【教授に聞く】加工で変わるインプラントの違い!より骨とくっつきやすい素材とは?

一言にインプラントといっても、さまざまな種類があることをご存じでしょうか? 顎骨に埋め込んでしまった後では見ることはできませんが、見た目にも違いがあるんです。

では、違いの理由は何なのでしょう。神奈川歯科大学・木本克彦教授に解説していただきます。また、木本教授が研究を行っている、より生体適合性の高いインプラントについても明かされます。

※前回の記事「年代別で見る咀嚼機能の変化!楽しく食べることで脳を活性化

この記事の目次

粗く設計されるインプラントの表面!形状が違う理由

歯の教科書 編集部

骨に埋め込んでしまうインプラント体ですが、形状に違いがあるのはなぜでしょうか?

木本克彦教授

インプラントは人工の歯根を埋め込むという治療で、各メーカーさまざまな種類を出していますが、人工歯根の形は円柱状になっています。

では、何が違うのかというと表面性状が違うんですね。インプラントは、埋め込まれたら骨とくっつかなければいけない。できるだけ早く、強くくっついてほしいので、表面をわざと粗くしているんです。粗く設計されている部分に骨が入り込んで、インプラントと強く結合していくということなんですね。

そのため、サンドブラストや酸エッジング、陽極酸化処理という方法で粗くしたり、骨の成分であるアパタイトをコーティングして、より結合させやすくするといった作業が行われています。

歯の教科書 編集部

患者さんは、どういったインプラントを選ぶといいのでしょうか?

木本克彦教授

これは、各メーカーのインプラントともに承認されていて、それぞれがメリットを持っているので、どれがいいとは一概にはいえないですね。

さまざまな歯科医院でインプラント治療を受けられますが、患者さんの状況を見て、先生が選択基準を設けていると思います。相談をしっかりできる歯医者さんを見つけることが大切ですね。

患者さんが覚えておかなければいけないことは、糖尿病、喫煙など、インプラント治療の成功率を下げてしまう因子があるということです。

より適合性を高く!新しいインプラント素材の研究

歯の教科書 編集部

先生は、より生体適合性の高いインプラント素材の研究をされているそうですね。

木本克彦教授

豊橋技術科学大学の三浦博己教授が研究した高強度MDF純チタンという素材ですが、鶴見大学歯学部とも共同研究を行っています。純チタンというものは、生体親和性も高いので、インプラント素材として幅広く使われています。

その純チタンを、巨大ひずみ加工技術を応用した多軸鍛造(MDF)法で叩いて叩いて、潰しまくってつくるのが高強度MDF純チタンなんです。高強度MDF純チタンの特徴は、一般的な純チタンの化学組成を変化させることなく強度が2.5倍ほど高くなっていることです。

そして面白いのが、純チタンよりも弾性があるということなんです。初めは硬くしているので“ぽきっ”と折れてしまうのではと思ったんですが、その逆の結果になりました。巨大なひずみを与えることによるチタン結晶粒の超微細化がその理由です.

歯の教科書 編集部

弾性があることのメリットは何なのでしょうか?

木本克彦教授

自身の歯の場合は歯根膜という膜があって、それが食いしばりの力を緩衝してくれます。ですがインプラントには歯根膜がありません。

なので、骨の弾性率が30GPaくらいだとして、インプラントの弾性率が骨より強い100GPaだった場合、インプラントと骨の間に大きな弾性率の違いが出てしまいますね。すると、歯を“ぐっ”と食いしばったときなどに強い力が加わり過ぎると、徐々に骨が減っていってしまいます。これを骨吸収といいます。

ですから、骨とインプラントの弾性率はほぼ同等が望ましいんです。歯を“ぐっ”と食いしばっても一緒にゆがむため吸収が起こりづらくなると考えています。

歯の教科書 編集部

強度があるのに、弾力もある。MDF純チタンのメリットは大きいですね。

木本克彦教授

そうですね。今までの純チタンでは折れやすくなってしまうので行えませんでしたが、骨量の少ない患者さんに、細いインプラントを入れることができるようになります。

また拡大した見てみますと、MDF純チタンのほうが、純チタンより細かい穴が多いことが分かったんです。叩いて潰したことで、もっと小さい粒ができていたんですね。

そうすると細胞がよくくっつき、骨と適合しやすいということになります。

歯の教科書 編集部

実用化はまだ先なのでしょうか?

木本克彦教授

実用化はまだ先です。ただし、もうすでにインプラント体に使用されている純チタンを押し潰しているだけですから組織成分は変わっていないんですね。

ただ、実用化するにあたっての、コスト面などをどうしていくかなどが今後の研究課題になっていきます。

歯の教科書 編集部まとめ

表面加工で違うインプラント体の形状

●インプラントは、骨としっかりくっつくよう加工が施されており、さまざまな表面形状があります。

●それぞれがメリットを持っているので、どれがいいというわけではありません。

●患者さんの状況を見て、先生が選択をしてくれます。しっかりと相談のできる歯医者さんを見つけることが大切です。

神奈川歯科大学 大学院 歯学研究科
口腔統合医療学講座(補綴・インプラント学)
木本克彦教授監修
経歴・プロフィール

1988年 :神奈川歯科大学歯学部卒業
2000年:米国カリフォルニア大学ロサンジェルス校(UCLA)歯学部 客員研究員(〜2002年)
2007年:神奈川歯科大学 顎口腔機能修復科学講座 クラウン・ブリッジ補綴学分野 教授
2014年:大学院歯学研究科 副研究科長(〜2019年)
2015年~:神奈川歯科大学附属病院 副病院長
2017年~:神奈川歯科大学大学院歯学研究科 口腔統合医療学講座
補綴・インプラント学 教授(講座再編のため)
現在に至る。

ドクター詳細ページへ

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。