根面う蝕という症状を聞いたことはありますか? 歯茎の上にある歯の部分ではなく、根っこの部分が虫歯になってしまう病気です。
ではなぜ、このような虫歯になってしまうのか、東京医科歯科大学・田上順次教授に解説していただきます。
また、進行速度や治療方法、予防についても教えていただきます。
※前回の記事「1日で終わる詰め物治療!コンポジットレジンで変化した治療のやり方」
歯の根っこにできる虫歯!なぜなってしまうのか
根面う蝕とはどういった症状なのでしょうか?
根面う蝕とは名前の通り、歯の根っこの部分にできる虫歯のことです。
最近は虫歯が減ってきたといわれていますが、これは12歳児の虫歯の数で言われていることで、それ以降の年代ですと、まだまだ予防がしっかりできているとはいえません。
すると、成人や高齢の方では根面う蝕という問題が出てくるんです。
年齢を重ねるとある程度歯茎が下がってきて、歯の根っこ部分が露出するということがあるんですね。これは、歯周病がひどいからなるというわけではなく、健康な方でも出てくるんです。
根面う蝕になってしまう主な原因を教えてください。
歯茎の上に出ている歯の部分はエナメル質で覆われているんですけれど、根っこの部分にはエナメル質がなく、うすいセメント質があるだけで、すぐに象牙質がむき出しになります。
エナメル質は、だいたいpH 5.5という比較的弱い酸で溶け出すのですが、象牙質はさらに弱いpH 5.8から6くらいでも溶け出してしまうんですよ。pH 7が中性ですから、かなり弱い酸でも溶け出してしまうのか分かりますね。
そして、年齢とともに下がってきた歯茎のせいで、歯が伸びたような形になっているので、根元には歯ブラシも当てにくくなっています。
すると、その部分にプラークが溜まりやすくなり、プラーク中の虫歯の原因菌が酸をつくりますから、歯の根の部分が酸性になって表面が溶けてしまうということになるんですね。
これまで、虫歯がなかったような健康な人でも、歯の根っこというのは虫歯になりやすいので注意が必要です。
進行に気づきにくい?重度の虫歯になっていることも
根面う蝕の進行は、気づきにくいものなのでしょうか?
虫歯になると痛いと思われがちですが、虫歯が始まった初期の状態では痛くないんですね。これは、根面う蝕にかぎらず、どの部分にできる虫歯でも同じです。
いつ痛くなるのかというと、虫歯が神経に近いところまで進んで、神経に影響を与え始めると痛みだすんですね。
それで、根面う蝕の場合ですが、歯の表面から神経までの象牙質の厚さが約2mmから3mmあるとして、虫歯が深くまで進んでも痛みがあまり出てこないんです。理由は、高齢になってくると神経がだんだん小さくなってきていて痛みを感じにくくなっているからですね。
それと、根面う蝕というのは、エナメル質から始まる虫歯と違って、穴が空きにくいんです。エナメル質は酸で溶け出すと、最初は少し白っぽくなって形は残っていますが、進行すると溶けてなくなって穴があきます。
しかし歯の根っこは、象牙質です。象牙質にはコラーゲンが含まれていますが、この部分は酸で解けないので、中がスカスカになっても多少は形を保っているんです。そのため、へこみもしないですし、色がつかないこともあります。
そうすると気づいたときには、スポンジのように柔らかくなってしまった深い虫歯になっていたり、歯の根っこをぐるっと一周するような虫歯になっていたりすることもありますね。
こうなってしまうと治療してもなかなか歯を残しにくい…。歯がぽきっと折れてしまうこともあります。
根面う蝕は、高齢者の方がなりやすいのでしょうか?
そうですね。高齢者がなりやすい理由としては、免疫力の低下や唾液の性質の変化なども考えられます。また、生活の変化で口や舌の動きが減ってきてしまう。さらに、プラークの中にいる数百種類もの細菌が、口の中の環境の変化によって虫歯になりやすい細菌に変化していくということもあるんですよ。
こうして、虫歯のリスクというのは変化してくるんです。そうすると、若いときは虫歯や歯周病がなかった人でも、根っこの部分の虫歯になりやすくなることが多いといえますね。
ですが、若い人でも根の部分が少しでも出てきていると注意が必要で、虫歯になっていることもあります。
根面う蝕を治療・予防するには
根面う蝕を発見することができた場合、治療はどのように進められるのでしょうか?
初期の段階でしたらまだしも、悪くなってしまった部分というのはもとに戻るということはありません。ですから普通の虫歯と同じように、悪くなってしまった部分を削って、いわゆる詰め物をするという治療になります。
できるだけ早いうちに根面う蝕を見つけて、進行する前に治療、または予防処置をすることが大切になってきますね。
根面う蝕を予防するためにはどうしたらいいのでしょうか?
やはり原因をなくすということになりますので、プラークコントロール、つまりプラークを溜めないようにするということです。そのためには歯ブラシを、歯茎のところまで、唇の内側の深いところまで当てて、歯の根の部分を磨いてください。
ですが、歯の根の部分というはどうしても歯ブラシが当てづらく、高齢になると手の動きも鈍くなってきますから磨きにくいんです。
歯医者さんでは、皆さんが根面う蝕になりやすい個所を見つけて、その部分を意識して磨けるようにアドバイスしてくれます。リスクの高い場所を自分で知っておくことが重要です。ぜひ、定期検診に行かれることをおすすめしています。
歯の教科書 編集部まとめ
歯の根の部分が虫歯になってしまう根面う蝕は、基本的な虫歯よりも進行が早いということが分かりました。
また、進行に気づきにくく、気づいたときには歯を残した治療を行えない場合もあるといいます。
予防のためには、露出してしまった歯の根っこ部分を丁寧に磨くことが大切になってきますが、なかなか難しいため、かかりつけの歯医者さんでチェックしてもらうことが重要です。
1980年 東京医科歯科大学歯学部卒業
1984年 東京医科歯科大学大学院歯学研究科博士課程修了(歯学博士)
1984年 東京医科歯科大学歯科保存学第一講座助手(1994年まで)
1987年 米国ジョージア医科大学 Adjunct Assistant Professor(1988年まで)
1994年 奥羽大学歯学部歯科保存学第一講座教授(1995年まで)
1995年 東京医科歯科大学歯学部歯科保存学第一講座教授(2021年まで)
この間、同大学にて、歯学部附属歯科技工士学校長、歯学部附属病院歯科器材・薬品開発センター長、歯学部長、大学院医歯学総合研究科研究科長、理事・副学長 等を歴任
2021年 東京医科歯科大学名誉教授
現在 朝日大学客員教授、奥羽大学客員教授、昭和大学客員教授、医療法人徳真会 先端歯科センター長
執筆者:
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