虫歯が悪化して神経に到達すると、「神経を抜く処置」が必要になることがあります。そして、神経を抜いた歯を保存するためには「根管治療」という処置をしなくてはなりません。
「根管治療の成否によって、歯を長く残していけるかどうかが決まる」といっても過言ではなく、大きな虫歯の治療においては大変重要性の高い治療といえます。
そこで、こちらの記事では「根管治療の費用」を紹介します。根管治療には「保険内の根管治療」と「自由診療の根管治療」がありますので、それぞれの違いについても解説しています。
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この記事の目次
1.保険でおこなう根管治療!手順・費用を解説
まずは、保険診療で実施する根管治療の手順・費用を説明します。
保険診療の費用は「診療報酬」のルールに基づいて「保険点数」から算出されます。「1点=10円」で計算することになっているので、それほど難しくはありません。
さて、保険点数は「根管治療を最初から最後までやって何点」というものではなく、おこなう処置によって保険点数が設定されています。
そこで、この章では「根管治療の一般的な手順」を説明しながら、それぞれの処置に設定されている保険点数を解説します。
※以下の計算は保険診療の一例を概算したものです。症状・医院ごとに検査内容・治療内容は異なり、保険点数も変動します。
1-1 初診・カウンセリングなどの費用
まず、歯医者さんを受診した時点で初診料がかかります。
初診料の保険点数は「234点」です。時間外診療なら「+85点」、休日診療なら「+250点」など、受診状況によっては追加で保険点数が付与されることもあります。
また、ドクターが治療計画を作成・説明する料金として、「歯科疾患管理料」というものがあります。どこの歯医者さんでも、基本的には歯科疾患管理料を請求されます。保険点数は「100点」です。
治療計画を記載した文書を渡された場合、「文書提供加算」として「10点」が加算されます。ここでは、文書提供を受けたと仮定して、「歯科疾患管理料+文書提供加算」の「110点」がかかるものと計算しておきましょう。
《費用目安》
234点+110点=344点=3440円
3440円×0.3=1032円
10円未満は四捨五入なので、1030円
保険点数から算出した金額に0.3をかけたのは、「健康保険により3割負担になる」という計算にしているからです。ここからも、同じように3割負担と仮定して計算します。
1-2 虫歯の検査をするための費用
虫歯治療の場合、レントゲン撮影による検査をおこないます。
フィルム式レントゲン(現像が必要な旧式のレントゲン)とデジタルレントゲンで費用が異なりますが、最近はデジタルレントゲンが主流なので、デジタル式と仮定しましょう。
狭い範囲(虫歯1本など)を撮影するレントゲンの保険点数は「58点」、顎(あご)全体を撮影するパノラマレントゲンの保険点数は「402点」です。
《費用目安》
・狭い範囲の単純撮影
58点=580円
580円×0.3=174円
10円未満は四捨五入なので、170円
・顎全体のパノラマ撮影
402点=4020円
4020円×0.3=1206円
10円未満は四捨五入なので、1210円
1-3 虫歯の処置&神経除去の費用
神経まで達している深い虫歯は、「削って神経を抜く」という処置が必要になります。歯を削るなどの処置は「う蝕処置」と呼ばれ、歯1本1回あたり保険点数は「18点」です。
次に神経を抜く処置ですが、これを「抜髄」と呼びます。抜髄の保険点数は、「根管(歯の根っこ)の数」によって変動します。根管の数には個人差があるので一概には言えませんが、だいたい、以下のようになっています。
《根管の本数目安》
前歯・犬歯…単根管(根管は1つ)
小臼歯…1~2根管(根管は1~2つ)
大臼歯…3根管(根管は3つ)
ただし、あくまで目安なので、大臼歯に4根管という人もいますし、2根管という人もいます。さて、抜髄の保険点数は、根管数に応じて次のように決められています。
《抜髄の保険点数》
単根管…「228点」
2根管…「418点」
3根管以上…「588点」
ちなみに、抜髄には麻酔費用を含むので、麻酔にかかる保険点数が追加されることはありません。
虫歯がひどすぎて「すでに神経が死んでいる状態」の場合、抜髄ではなく「感染根管処置」をおこないます。根管の虫歯、膿(うみ)を丁寧に取り除き、歯の内部をキレイにしなければならないからです。
わかりやすく説明すると、感染根管処置は「ファイル」「リーマー」と呼ばれる針のような道具で、根管内の感染部位を除去する処置になります。感染根管処置も、歯の根管数によって保険点数が変動します。
《感染根管処置の保険点数》
単根管…150点
2根管…300点
3根管以上…438点
感染根管処置の費用は歯1本につき、1回だけ加算される費用です。なので、感染根管をキレイにするまでに2回、3回の通院を必要としても、費用の加算は一度だけです。
《費用目安》
・抜髄の場合
18点+(228~588点)=246~606点
246~606点=2460~6060円
2460~6060×0.3=738~1818円
10円未満は四捨五入なので、740~1820円
・感染根管処置の場合
18点+(150~438点)=168~456点
168~456点=1680~4560円
1680~4560×0.3=504~1368円
10円未満は四捨五入なので、500~1370円
1-4 根管治療の費用
神経を除去したら、歯の内部にある空洞、根っこ部分をキレイにする根管治療をおこないます。根管治療では、「根管内の菌に汚染された歯髄を取りのぞいてきれいにし、再発を防ぐために薬剤を詰める」という一連の処置が必要です。
最終的には「薬剤を詰めて、かぶせ物をする処置」をおこなって根管治療を終えますが、この最終的な薬剤を詰める処置を「根管充填(こんかんじゅうてん)」と言います。
《根管充填の保険点数》
単根管…72点
2根管…94点
3根管以上…114点
根管充填は、歯1本につき1度だけ加算される費用です。なので、根管治療のために複数回にわたる通院を要しても、根管充填の費用は増えません。
また、根管治療を終えるまでに複数回の通院が必要な場合、仮の詰め物を入れて治療を次回に持ち越すことになります。仮の詰め物を入れるときは「根管への再感染(虫歯菌の再侵入)を防ぐ処置」が必要です。
再感染を防ぐために薬剤を入れる処置を「根管貼薬」と呼びます。根管貼薬の保険点数は、歯の根管数に応じて、次のように決まっています。
《根管貼薬の保険点数》
単根管…28点
2根管…34点
3根管以上…46点
根管貼薬は、1回ごとに費用がかかります。
根管治療のために2回通院するなら根管貼薬は1回ですが、4回通院するなら根管貼薬が3回必要になります。4回通院するのであれば、根管貼薬の費用は3回、請求されます。
一般に根管の数が多いほど、根管治療に多くの回数がかかります。
ここでは仮に、前歯・犬歯なら2回、小臼歯なら3回、大臼歯なら4回の治療回数になると仮定しましょう(根管治療の平均回数は3回なので、だいたい2~4回になると考えて構いません)。
また、初診のときのレントゲンは狭い範囲を撮影する「単純撮影」だったものとします。
その上で、これまでの費用をすべて合算した「根管治療の費用目安」を概算してみました。目安の費用幅を算出するのが目的なので、考えられる中でコストが「低めのケース」「高いケース」を確認してみましょう。
《根管治療全体の費用概算》
・前歯or犬歯の場合(感染根管処置+通院2回)
これまでにかかっている費用は…
初診料1030円+画像検査170円+感染根管処置500円=1700円
さらに
根管貼薬28点+根管充填72点=100点=1000円
1000円×0.3=300円
1700円+300円=2000円
ここに、2回目以降、通院のたびにかかる「再診料(1回あたり45点)」を加算
2000円+(450円×0.3)×1回=2140円
・大臼歯の場合(抜髄+通院4回)
これまでにかかっている費用は…
初診料1030円+画像検査170円+抜髄1820円=3020円
さらに
根管貼薬46点×3+根管充填114点=252点=2520円
2520×0.3=760円
3020円+760円=3780円
ここに、2回目以降、通院のたびにかかる「再診料(1回あたり45点)」を加算
3780円+(450円×0.3)×3回=4200円
以上から、保険診療でおこなう根管治療の費用は、「2140円~4200円」と概算できます。概算なので、感覚的には根管治療をおこなう歯1本につき「2000円~5000円程度」と認識しておくとよいでしょう。
しかし、あくまでもこれは保険診療でおこなう根管治療のみの金額なので、根管治療後に装着する被せものの金額は入っていません。
また、実際に歯医者さんに通院すれば、歯周病の有無を検査したり、歯科衛生士による予防指導・口腔ケアがおこなわれたりします。そういった費用も加算されることになるので、通院した際の総額はもう少し高くなると考えてください。
2.自由診療でおこなう根管治療の費用は?
保険内の根管治療は費用負担が抑えられる反面、再発率が高い傾向があります。
特に大臼歯は、奥の方なので拡大鏡を使用しても根管内までは見えづらいため、保険診療でかけられる時間や、使用できる器具では、細く複雑に曲がりくねっている根管内をきれいに洗浄できない場合があります。
再発率の低い「精密な根管治療」をおこなうために、自由診療で根管治療を提供する歯医者さんが存在しています。
自由診療の根管治療では、次のような設備を使用することが多いです。
2-1 マイクロスコープ
歯科用の顕微鏡です。根管内の感染部位を取りのぞく際には、根管内部を目で見て確認することができます。感染部位を取り残すリスクが減るので、再発率の低下に役立ちます。
2-2 ラバーダム
ゴム製のシートです。根管治療の際、歯などを覆うために使用します。根管治療中の歯だけを露出させて周囲と分離することで、唾液が侵入するのを防ぎます。
唾液と一緒に虫歯菌が侵入すると、再発リスクが上がってしまうからです。この処置を「ラバーダム防湿」と呼びます。
2-3 費用の目安
自由診療でおこなう根管治療は、保険点数が設定されていません。そのため、費用は歯医者さんがそれぞれに設定することになります。
前歯で「4万円~」、小臼歯で「6万円前後~」、大臼歯で「8万円前後~」といった費用設定の歯医者さんが多いですが、取り決めがあるわけではありません。
ですから、自由診療の費用に関しては、各医院に直接問い合わせる必要があります。
ただし、精密な根管治療ができる設備が整っているとしても、器具を使いこなし、精密治療を可能とするためには、経験とスキルが必要になります。
費用だけでなく、その分野の症例数も含めて自分のニーズに合った歯医者さんを検討すると良いでしょう。
3.まとめ
根管治療には、「保険診療と自由診療」という二つの選択肢が存在します。保険診療は「保険点数が設定された手法・設備による治療」であり、自由診療は「歯科医師の判断でさまざまな手法・設備を使用する治療」です。
保険診療なのか、自由診療なのかによって、かけられる時間や手間、使用できる設備などが異なります。
ぜひ、ご自身の歯の状況やニーズに合わせて、必要性などを理解してから治療を受けて後悔することがないようにしていただければと思います。
根管治療は歯を「温存できる・できない」も勿論ですが、細菌感染にかかわる重要な治療です。中断などせず最後まできちんとお受けください。
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