【専門家に聞く】スポーツマウスガードの役割って?スポーツ歯科について詳しく解説

【専門家に聞く】スポーツマウスガードの役割って?スポーツ歯科について詳しく解説

近年マウスガードの使用がスポーツ選手のパフォーマンスに与える影響について注目されるなど、耳にすることが多くなってきた「スポーツ歯科」という分野。

スポーツと歯は相関関係がなさそうに思えますが、お口の中の状態や歯の病気がさまざまなスポーツのプレーに影響するということもわかっています。

この記事では、歯とスポーツはどのような関係があるのかなど、「スポーツ歯科」という分野について、大阪歯科大学 歯科保存学講座 准教授 吉川一志先生にお伺いします。

この記事の目次

スポーツ歯科とは

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

スポーツ歯科とはどのような分野ですか?
吉川一志 准教授アイコン
吉川一志 准教授
スポーツ歯科は、スポーツ選手に対する歯科的なサポートを中心に行う診療分野です。歯科的なサポートというと具体的には歯科検診のほか、実際に悪いところが見つかれば治療のアドバイスを行います。

またスポーツによっては特有のマウスガードがありますが、マウスガードが義務化されている競技の選手であればマウスガードの作製を行います。

スポーツマウスガードの役割・効果

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

スポーツマウスガードにはどのような役割があるか教えてください
吉川一志 准教授アイコン
吉川一志 准教授
まずは口の中の外傷の防護する役割があります。歯に密着して防護するので、唇、頬の裏側に歯が直接の接触するのを避けてくれますし、外からの物体の衝撃をある程度吸収してくれるという効果もあります。

二つ目は、かみ合わせを安定させることだと思います。もともとかみ合わせが安定している人にとっては、二次的な役割になるかもしれないですが、かみ合わせが悪い人はスポーツマウスガードを入れることによって、均等に咬合させることができると考えられます。均等に力が入るということは、体幹の安定につながっていると考えています。

また脳震とうとの関係についても研究がされています。
脳震とうとの関係にかんしてはまだわからないことも多く、激突時に脳震とうを起こすリスクが減るとか、あまりマウスガードは関係ないとかいろいろな説があるのが現状です。ただその中でも「少なくとも顎(あご)が揺さぶられることを防ぐ効果はあるのではないか」といわれています。

脳震とうは顎(あご)が揺さぶられることによって脳が揺れるということが起こるらしく、ボクシングでも顎(あご)を打たれると脳が揺さぶられるといわれています。スポーツマウスガードは、顎(あご)が揺さぶられることをある程度防いでいるのではないかという説についての研究もあるようです。

スポーツマウスガードが義務化されているスポーツは?

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

スポーツマウスガードはいつから使われるようになったのでしょうか?
吉川一志 准教授アイコン
吉川一志 准教授
日本で最初にスポーツマウスガードを入れたのは、1925年(大正14年)だそうです。日本で最初に導入したのは、大久保信一先生という歯科医師の先生で、プロボクシングの選手のために作製されました。
歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

現在、スポーツマウスガードが義務化されているスポーツにはどのような競技がありますか?
吉川一志 准教授アイコン
吉川一志 准教授
実は義務化にもいろいろな段階、種類があります。

現在日本で義務化されているのはアメリカンフットボール、ボクシング、キックボクシング、テコンドーと、コンダクト系の格闘技です。

一部着用義務があるスポーツもあり、例えばラグビーであれば13歳~19歳の間は着用義務があります。アイスホッケーも20歳以下は着用義務があるほか、フィールドホッケーも中学生のみ、空手も組手のみ一部着用義務があります。

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

若年層に着用義務があるスポーツもあるのですね。
吉川一志 准教授アイコン
吉川一志 准教授
外傷を起こす可能性が高いスポーツにかんしては、子供の時に歯が抜けてしまう、折れてしまうといった状況になると、その後の口腔の成長にとってあまりよくないので、特に若い時に義務化されています。

ここまでは着用義務があるスポーツでしたが「着用を許されている」スポーツも、現在どんどん増えてきています。

例えば野球、ソフトボール、バスケットボール、バレーボール、テニス、陸上競技、レスリング、ウェイトリフティング、柔道などは「マウスガードを付けてもよい」と、着用が許可されています。

小中学生の部活にもスポーツマウスガードは必要?

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

成長期の小中学生の部活動でもスポーツマウスガードは付けた方がよいのでしょうか?
吉川一志 准教授アイコン
吉川一志 准教授
お子さんが成長期になり、急に体が大きくなってくると走る速度も急に速くなることがあります。

学校の中でも、部活動に限らず、急に体の成長によって走るスピードが速くなると、制御しきれずに何かに激突して歯が抜けてしまったり歯が折れてしまったりということが起こります。これは状況によってはマウスガードでも防げないこともありますが、できればマウスガードを装着した方がよいということは学校の先生にもお願いしています。

ただ、マウスガードというのは成長期であれば作る側も配慮しなくてはいけません。例えば歯の生え変わりがあるところはその邪魔にならないよう、マウスガードがその部分に密着しすぎないようにスペースを空けて作ってあげるという工夫も必要です。日ごろからスポーツマウスガードを作っている歯医者さんであれば、そういった成長期のお子さんのことも考えて作製することができるかと思います。

特に部活動となると、一生懸命練習すればするほどけがが起こる可能性が増えます。永久歯は抜けてしまうと二度と生えてきません。「スポーツを一生懸命やっていたら歯がボロボロになった」というのはあまりにもかわいそうなので、できる限りのことをするとなると、マウスガードを入れて防護するということも考えていかないといけないのでは思います。

高校野球・高校ラグビーとスポーツマウスガード|マウスガード着用の有用性についての研究

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

吉川先生が携わられた、日本高校野球連盟との「スポーツマウスガード」についての共同研究について詳しく教えてください
吉川一志 准教授アイコン
吉川一志 准教授
日本高校野球連盟と大阪歯科大学が一緒にお仕事をしたのはマウスガードについての研究です。

高校野球連盟はユニフォームなど、派手なものにとても厳しいのですが、日本高校野球連盟で役員を務めていた父経由で連盟から「マウスガードというのは歯科医学的に、どういうものなのか」という質問があり、その件がきっかけとなりその後共同で研究することになりました。

毎年高校野球では、夏の大会が終わったあとに選抜チームで海外遠征があります。そのチームの選手は毎年18名ほどいるのですが、一人ひとりにマウスガードを作って装着してもらい、5年ほど毎年使用感についてのアンケートを採るなど調査を行い、結果としては「高校野球でマウスガードを入れてもいい」という、認可が下りることになりました。

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

先生は高校ラグビーでの外傷防止にも取り組んでいらっしゃいますよね
吉川一志 准教授アイコン
吉川一志 准教授
高校ラグビーにかんしては、東大市歯科医師会の先生方と共同で、毎年花園で行われる全国大会で、歯科的なサポートを行うようなブースを作っています。スポーツマウスガード、特にカスタムマウスガードという歯医者さんが作製するものの推進を行っていました。
歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

そこではどのような活動をされていたのでしょうか?
吉川一志 准教授アイコン
吉川一志 准教授
ラグビー選手も練習で忙しく、歯医者さんに行く時間がないということで、しっかりとしたマウスガードを作ることが難しいと聞きます。

現在市販されているスポーツマウスガードは、お湯の中で軟らかくして、自分で口の中の型を取ってマウスガードを作るというものです。

安価ですし、自分で作ることができるというので簡単なイメージがありますが、実情として人が触れるくらいのぬるいお湯では作ることができないですし、歯医者さんではない人が自分で型を取って、しっかりマウスガードを作れるかといったらほぼ作ることができません。

結果として、全然お口に合っていないものを装着することになります。高校ラグビーはマウスガードの装着が義務化されているので、試合に出るために一応お口に入れておくのですが、お口に合っていないため外れやすいのです。

高校ラグビーの全国大会の会場では「歯医者さんが作るマウスガードは、一人ひとりのお口に合わせたものを作ることができるんですよ」という推進活動などを行っています。

歯の教科書 編集部まとめ

この記事では大阪歯科大学准教授 吉川一志先生に「スポーツ歯科」とはどのような分野かお話ししていただきました。

マウスガードの役割については、スポーツをする方、お子さんが体を動かす部活動に入っているという方にとって参考になるお話ですね。

吉川先生にはほかの記事でも、虫歯や歯周病といった病気とスポーツのパフォーマンスの関係、スポーツをしていて歯が抜けた時の対処法などについても解説していただきます。

大阪歯科大学 歯科保存学講座/大学院歯学研究科
吉川一志准教授監修
経歴・プロフィール

【略歴】
1996年 大阪歯科大学大学院 歯学研究科 博士課程修了 博士(歯学)
2002年 ロンドン大学留学
2006年 大阪歯科大学 歯学部 歯科保存学講座 講師
2008年 大阪歯科大学 歯学部 歯科保存学講座 准教授
2020年 大阪歯科大学 歯学部 大学院歯学研究科 准教授

【主な研究内容】
【2020年東京オリンピックに向けて(1)-スポーツ外傷防止に関する各競技の取り組み-】ラグビー競技での外傷防止の取り組みについて 大阪府学校歯科医会におけるスポーツ外傷防止(解説/特集)
知覚過敏治療のファーストステップ
歯髄保護法を再考する ~う蝕治療のガイドラインから~

ドクター詳細ページへ
執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。

ページトップへ