前回は、鶴見大学歯学部附属病院 口腔機能診療科准教授 中川洋一(なかがわよういち)先生にドライマウスの原因や受診すべき診療科などを解説していただきました。
今回は、夜中の口の乾き対策や、ドライマウスと口臭の関係、ドライマウスの人が気をつけるべき食習慣などを詳しくお伺いします。
前回までの記事:
【専門家に聞く】ドライマウスの原因は?何科で見てもらう?併発する病気なども詳しく解説
中川洋一先生に【夜の口の乾き対策】について聞いてみた!
Q.1 夜に口が乾いて目が覚める!これってドライマウス?
夜の乾燥の理由は「唾液の蒸発」によるものです。そもそも夜は、唾液の分泌量は減ります。
例えば、歯ぎしりをする人で、あごが疲れて口が開いた時間が長くなってしまうとか、いびきや、睡眠時無呼吸状態で口呼吸になるせいで唾液が蒸発してしまいます。
睡眠時無呼吸症候群などの傾向があるかどうかは内科の方で調べてもらわないといけないですね。
必ずしも病的なことだけではなくても、生理的なことで口が開いた状態になれば、やはり口が乾燥します。それによって、目が覚めてしまって「口の乾きが原因じゃないかな」と心配になることもあると思います。
そういうときには病院を受診して、実際に病気がありそうかなさそうか、調べてみるのが大切だと思います。
高齢になってくると、おトイレが近くなり、夜に何度も起きてしまうということがあります。
目が覚めたときに口の中が乾いているということで、おトイレが近いので目が覚めてしまうのか?それとも、口が乾いているために目が覚めてしまうのか?わからない状態になることがあります。
ですので、お口のことも含めて、体のどこかに悪いところがないか調べることが大切だと思います。
Q.2 夜に口が乾かないようにするための対策は?
夜の口の乾きには、ぬれマスク(ぬれたガーゼを入れられるマスク)、口を開かなくするようなテープを貼る、部屋の加湿、というのが自分でできる対策です。
それでも改善しない場合は、医療機関で「マウスピース」を作るというのも手ですが、これは少し特殊な作り方になります。
歯ぎしり防止や顎(がく)関節の保護に用いられるマウスピースは、歯列を覆うようになっていますが、ドライマウス対策に用いるマウスピースは、口蓋(上あご)も一緒に覆うようになっていて、口蓋にたくさんある小唾液腺をカバーすることによって、唾液の蒸発を防ぎます。
唾液の蒸発を防ぐことによって口の乾燥感が和らぐということがわかっていますので、医療機関でできる対処方法としてはマウスピースに使用というのがあります。
中川洋一先生に【ドライマウスと口臭の関係】について聞いてみた!
Q.3 ドライマウスと口臭の相関性はある?
過去にそれを調べた人はたくさんいて「唾液の分泌が減るほど口臭が強くなる」というデータはあって、論文としてもたくさん出ています。
もちろん、それはそうなんですが、そもそもの口臭の原因というのは「口の中の汚れ」なんです。
プラークという歯の表面に付くばい菌のかたまりや、舌の表面につく舌苔(ぜったい)という上皮のはがれたものとか細菌で構成されているものですが、細菌がたんぱくを分解して出すのが口臭です。
ですから「唾液の分泌が少なくなると、口臭が強くなる」といえますが、そもそもの口臭の原因となるプラークや舌苔などの汚れを取っておけば、唾液の分泌が少なくなったとしても、強い口臭にはならないということがわかっています。なので、まずは口臭対策をするということが大切ですね。
「口臭対策のために唾液の分泌を促進させよう」という考え方はないので、口臭は口臭で対策をした方がいいでしょう。
中川洋一先生に【ドライマウスと食習慣の関係】について聞いてみた!
Q.4 ドライマウスのときに食べるといいもの・避けた方がいい食べものは?
ドライマウスになる原因の一つに、歯が悪くなったり、入れ歯が合わなくなったりして、食べものが食べにくくなって、やわらかいものばかりを食べてしまう、噛む回数が減るというということがあります。噛む回数が減ると唾液の分泌が減るということがわかっています。
「普通の硬さの食べものをよく噛んで食べること」。これがドライマウスの対処として重要になります。
逆に、避けた方がいいのは何かといったときに、辛いものがいけないとか、甘いものがいけないといった制限はありません。
口の中がドライマウスのために炎症になり、カンジダ症になってしまったとか、傷ついて口内炎ができてしまったという状態のときには、刺激ものは避けた方がいいでしょう。
「ドライマウスだからこれはいけませんよ」という制限は基本的にはありません。むしろ、何でも食べた方がいいでしょう。
Q.5 タバコやアルコールは唾液の分泌量を減らす原因になる?
タバコと唾液の関係は、実はまだあまりよくわかっていなくて、「タバコを吸うと唾液が減りますよ」というデータは出ていません。
アルコールについては、飲みすぎると脱水になりますので、唾液の分泌量が減ってしまうということはあります。
飲みすぎなければ特に問題はないんですけれども、飲みすぎると脱水になるということがあります。
Q.6 塩気の強いものの食べすぎは唾液の分泌量を減らす原因になる?
塩気の強い食べものは、唾液の分泌量を減らすということではなく「口乾(こうかつ)」といって、水を飲みたくなる感覚を起こします。
「乾燥」と「口乾」は微妙にニュアンスが違って、「水を飲みたくなる感覚」のことを「口乾」といいます。塩気の強いものは口乾を増しますので、あまり塩分を取りすぎるのはよくないです。
Q.7ドライマウスで鶴見大学付属病院を受診する人はどんな人が多いの?
年齢層はやはり60歳代以上の方(60歳代70歳代の方)が多いです。男女比でいうと、女性の方の方が多いです。
原因はもちろん多岐にわたりますが、シェーグレン症候群が全体の10%くらい、それ以外の方は唾液の分泌低下とは明言できない方がある程度いらっしゃいます。感覚が悪く、乾いた感覚はあるけれど、実際には唾液分泌はしっかりしているということもあります。唾液が蒸発している方、あるいは口の粘膜の感覚が過敏になってしまい、口が乾いた感覚があるという方ですね。
次に多いのが、日常生活でストレスがかかっているとか、メンタル的な負担がかかっている方がいらっしゃいます。
Q.8 ドライマウスにならないために気をつけるべきことは?
ドライマウスにならないようにするために、日ごろ気をつけなくてはいけないことは、ストレスをためないこと、普通の食事をしっかり噛んで食べることが大切だと思います。
まとめ
前回に引き続き、鶴見大学歯学部附属病院 中川先生にドライマウスについて解説していただきました。
ドライマウスの原因はさまざまで、自己免疫疾患や関節リウマチなど、お口以外の部分の病気や症状が起因となっていることも少なくないということがわかりました。
口の乾きが気になる方は、まずは歯科を受診して、ドライマウスに当てはまるのか、ほかに病気がないかなどを詳しく調べてもらってみましょう。
鶴見大学歯学部附属病院 口腔機能診療科 学内教授
【略歴】
鶴見大学歯学部歯学科 卒業
鶴見大学歯学部口腔外科学第二講座 助手
鶴見大学歯学部口腔外科学第二講座 講師
Department of Oral Biology, University of Florida
鶴見大学歯学部口腔内科学講座 講師
鶴見大学歯学部附属病院口腔機能診療科 准教授
現在に至る
執筆者:
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