【教授に聞く】なるべく削らない治療“ミニマルインターベンション”とは!誕生した背景は“虫歯になりやすい治療” ?

【教授に聞く】なるべく削らない治療“ミニマルインターベンション”とは!誕生した背景は“虫歯になりやすい治療” ?

なるべく削らない治療“ミニマルインターベンション”という言葉をしっていますか? どうしてこのような考え方が生まれたのかを調査するため東京医科歯科大学・田上順次教授にインタビュー。

ミニマルインターベンションとはどういう意味なのか、昔はどういう治療だったのかなど解説していただきます。

また、ミニマルインターベンションが可能になった治療器具の進化についても明かされます。

※前回の記事「歯の根にできる虫歯・根面う蝕!気づきにくく重度になっていることも

この記事の目次

小さい虫歯治療がきっかけで虫歯が悪化!改善のために生まれたミニマルインターベンション

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

ミニマルインターベンションとはどういう考え方なのでしょうか?

田上順次教授
田上順次教授

ミニマルインターベンションとは、治療の際の体へのダメージを最小限にしましょうという考え方です。ですから、初期の虫歯であれば、なるべく歯を削らない治療を選択しましょうとなりますね。

極論をいってしまうと、変に治療をしてしまうより、削らない方が歯は長持ちすることもあります。

昔の虫歯治療は、悪い部分を削って金属やセメント、アマルガムを詰めるということがベーシックでした。その治療経過を見ていると、1度治療をした歯というのは、歯と詰め物の境界のところからまた虫歯になりやすかったんですね。これを、二次う蝕といいます。

こうした治療を続けていると、患者さんは1本の歯で何回も何回も治療をしなければいけなくなり、費用の負担も増える、その結果、社会保障にも影響を与えてくるということになりました。

そこで初期の虫歯のときにはもっと良い対応はないかと考えられ、フッ素を塗布したり、ホームケアを徹底したりすることで、虫歯を進行させない、改善できるようにしましょうとなったんです。

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

昔の治療は、なぜ二次う蝕になりやすかったのですか?

田上順次教授
田上順次教授

初期の虫歯でもたくさん削らないと、詰め物が取れてしまったんです。ですから、しっかりと削り込んで、詰めていたんですけれども…。

昔は、詰め物をセメントでくっつけることが多かったんですね。これを顕微鏡で見てみますと、歯とセメント、詰め物とセメントの間には隙間があるんです。

また、長期間経過するとセメントは溶けてなくなってしまので、隙間はもっと大きくなっていきます。こうしたことが原因で、詰め物治療をした後は、再び虫歯になりやすかったんですね。

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

小さな虫歯を治療したのに、虫歯のリスクは高いままだったんですね…。

田上順次教授
田上順次教授

そうですね。小さい虫歯の治療後に再発すると、もっと大きい詰め物をして治療をしていました。それがまたダメになると、また大きな詰め物をしてと…。

それを繰り返しているうちにだんだん神経も痛んできて、しまいには神経を取って被せ物をすることになる。神経を取ってしまったことで、根っこが割れやすくなって、最後には抜歯することになってしまう。

最初に小さい虫歯を治療したことで、どんどん歯が壊れてしまう。たくさん医療費もかかってしまうという悪循環におちいることがあったんです。

なるべく削らない治療を可能にする3アイテム

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

昔は詰め物がすぐに取れてしまったとありましたが、いまはなぜ取れにくくなったんですか

田上順次教授
田上順次教授

詰め物治療を行うための歯科用の接着剤というのが出てきたんです。これによって、ミニマルインターベンションという治療も可能になったんですね。

日本では、なるべく削らない治療というのは、1980年代にはほぼ築かれていました。世界歯科連盟(FDI)がミニマルインターベンションを宣言したのが2002年のことですから、世界に先駆けてこの治療法を推奨していたんですね。

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

歯科用の接着剤のほかにも、ミニマルインターベンションに役立つ道具は出てきましたか?

田上順次教授
田上順次教授

虫歯の細菌が入り込んでいる部分だけを染め出してくれる染色液が登場しました。その部分だけを削ることで、健康な歯を削ってしまうリスクが減ったんです。

そして、その部分だけを削ることができる器具ですね。歯を削るには、高速で回転するエアータービンや、マイクロモーターという電気で回る器具などを使うんですけれども、先端に取りつけるドリルがうんと小さいものを使うようになりました。

これで、余計なところを削らなくて済むようになったんですね。

ほかにも薬剤で虫歯部分を溶かしてしまうという考え方もありますが、時間がかかってしまうので、これはあまり実用的ではないと考えています。

入れ歯やインプラントもミニマルインターベンション?

歯の教科書 編集部
歯の教科書 編集部

歯を削らないという意味では、入れ歯やインプラントもミニマルインターベンションと考えられるのでしょうか?

田上順次教授
田上順次教授

入れ歯というのは歯をほとんど削らずに、失った歯の部分を補うことができるので、ミニマルインターベンションの考え方に沿っていると思います。

インプラントは、確かに歯を削ることはないのですが、骨に穴を空けて人工の歯根を入れる手術を行いますよね。これは、歯へのダメージはない代わりに、体に対する侵襲は大きいですよね。ですので、本当の意味からするとミニマルインターベンションではないといえます。ただしインプラントが第一に適した治療法となる患者さんもたくさんいらっしゃいます。

また、1本の歯だけなくなったとき、両側の歯を削ってブリッジにするときと、削らずに歯をくっつけるだけですと、後者はミニマルインターベンションの考え方といえます。

あくまで、初期の虫歯では削らずに進行を止める、もとに戻す(再石灰化)させる。穴が開いた虫歯では、できるだけ健康な部分を削らない治療法をミニマルインターベンションといいます。

歯の教科書 編集部まとめ

ミニマルインターベンションとは、人体へのダメージを最小限にした治療ということが分かりました。

また、この治療が実現する以前は、再発のリスクが高く、小さい虫歯治療を行ったことがきっかけで、最終的には抜歯にいたってしまうということもあったといいます。

歯科用の接着剤や、染色液、小さいドリルの登場で、ミニマルインターベンションは可能になり、日本が世界に先駆けて行っていたということには驚きました。

ほかにも、ミニマルインターベンションの考えにのっとると、入れ歯もダメージを最小限にした治療ということになるんですね。

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
う蝕制御学分野
田上順次教授監修
経歴・プロフィール

1980年 東京医科歯科大学歯学部卒業
1984年 東京医科歯科大学大学院歯学研究科博士課程修了(歯学博士)
1984年 東京医科歯科大学歯科保存学第一講座助手(1994年まで)
1987年 米国ジョージア医科大学 Adjunct Assistant Professor(1988年まで)
1994年 奥羽大学歯学部歯科保存学第一講座教授(1995年まで)
1995年 東京医科歯科大学歯学部歯科保存学第一講座教授(2021年まで)
この間、同大学にて、歯学部附属歯科技工士学校長、歯学部附属病院歯科器材・薬品開発センター長、歯学部長、大学院医歯学総合研究科研究科長、理事・副学長 等を歴任
2021年 東京医科歯科大学名誉教授
現在 朝日大学客員教授、奥羽大学客員教授、昭和大学客員教授、医療法人徳真会 先端歯科センター長

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執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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