【教授に聞く】人とよく会う人ほど歯が多い?緑茶がもたらす健康へのメリットとは?

【教授に聞く】人とよく会う人ほど歯が多い?緑茶がもたらす健康へのメリットとは?

これまで、東京医科歯科大学 大学院 医歯学総合研究科 健康推進歯学分野 相田潤(あいだ じゅん)教授に、歯科疾患から見る健康格差、災害時の口腔ケアについてお話を伺ってきました。

今回は、緑茶が歯や全身の健康にもたらす影響や、人とのコミュニケーションとお口の健康のかかわりについて詳しく伺いました。

この記事の目次

緑茶と将来的な歯の残存数の意外な関係

歯の教科書 編集部
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相田先生が研究した「緑茶を飲んでいる高齢者は飲んでいない高齢者に比べて平均の歯の残存数が1・6本多い」という研究結果について詳しく教えてください
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相田潤教授
緑茶はさまざまな面で健康によいのではないかということで、これまでにもいろいろな研究がされていました。歯にもよいのではということも言われていたので、今回私たちが確認しました。

緑茶はカテキンという「ポリフェノール」のひとつである殺菌効果のある成分と、歯を強くするフッ化物(フッ素)が少しですが入っているので、それが歯周病の予防、虫歯の予防になっていると考えています。ほんの少しの効果ですが、毎日飲んでいると歯科疾患のリスクが減り、長い目で見ると差が出てくるということなのだと思います。

諸外国では水道水のフッ化物の濃度を1L中に1mgくらいにする「水道水フロリデーション」という施策があり、アメリカでは1940年代から虫歯予防として行っています。塩素などの濃度を一定にしておくのと同じで、フッ化物を一定濃度にしておくということなのですが、その水道水フロリデーションの濃度と緑茶に含まれるフッ化物の濃度は同じくらいなのです。

ごく微量ですが、フッ化物やポリフェノールが入っていることによって緑茶が虫歯予防・歯周病予防になっているのではと考えられます。その効果で緑茶を飲んでいる人のほうが、高齢者になったときに歯が多かったという研究結果がでたのでしょう。

緑茶を飲むことによる口内環境・全身の健康へのメリットとは?

歯の教科書 編集部
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その他にも緑茶を飲むことによる健康へのメリットはあるのでしょうか?
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相田潤教授
この研究をする中で気になったのは、緑茶は「人と会うとよく飲むもの」ということです。そこで「人とたくさん会っていることによる健康への影響が、実はあるのではないか」と考えました。

人と会っている人ほど健康で死亡率が低いとか、人と会うのは口の健康によいというのは言われています。一方で、特にご高齢者で仕事もリタイアした人では家をあまり出なくなり、人と会わなくなる、ということもあるかと思います。

家を出なくなると一日中座ってテレビを見るなど、あまり動かない生活になり、動かないと筋肉が衰えてきます。高齢者の方が骨折して3週間入院したら歩けなくなってきた、宇宙飛行士が宇宙に行っていたら帰ってきて立てなかった、という話をよく聞きますが、人間の筋肉は簡単に弱ってしまいます。家の中にずっといると緩やかに入院しているような状態で、知らず知らずのうちに弱ってきてしまうと言えるでしょう。ずっと家にいると、筋肉が衰える以外にも、「3食きちんと食べてきちんと歯磨きをする」という習慣もくずれやすくなってくると思います。

その反対に人と会うためには、多くの場合、外に出ます。外に出るためには朝起きて、朝ご飯を食べて、歯磨きをして、服を着替えて、バス停まで歩くというような、いろいろな保健行動を行います。

そのため、緑茶を飲む人は、人とよく会っていて、人と会うために歯磨きもしているし、歯医者さんに行って口腔ケアしようと行動を起こしている可能性があります。

緑茶とお口の健康の研究では「普段あまり人と会わない人」に着目すると緑茶の効果が大きかったです。一方で「よく人と会う人」の場合は緑茶の効果はそれほどでもなく、「人と会うための保健行動による効果が大きいようだ」という結果になりました。いずれにしても「緑茶を飲むという行動」はお口の健康によいのではと考えています。

歯の教科書 編集部
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きちんと口腔ケアをすることや緑茶を飲むことで、高齢になったときの歯の残存数が変わることがわかりました。では、健康な歯が多いことと健康的なメリットに関連性はあるのでしょうか?
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相田潤教授
歯がたくさんあると、さまざまな面で健康にいいということもわかっています。

歯がなくなってくると、固い食べ物が食べられないとか、歯が痛いと噛みにくくてあまり食べられないなど、「歯がない」ということが原因で「体重が減りやすくなる」ということが言われています。

日本の高齢者の方は、痩せすぎていると死亡率が高い、要介護になりやすいことがわかっています。フレイル(要介護の前段階)とも言いますが、食べられないことで体重減少して、健康が悪くなる、筋肉も衰えて、全身的な虚弱状態になるということはあるでしょう。

最近はオーラルフレイルといって、口の弱りで噛んだり食べたり飲みこんだり、むせる反射が十分に起こらず、肺の中に唾などが入り込んでしまって誤嚥性肺炎になるといったことも報告されています。

口の健康は話したり笑ったりということにもかかわるので、歯がなくなることはコミュニケーションがしにくくなることにつながります。このことは、栄養面など身体的な影響のほかに、「友人に食事に誘われたけれど、よく噛めなくて恥ずかしい思いするのは嫌だから断ってしまう」など、社会生活への影響というのがあると考えられます。

実際に研究で、東日本大震災の後、入れ歯をなくした方がどのような困りごとが増えたかを聞いたところ、噛めないということはもちろん、人と話すとか一緒に笑うということでも困ったという方が増えていました。そのため、歯が悪いと人とのコミュニケーションが減ってしまう可能性があります。

人とコミュニケーションを取るというのは非常に大事なことで、人と会うから歯磨きする、身だしなみを整える、人と会うために外に出る、そのために歩く、それが運動になるといったことにつながります。反対に人と会わないと歯磨きをさぼったり、歯の詰め物が取れて見た目が悪くなっていても直さなかったり、3食しっかり食べるのをさぼってしまうこともあるかもしれません。

人と交流をしなくなると、健康状態が悪くなると言われていますが、口の健康が悪いと、人と交流することが減ってしまうというとも言えるでしょう。栄養の面と、社会的交流の面、この二つが大きな柱となり、口の健康が全身の健康に大きな影響を与えていると考えています。日本人を対象にした研究でも、歯が多いほど健康寿命が長く、歯が少ないほど健康寿命が短いということも明らかになっています。

お口の健康は認知症や身体的な介護のリスクにも影響

歯の教科書 編集部
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お口の健康は人とのコミュニケーションにも影響するということは、認知症や身体的な介護のリスクにもかかわるのでしょうか?
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相田潤教授
そうですね。実際、口腔の状態が悪いことで要介護になりやすかったり、認知症になりやすかったりというのは日本人を対象とした研究でも示されています。私たちが今進めている研究でも、口を通して栄養を摂取するという経路と、人と会うという経路、やはり両方とも認知機能に影響するのではないかということが分かってきています。

入れ歯をしていない人を追跡していくと、閉じこもりになりやすかったという論文もでています。閉じこもりになると、生活習慣、運動量が減りますし、当然人との交流も減りますので、認知機能だけでなくさまざまなリスクが増えると言えるでしょう。

歯が悪いからといって必ずしも閉じこもりになってしまうというわけではありませんが、歯の健康状態の悪さも閉じこもりの一つの要因として挙げられます。

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2020年はステイホームが唱えられて人との交流がなかなかなくなってしまったという人もいると思いますが、極端に家から出ないことはお口や全身の健康に影響がありそうでしょうか?
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相田潤教授
社会的な孤立が増えてしまい、それが健康に影響するのではないかというのは多くの研究者が危惧しています。

私は以前、日本とイギリスの比較研究をしたことがありますが、日本人の高齢者の男性は、友人との交流が少ないということがわかっています。女性は日本とイギリスとでそこまでの差はなかったのですが、男性同士を比較すると大きな差がありました。そのことが、日本人男性の寿命を短くする方向に寄与していたのです。

この研究は対象者が日本の高齢者の方なので、女性は専業主婦で、男性が働くというご家庭が多かったことも関係しているかと思います。労働時間がイギリスよりも日本のほうが長く、そうすると夜に友人と遊ぶ、飲みに行くということも少なくなるのでしょう。また働いている間は“会社の仲間=友人”のような感覚ですが、退職したらそれがいきなりなくなるので、その分日本人男性は友人と交流が少なく、日本とイギリスを比較したときに、日本人男性のほうが寿命を縮めていたと考えられます。

また日本の男女で共通している点として“痩せ型”が多いということも挙げられます。日本の高齢者の場合痩せすぎている人が多くて、それも寿命を縮める原因の一つと考えています。

痩せの背景には、「口の状態が悪くて思うように食べられない」というのも一部関係しているでしょう。これらの点から、今回のステイホームは、外に出ない、人と会わないことで、歯磨きを含む身だしなみを気にしない、買い物にあまり行かなくなることで、栄養状態もわるくなる、ということが起こっているかもしれません。

ずっと家の中にいて運動量が少ないと、筋肉が弱ってきて転びやすくなるということもあるでしょう。外に出て人と交流することは脳の刺激にもなるでしょう。外に出ることが減るというのは、いろいろな生活習慣が減ってしまうという面で、健康への悪影響が危惧されるところです。

歯の教科書 編集部
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感染防止のためには出歩かないほうがいいけれど、将来的な健康を考えると社会的交流があるほうがよいということですね
相田潤教授
相田潤教授

閉じこもりや、交流がないということは、メンタルヘルスの悪化、うつ病を増やすということも多く研究されています。メンタルヘルスに影響があれば、より人と会わなくなってしまうでしょうし、本当にさまざまな面で心配されるところです。

オンラインを活用した交流などでどこまで、どれだけカバーしきれるのかというのは、これからの課題になると思います。

歯の教科書 編集部まとめ

この記事では、東京医科歯科大学 相田潤教授に、人とのコミュニケーションがもたらすお口の健康への影響についてお伺いしました。

新しい生活様式が提唱される中で、以前より人との交流が少なくなってしまった方も、オンラインを活用するなどして、人とのつながりをもてるとよいでしょう。

楽しい食事、楽しい会話ができるように、お口まわりのケアもしっかりと行いたいですね。

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
相田潤教授監修
経歴・プロフィール

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野 教授

【略歴】
2007年4月 東北大学大学院歯学研究科 国際歯科保健学分野 助教
2010年4月 University College London Visiting Researcher
2011年11月 東北大学大学院歯学研究科 国際歯科保健学分野 准教授
2012年10月 宮城県 保健福祉部 参与(歯科医療保健政策担当 )(兼務)
2014年10月 東北大学大学院歯学研究科 臨床疫学統計支援室 室長(兼務)
2018年4月 東北メディカル・メガバンク機構 地域医療支援部門 准教授(兼務)
2020年8月 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野 教授

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執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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