伏智歯抜歯術」が適応になります。歯茎を切開し、歯の「頭の部分」を切除してから抜歯します。

歯は生えている方向にしか抜けないので、横向きに埋まっている歯を真上に引き抜くことはできません。そこで、歯の「頭の部分」を切除したことで生まれる空間を利用します。「頭の部分」がなくなった隙間を使って、生えている方向に引き抜くわけです。

3.親知らずを抜歯するときの費用目安は?

親知らずの抜歯は保険診療なので、「日本歯科医師会の診療報酬表」から算出することができます。難しい処置ほど診療報酬は高くなり、先述した「普通抜歯」「難抜歯」「埋伏歯」の区分でそれぞれに定められています。

さて、診療報酬の保険点数は「1点あたり10円」で計算します。ただし、ほとんどの場合は「保険証の提示で3割負担」となるので、「1点あたり3円」で計算した金額が実際の金額になるはずです。この項目では「3割負担」だと仮定し、「1点あたり3円で」費用目安の概算をおこなうことにします。

以下では親知らずの抜歯にかかる手術費用を示していますが、実際には初診料などの諸費用がかかるので、もう少し高くなります。たとえば、手術費用のほかにどのような費用が加算されるのか、あらかじめ一例を示しておくことにしましょう。

歯科初診料:234点→702円
初診の際にかかる費用です。

歯科再診料:45点→135円
再診の際に毎回、かかる費用です。

明細書発行体制等加算:+1点→+3円
個別の保険点数が書かれた明細を発行する医療機関にかかったときの費用です。

歯科疾患管理料:100点→300円
歯科医師から説明などを受けることに対する費用です。

文書提供加算:+10点→30円
説明内容を文書化したものを受け取ることに対する費用です。

画像診断料(デジタルX線):58点→174点
狭い範囲のレントゲン写真を撮影する費用です。

画像診断料(デジタルパノラマ):402点→1,206円
顎全体のパノラマレントゲンを撮影する費用です。

画像診断料(デジタルCT):1,170点→3,510円
立体的に撮影するCTスキャンを撮影する費用です。

伝達麻酔:42点→126円
主に下顎の治療・抜歯で、普通の麻酔が効きにくいときに伝達麻酔をします。

処方箋料(6種以下):68点→204円
薬局に持っていく処方箋の発行費用です。親知らずの処置ならば、薬は6種以下になるでしょう。

一般名処方:+2~3点→6~9円
後発医薬品(ジェネリック)での処方を認める一般名処方をした場合の加算です。

※ほかに虫歯がある場合、歯科医院が「歯科外来診療環境体制加算」の基準を満たしている場合、診療に対して特段の配慮を必要とする患者さんの場合など、諸条件によって、さまざまな費用が加算される可能性があります。これらはあくまでも、概算・目安であることをご了承願います。

3-1 普通抜歯

普通抜歯の保険点数は以下のように定められています。

乳歯:130点→390円
前歯:150点→450円
臼歯:260点→780円

親知らずの正式名称は「第三大臼歯」ですから、親知らずを普通抜歯したときの費用は780円です。

3-2 難抜歯

普通抜歯の点数に「難抜歯加算」をプラスします。

難抜歯加算:+210点→+630円

親知らずの抜歯費用は「780円」だったので、「780+630=1,410円が難抜歯の親知らずを抜歯する費用となります。

3-3 埋伏歯

埋伏歯抜歯の保険点数は以下のように定められています。

埋伏歯:1,050点→3,150円
下顎智歯加算:+100点→+300円

水平埋伏智歯として扱われる親知らずの抜歯費用は、3,150円です。ただし、下顎の水平埋伏智歯を抜歯する場合は「下顎智歯加算」が加わるので「3,150+300=3,450円となります。

4. まとめ

親知らずの抜歯でも、普通抜歯なら難しくありません。ただ、親知らずは「横向きに生える」「埋まったまま出てこない」など問題のある生え方をしやすい歯です。そのため、やや大がかりな手術を要する症例も多いわけです。「親知らずの生え方がおかしいな…?」と思ったら、早めに歯医者さんを受診して「抜歯手術にどれくらいの困難を伴うか」を質問してみましょう。

 

先生からのコメント

よく「お友達が・・・」とか「知り合いが・・・」や「反対側で・・・」と患者様から言われることがありますが、親知らずほどその人その人の個性が出るものはないなと思います。人によってまた左右によっても全くと言っていいほど違うので歯医者さんとよく相談して説明を聞いて、理解し、納得したうえで処置を行ってもらうことが大切です。もちろん、温存可能な時は無理に抜く必要もないです。

執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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