スポーツをしていると、スポーツドリンクを飲んだり口の中が乾燥した状態になったりと、歯にとって良好とはいえない口内環境になることが多いものです。
口腔ケアを怠って虫歯ができると、将来的にプレーにも影響が出てきてしまうかもしれません。
この記事では、虫歯や歯周病がスポール選手のパフォーマンスに及ぼす影響について、大阪歯科大学 歯科保存学講座 准教授 吉川一志先生にお伺いします。
この記事の目次
大阪歯科大学のスポーツ歯科分野での取り組み
またそのご縁でセレッソ大阪に所属する選手の検診をするようになったのですが、口の中の唾液を検査すると、いろいろな方がいるということがわかりました。
虫歯になりやすい口内環境の人もいれば、そうではない方もいらっしゃるので、できるだけ選手にできるだけ寄り添っていきたいと考えています。
あとはマウスガードです。入れた方がいいと思われた方にはマウスガードも推奨して、これもかかりつけの歯科医院で作ってもらった方がよいのでは、という提案を行っています。選手から治療を希望する場合はもちろん対応しています。
お口の健康がスポーツのパフォーマンスに与える影響
例えばサッカーはまだマウスガードは浸透していませんが、ラグビーの選手などは、試合中に外れてグラウンドに落ちたマウスガードをもう一度口に入れるときに、スポーツドリンクで洗って入れることがあります。
もともと酸性で歯を溶かしやすいスポーツドリンクに浸した状態のマウスガードをお口に入れるというのはよくありません。特に運動中は口の中がカラカラに乾いて、サラサラの唾液ではなくてねばねばの唾液が出ています。そのような環境にスポーツドリンクで洗ったマウスガードを入れるとまた虫歯が進みやすくなってしまう可能性があります。
スポーツ選手の歯科検診を行うときには、お口の中の環境をトータルで診ていかなければいけないという気づきがあります。
プレーの上達を目指すなら虫歯や歯周病を治療した方がよい
例えばエリートアスリートになればなるほど、海外へ遠征ということが出てくると思いますが、飛行機に乗ったときの気圧の変化で、虫歯が急に痛みだすことがあります。
また歯周病がある場合も、疲れたときに歯周病が悪化したり急性発作が出たりすることがあります。海外の遠征時に急に痛くなると、歯が痛くて競技になかなか集中できないということもあるでしょう。それを未然に防ぐために、口の中の健康を確認しておくというのは重要なことだと思います。
噛み合わせや歯並びはスポーツや勉強のパフォーマンスに影響する?
噛み合わせが悪くて片方しか噛んでいない、一部しか噛んでいないということになると、体幹がぶれ、結果的には転倒しやすくなることなどが考えられますので、やはり噛み合わせがいい方がパフォーマンスは上がるのではないかと考えております。
100Kgなりという力を、歯全体で受けると、当然力は分散されますが、噛み合わせが悪く一カ所だけに力が加わり続けるとどうなるかというのは想像に難くないでしょう。そこの歯が歯茎から悪くなって抜けてしまうか、歯が割れてしまうかということが起こる可能性が高くなります。
そのため全体的に均等に噛み合わせるによって、力を分散させて、損傷を防ぐということが重要になります。バランスよく噛んでいれば体幹が安定するというのはエビデンスもあるので、スポーツのパフォーマンスにもよい影響があるでしょう。
例えば走るスポーツだと転倒が少なくなるでしょうし、新体操でもフィギュアスケート系の競技も体幹は重要でしょう。噛み合わせがスポーツのパフォーマンスに与える影響については研究途上のところもあるのですが、噛み合わせのバランスをよくするということで、よいパフォーマンスに繋がるのではないかと考えます。
「片噛み」の状態になっていると気になってカチカチと接触させてしまうとか、どちらか一方ばかりで食いしばってしまうということが起こります。噛み合わせが悪いと姿勢が悪くなるという可能性はあるでしょう。
また勉強を頑張るほど「頬杖」の癖がついてしまうお子さんがいると思います。頬杖というのは噛み合わせとってよいものではありません。頬を強く押すことによって噛み合わせがずれてしまうということもあるので、気をつけた方がよいでしょう。
歯の教科書 編集部まとめ
この記事では大阪歯科大学 准教授 吉川一志先生に、虫歯や歯周病がスポーツのプレーに与える影響、噛み合わせのバランスを良くしておく有用性についてお伺いしました。
試合や本番で良いパフォーマンスを発揮するためには、日々の練習はもちろん、気がかりなことを解消するという意味で、口腔ケアも重要ということがわかりました。
吉川先生には、スポーツ選手の口腔ケアに力を入れる「スポーツデンティスト」についても詳しく伺います。
【略歴】
1996年 大阪歯科大学大学院 歯学研究科 博士課程修了 博士(歯学)
2002年 ロンドン大学留学
2006年 大阪歯科大学 歯学部 歯科保存学講座 講師
2008年 大阪歯科大学 歯学部 歯科保存学講座 准教授
2020年 大阪歯科大学 歯学部 大学院歯学研究科 准教授
【主な研究内容】
【2020年東京オリンピックに向けて(1)-スポーツ外傷防止に関する各競技の取り組み-】ラグビー競技での外傷防止の取り組みについて 大阪府学校歯科医会におけるスポーツ外傷防止(解説/特集)
知覚過敏治療のファーストステップ
歯髄保護法を再考する ~う蝕治療のガイドラインから~
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。