【教授に聞く】口腔癌(がん)とは!原因や前兆、早期発見に必要なこと、治療の流れまでを徹底解説

【教授に聞く】口腔癌(がん)とは!原因や前兆、早期発見に必要なこと、治療の流れまでを徹底解説

言葉ではよく耳にする「口腔癌(がん)」ですが、何歳くらいから気をつけるべき病気なのでしょうか?

鶴見大学歯学部口腔内科学講座の里村一人(さとむらかずひと)教授にお話を伺い、口腔がんの原因や前兆などを解説していただきました。

また、口腔がんの治療や検診など、さまざまな疑問に答えていただきました。

この記事の目次

口腔がんを意識すべき年代!原因、前兆はあるのか?

里村一人教授

Q1.口腔がんを気をつけるべき年齢を教えてください

口腔がんというのは、さまざまな原因により細胞の遺伝子が傷つき、細胞が自律的に増殖するようになって、まったくコントロールができなくなってしまった病気です。そのため、がん細胞が実際にできるまでには、遺伝子に異常が蓄積している期間があるわけです。

ですから一般的には、やはり中高年以降の方が多く発症します。これはほぼすべてのがんにいえることで、50代、60代以降の方の割合が多くなっています。ですが、場合によっては20代半ばから30歳前後の方にも発症することがありますので、油断は禁物です。

Q2.口腔がんの主な原因にはどのようなものが考えられているのでしょうか?

疫学的にいわれているのは、タバコと飲酒ですね。特にタバコは、口腔がんの発症に大きく関わっていると言えますので、タバコを吸われる方は是非止めていただきたいと思います。

Q3.口腔がんかもしれないという前兆はあるのでしょうか?

自覚症状として強く本人が意識するのは痛みです。ただし痛みが出たときには、がんであれば、かなり進行してしまっています。でも、痛みが出るまでの間にまったく自覚症状がないかというとそうでもありません。

それは、“違和感”です。口腔がんの中でとくに多い舌がんの場合ですと、しばらく前から「何となく変な感じがしていた」とか「ものがしみた」「歯にあたっていた」などの症状が先行していることが多いです。

また、入れ歯が合わないとか、虫歯になって治療せずにいたことで歯に尖った部分ができ、それが舌に擦れているなどということが、がんの原因になりやすいので、放置しておくことは危険です。

口腔がんの特徴とは!早期発見のために必要なこと

Q4.口腔がんかどうかを自身で判断するにはどうしたらいいのでしょうか?

口腔内は、患者さん自身が口を開けて見ることができます。場合によっては、自分の指で触ることもできますよね。

がんは、“やわらかくない”んです。“むしろかたい”んです。そういった、しこりのようなものができているのが大きな特徴です。

もちろんしこりだけではなく、表面に紅いただれや白い潰瘍(かいよう)ができて違和感や痛みを伴っている場合もありますが、このような場合にも触ると周囲の正常な部分に比べ非常に硬くなっています。

そのような、しこりができるまでの間にも、「歯と擦れている」とか「しみる箇所がある」「何か変な感じがする」などの自覚症状があるので、すぐに相談していただけると早期発見につながると思います。

Q5.口内炎と見分けるためにはどうしたらいいのでしょうか?

食物などで口腔粘膜が傷ついてできる一過性の炎症であったり、その他の原因による口内炎の場合には、基本は1週間、長くても10日くらいで症状は治まります。

それ以上続いているということは、がんではないにしても何らかの専門的治療が必要な疾患である可能性があるので、まずはかかりつけの歯医者さんに相談してみてください。

そこで病気に対応できないにしても、専門の医療機関を紹介してくださると思います。

Q6.口腔がんは、早期発見しやすいのでしょうか?

例えば内臓にできたがんというのは痛みなどの自覚症状が出たときには、かなり進行してしまっていることが多いんです。それは、感覚を脳に伝える神経の種類の違いによって、口腔に比べると、内臓が痛みに対してはやや鈍感だからです。

しかし、口腔内というのは、髪の毛が1本入っただけでも分かるほど感覚が鋭敏なところですので、すぐになんか変だという違和感を感じる、場合によっては食べ物がしみるなどの痛みが出ます。このような時期に歯科医院や専門医療機関を受診すれば、内臓のがんよりはずっと早期に発見できるだろうと考えています。

国民全員がそのことを正しく理解し、それを受け止める医療体制が整ってさえいれば、口腔がんは早期発見・早期治療の実践により、死亡者を大きく減らすことができると考えています。

口腔がんの治療方法!口腔機能に損傷を与えないために

里村一人教授

Q7.口腔がんの治療はどのように進められるのか教えてください

治療としては外科療法(手術)、抗がん薬を使う化学療法、そして放射線療法があります。放射線療法に関しては、体外から放射線を当てる方法と、放射線を出す金属のような粒や針を腫瘍組織の中に埋め込んで照射する方法の2つがあります。

非常に小さい、初期がんの場合は取ってしまった方が良いといえるので、手術療法だけで終わるということもありますが、ある程度の大きさになってしまったり、リンパ節転移があったりすると、外科療法(手術)に加え、化学療法や放射線療法が併用されるようになりますね。

Q8.治療で気をつけなければいけない点などあるのでしょうか?

注意しなければいけないことというよりは治療の特徴をお話ししますと、外科療法と放射線療法は局所療法となります。つまり、がんができたところだけに対する治療方法です。

口腔がんの場合、頸部(けいぶ)のリンパ節に転移が見られることも多いですが、その部分を併せて取り除いたとしても、がんが存在している身体の一部を取り除いているだけなので、局所療法ということになります。放射線療法にしても同じことがいえますね。

つまり、がんが原発巣とは別の離れた場所に遠隔転移していたり、まだ検査でも見つからなかったりするような小さな転移巣に対しては、残念ながら有効な治療法とは言えないのが実情です。

ですから、遠隔転移などが懸念されたり、手術や放射線療法の治療作用を高めたりしたい場合などには、化学療法を行うことになります。

この場合には抗がん薬や研究されてきたさまざまな分子標的薬を注射し、血液を介してがん細胞に作用させることになるため、理論的には全身のがん細胞を標的にすることが可能です。

また最近は、免疫療法や温熱療法といった新しい治療方法も成果を上げつつあり、近い将来新たな集学的治療へと発展するかもしれません。

いずれにしても、ある一定以上にがんが大きくなっている、あるいは頸部のリンパ節に転移が起こっているような場合には、大きな手術が必要になりますし、多くの場合ほかの化学療法や放射線療法も併用しなければならなくなりますので、体力的にも負担がかかりますし、時間もかかります。そして、がんを根治(こんち)させられる可能性も少なくなってしまいます。

ですので、早期発見がやはり重要です。早期発見さえできれば、小さな手術で済みますので、人と楽しい話をしたり、美味しいものを食べたり、飲んだりする口腔の大切な機能が大きく失われることはありません。

口腔がん検診はいまだ十分に根付いていないのが現状!これからどうなるべきか

Q9.今後、口腔がんの検診はどのようになっていくべきなのでしょうか?

口腔がんは、自覚症状としては違和感などという形で分かるんですが、本当に初期の場合には、専門医が診てもなかなか、がんとは判断しにくいことが非常に多いんです。

ですから、そのときにがんかどうかをできるだけを詳細に判断できる、高い診断技術を築き上げる必要があります。多くの人に対して、簡便にまた同時に検査ができるシステムの研究を進めることが、日本にとってもグローバル的にも重要だと思います。

口腔がん検診に関しては、ここ数年、日本歯科医師会や各地の歯科医師会などが力を入れています。かなりの成果を挙げているのも事実なのですが、「毎年・毎回行っていても、来てくださるのは同じ方ばかり」というような実態もあるのが現状のようです。

すべての国民に口腔がん検診を根付かせるためには、やはり企業検診などに口腔がん検診を組み込むなど、今後も多くの努力と啓発を続けていくことが重要と考えています。

※次の記事「口腔感染症とは!口内に常在菌がいても感染ではない?

鶴見大学 歯学部 口腔内科学講座
里村一人教授監修
経歴・プロフィール

昭和63年3月:徳島大学歯学部卒業
昭和63年4月:徳島大学大学院歯学研究科(口腔外科学第一講座)入学
平成4年3月:徳島大学大学院歯学研究科修了 学位取得【博士(歯学)】
平成4年4月:徳島大学助手歯学部(口腔外科学第一講座)
平成7年1月:米国国立衛生研究所 (NIH, National Institute of Dental and Craniofacial Research) Visiting Fellow (長期出張)
平成13年7月:徳島大学講師歯学部附属病院(第一口腔外科)
平成15年10月:徳島大学講師医学部・歯学部附属病院(歯科口腔外科)
平成17年1月:徳島大学准教授大学院ヘルスバイオサイエンス研究部(口腔顎顔面外科学分野)
平成21年4月:鶴見大学歯学部教授(口腔内科学講座)
平成28年4月:鶴見大学歯学部長(併任) ※平成31年3月まで
平成31年4月:鶴見大学副学長(併任)
現在に至る

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執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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