スポーツ歯科という分野が認知されてきたことに伴い、スポーツ歯科にかんして知見を深める「スポーツデンティスト」という歯科医師も注目されるようになってきました。
この記事では大阪歯科大学 准教授の吉川一志先生に、野球やサッカー、ラグビーといったスポーツのプレー中に歯が脱臼してしまった(抜けてしまった)場合の対処方法や、強い噛みしめを行うことで起きる知覚過敏などについてお伺いします。
スポーツの最中に歯が抜けた!歯が脱臼したときの対処法とは?
またスポーツ歯科にかんしても本講座への相談が多く、高校野球関連、セレッソ大阪さんとの共同研究についても担当しています。
大阪歯科大学では歯の保存液についてもっと広く知っていただくため、毎年大学からの寄付という形で、全国高等学校野球選手権大会の全出場校に配布しています。その活動の甲斐があり、現在は少しずつ保存液の認知が広まりつつあります。
スポーツ歯科と知覚過敏
大阪歯科大学がスポーツ選手の口の中を見るようになって気づいたことなのですが、歯が欠けたり折れたり、あるいは抜けてしまう手前の段階で、何かが歯に当たったり食いしばったりといったことが原因で、歯にひびが入っていることがあります。
歯にひびが入っていると知覚過敏にも起こりやすくなります。ひびが入っているところにスポーツドリンクなど酸性のものが入ると、ひびがどんどん大きくなる可能性があります。そしてひびが大きくなると知覚過敏を起こしやすくなるというのがスポーツとのつながりで分かってきました。
ひびが原因の知覚過敏に関しては、ひびの部分を削って詰め物をする治療は、健康な歯を削ることになってしまいもったいないので、表面から薬を塗ってひびの拡大や痛みを抑えます。
歯はハイドロキシアパタイトという成分でできています。ひびからの刺激が神経まで伝わるのを防ぐには、エナメル質の部分に、ハイドロキシアパタイトやフッ素を作りだすような薬を塗布してふたをする方法があります。
一度ひびが入った歯は、骨のようにぴったりとくっつくというところまではいきませんが、外からの刺激が神経までダイレクトに届く道を封鎖することで、沁みるのを防ぐことができます。
最終的に知覚過敏を抑えられる方法は「毎日しっかり歯を磨き、虫歯菌やそのほかの害となるものがひびの中に入らないようにすること」と、最近の研究でもいわれています。フッ素や知覚過敏を抑える薬が入っている歯磨き粉を使って、ひびの拡大や歯が沁みるのを抑えるのも良いでしょう。
皆さんもお気づきかもしれませんが、良いプレーをするスポーツ選手の歯を見るときれいな場合が多いものです。歯並びが良い選手も多く、やはり良いパフォーマンスをしようと思うと、かみ合わせも歯もきれいにしておいた方が良いと思います。
スポーツ歯科に特化した「スポーツデンティスト」
スポーツに携わる選手・未来のアスリートに対して、歯科的な面でのサポートをしたいという先生方が集まり、少しでもスポーツの役に立ちたいという思いで診療に携わられています。
各都道府県の歯科医師会から推薦された歯科医師と、各競技団体から推薦された歯科医師に、スポーツデンティストの養成講座を受講してもらい、今まさにどんどん増えていっているところです。
歯の教科書 編集部まとめ
この記事ではスポーツの最中に歯が脱臼してしまったときの対処方法や、スポーツと知覚過敏の関連性について大阪歯科大学 准教授 吉川先生に詳しくお伺いしました。
知覚過敏や歯にひびが入っている自覚がある場合も、歯科医院でのケアと日常的なブラッシングで痛みを和らげ、ひびの拡大を予防することができます。
スポーツに携わる方で、普段から歯を食いしばるシーンが多く自分にあったマウスガードの作製を検討している、知覚過敏があるという方はスポーツデンティストの先生を探して相談してみると良いでしょう。
【略歴】
1996年 大阪歯科大学大学院 歯学研究科 博士課程修了 博士(歯学)
2002年 ロンドン大学留学
2006年 大阪歯科大学 歯学部 歯科保存学講座 講師
2008年 大阪歯科大学 歯学部 歯科保存学講座 准教授
2020年 大阪歯科大学 歯学部 大学院歯学研究科 准教授
【主な研究内容】
【2020年東京オリンピックに向けて(1)-スポーツ外傷防止に関する各競技の取り組み-】ラグビー競技での外傷防止の取り組みについて 大阪府学校歯科医会におけるスポーツ外傷防止(解説/特集)
知覚過敏治療のファーストステップ
歯髄保護法を再考する ~う蝕治療のガイドラインから~
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。