歯周病が全身の病気とどのように関わっているのか、日本歯科大学生命歯学部・沼部幸博(ぬまべゆきひろ)教授に解説していただきます。
歯周病の細菌や炎症物質などが全身に広がってしまうメカニズムや、たどり着いた先でどういった悪さをするのかなどが明かされます。
※前回の記事「5.88倍、タバコを吸うことで上がる歯周病のリスク」
毛細血管を伝って全身に!細菌が全身に広がる経路
歯周病が全身疾患に関係する理由を教えてください。
歯周病によって歯茎が腫れている場所では、細菌と、私たちを守る白血球が戦いを繰り広げています。
そのため炎症が起こるのですが、そこで集積された細菌や、炎症物質が毛細血管を伝って全身に飛び散っていくんですね。
その行き先は、脳であったり、肺であったり、心臓、子宮とさまざまで、たどり着いた先ごとで病気の発症に関係すると考えられています。
最近の調査では、いくつかの臓器のがん、血液のがんとも関係しているのではないかといわれています。
歯周病は、がんになる危険性が高まる?
歯周病は、がんにも影響しているかもしれないのですね…。がんとの関係性では、どのようなことが分かっているのでしょうか?
愛知県がんセンターの研究データでは、1日に2回以上歯を磨く人は、1日に1回しか磨かない人より、口腔がんや食道がんになる危険性が3割低いと出ています。
また、1回も歯を磨かない人は、1回しか磨かない人より、口腔がんや食道がんになる危険性が1.8倍高いというデータも出ています。
ただし、歯周病と腫瘍とがどのようにつながっているのかは、まだ解明されていないんです。
炎症物質とは、全身に与える影響とは?
細菌のほかに、炎症物質が全身疾患の原因となっているとありましたが、炎症物質とは何なのでしょうか?
細菌との戦いの場でつくられる炎症性サイトカインやプロスタグランディンなどの物質です。
これらはもともと、炎症をコントロールしようとしてつくられる物質なので、悪いものではないのですが、場合によっては体に悪い方向に作用することがあるんですね。
炎症物質は具体的に、どのような悪影響を与えるのでしょうか?
例えば妊娠している女性。出産には、プロスタグランジンという炎症物質が関係しています。この炎症物質が子宮の周りで増えることが、子宮の収縮に関係し、赤ちゃんが生まれるんですね。
ですが、お母さんが歯茎に炎症を持っていてプロスタグランディンが多くつくられ、それが全身に行き渡ってしまうと、プロスタグランジンの濃度が子宮で高まってしまって、赤ちゃんが生まれる時期ではないのに産まれてしまう…、いわゆる早産になりやすいという仕組みが考えられています。
それから、炎症性サイトカインの一種は、糖の分解時に働くインシュリンの作用を阻害することが分かっています。そのため、血糖値が上がってしまい糖尿病を悪化させやすいんですね。
歯周病菌が血液中に!血管に及ぼす悪影響
歯周病菌も全身に伝染してしまうことはあるのでしょうか?
血液の中に歯周病菌が入って、全身の臓器に散らばっていくことがあります。その中には、血管の壁で悪さをしているということが分かっています。
血管のところにコレステロールなどがたまる動脈硬化という状態がありますよね。血管内にコブができて膨らんでしまうため、血管が狭くなってしまう。場合によっては、血栓といって血の塊が詰まってしまい、心筋梗塞や脳梗塞で命を落とすという危険性もあります。
この血管の膨らみのコレステロールの部分に、歯周病菌が見つかっているんです。何らかのかたちで、血管の壁にたどり着き、動脈硬化を引き起こす一翼を担っている可能性があります。
歯種病菌は血液の中でも生きていけるものなのでしょうか?
基本は、速やかに白血球によって殺されてしまうはずなんです。
ですが、歯周病を放置して持続的に細菌が血液の中に送り込まれつづけると、全ての菌を退治することができず、血液の中に細菌が混じっている菌血症という状態になってしまうんです。
このように、歯周病にかかったままにすることは全身に影響を及ぼす危険性があるので、予防・治療というのは非常に大切になるんです。
1983年3月:日本歯科大学歯学部卒業
1987年3月:日本歯科大学大学院修了(歯学博士)
1987年4月:日本歯科大学歯学部歯周病学教室 助手
1989年4月:日本歯科大学歯学部歯周病学教室 講師
1989年9月:カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)歯学部 客員講師(〜1991年)
1993年4月:日本歯科大学歯学部歯周病学教室 助教授
2005年6月~:日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座 教授
2018年4月~:日本歯科大学生命歯学部 学部長
現在に至る
執筆者:
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