【教授に聞く】入れ歯を作るのによく使われる材質は○○と同じ!?入れ歯の材質のメリット・デメリットについて解説

【教授に聞く】入れ歯を作るのによく使われる材質は○○と同じ!?入れ歯の材質のメリット・デメリットについて解説

前回に引き続き、松本歯科大学 歯科補綴学講座 教授 黒岩昭弘先生に入れ歯の材質の違いについてお伺いします。アクリル樹脂でできた入れ歯と他の材質で作られた入れ歯のメリット・デメリットなどの解説をしていただきました。

前回の記事【教授に聞く】大人の歯はどこから悪くなる?虫歯になりやすい歯と抜けてしまうしくみを解説!

この記事の目次

黒岩昭弘先生に【入れ歯の材質】について聞いてみた!

Q.1 入れ歯を作るのによく使われる材質とは?

入れ歯というのはアクリルの樹脂でできています。昔、ホテルに行くとキーの後ろに部屋番号が書かれている透明な棒がありましたが、あれがアクリル樹脂です。結構固いですよね。

指ではじくとカチカチ音が鳴るくらい固いものですけれども、どうしてこのような材質が使われているかというと、このアクリル樹脂というのは、(顕微鏡で)拡大して中の状態を見てみると網目状のものなんですね。そのため、もし入れ歯が二つに割れてしまったときでも、同じ材質を使ってつなげると容易にくっつけることができます。

顎は使っているうちに痩せてきてしまいます。そこに柔らかいアクリルの樹脂を塗って、お口の中に入れるとそのアクリル樹脂は固まります。この樹脂を使うメリットは、補修がしやすいということです。保険適用の入れ歯は、だいたいこのアクリル樹脂を使っています。

Q.2 アクリル樹脂の入れ歯のメリット・デメリットとは?

利点は修理しやすいという点です。一方、欠点はプラスティックのため厚みがあるという点と、もう一つは熱が伝わりにくいという点です。そのため、入れ歯を入れた方が最初に経験するのは、熱いお茶を飲んだ時に、それが口だとわからなくて、喉を越したときに「熱い!」と感じることです。

われわれは大きい入れ歯を入れていないのでわからないのですけれども、ビールでいう喉越しを感じる部分と一緒で、喉のあたりでやけどをしてしまいます。アクリルの入れ歯を入れることで、口の中の熱を遮断するためです。

Q.3 アクリル樹脂製入れ歯のデメリットを解消する金属が入った入れ歯とは?

実は、上顎にも味覚の細胞があります。入れ歯はそれをどうしてもふさいでしまいますので、少しの異物感プラス味がしないなという感じがします。

この入れ歯は、上顎の部分だけ金属で作られているものです。アクリル樹脂製のものに比べて何がいいかというと、上顎の部分が薄いので、フィット感がいいです。もう一つは金属ですから熱伝導率がいいです。熱伝導率がいいので、熱いものを食べても「熱いものを食べた!」という感じがします。

そして目覚ましいことが研究でわかったのですが、われわれがソフトクリームを食べる、冷ややっこを食べるというのは食感よりも冷たさを楽しんでいるんですよね。こういう清涼感は、プラスティックのアクリルの樹脂だとほとんどあきらめなければいけない、というのを何人もの患者さんがいっていました。ところが上側を金属にすると、前歯を通過したとたんに“つーっ”と口の中が冷える感覚があって、(患者さんは)良い感覚がよみがえったなと感じられます。金属の含まれる入れ歯のメリットとしては、薄い、異物感が少ない、熱が伝わる、というのがあります。

入れ歯をしなければもっと冷たさや温かさが伝わるのではないか?といったら、やはり歯が無いとアイスクリームでも食べた感じがしないというのです。いわゆる唇が変な感じとか、ベロ(舌)もどこにあるかわからない状態で、冷たさだけ感じようとしても、口がそれに対応できないという話があります。ですので、こういう金属製の入れ歯を選ぶ方は、そういう冷たさ、温かさを快適に感じるという点でいいです。

Q.4 金属が入った入れ歯のデメリットは?

金属が含まれた入れ歯にも欠点があります。

鉄の範囲がどうして上顎の一部だけになっているかというと、この裏側の溝の部分というのは、口の中が痩せてくるためにアクリル樹脂でおおっています。

このアクリル樹脂の部分は、調整が可能ですが、金属の部分は容易ではありません。口の中に当たっているところを削ることは容易ですが、隙間ができてしまった場合、今は金属用のいい接着剤があってそこを補修することはできますが、金属の上にアクリル樹脂をかぶせて補修してしまうと金属のメリットがなくなってしまうのです。

ですので、ちょっと金額はかかったとしても、感覚はよくしたいけれど、顎が減ったらどうしようという心配のある方の場合、この入れ歯の特徴は台無しになってしまうことも考えられます。顎の吸収(※)が大きい方はこのような金属が含まれる入れ歯を選ぶのはまだ早いかもしれません。

(※編集部注:顎の吸収(顎堤吸収)とは、歯が抜けた後に残った顎の骨と粘膜で形成されている、口の中の土手の部分が、溶解されて低く平らになっていくこと)

Q.5 入れ歯でも金属アレルギーは起こる?

金属の含まれる入れ歯には、もう1つ欠点があります。昨今耳にすることの多くなった「金属アレルギー」です。

金属アレルギーは、近年、急に流行しだしたというよりかは、今までもいろいろなところで出てきてはいたのですが、基本は皮膚科で対応していたんですね。皮膚科で「どうやらこの疾患は金属に対するアレルギーではないか」ということがわかってきたのです。今では歯科の方にも金属アレルギーの問い合わせがくることがあります。

Q.6 入れ歯で金属アレルギーが起きるしくみとは?

金属アレルギーはなぜ起こるかについてですが、実は、金属はアレルゲン、いわゆるアレルギーの元というわけではありません。金属が口の中で溶けて、それが体の中のタンパク質と融合して、初めてアレルゲンになります。ということは、なるべく金属が口の中で溶けないような素材を使わないといけないのです。

ただ、残念ながら金属はさびますし、異種の金属が口の中にある場合もあります。また金属の入れ歯を入れて、耳にピアスをする方もいるかもしれませんが、いわゆる、体の違う箇所に違う種類の金属がある場合もあります。ジーパンのボタンの裏側にはボタンがついていますが、そういうところについた汗と口の中の唾液と金属が反応して電池になると、金属が口の中で溶けだします。最初のうちは何ともないのですが、だんだん蓄積していくうちに金属アレルギーになる可能性があります。

Q.7 自分に合う入れ歯の素材の選び方は?

金属アレルギーは反応があるかどうか、それは入れてみないとわからないですね。というのも、人類は金属をしゃぶってきたわけではないので、今われわれが金属の含まれた入れ歯を作るなどしながら、この金属はどうかなというのを試している段階です。

現段階で、用いられることが多いチタン。これは比較的リスクが低いとはいわれていますが、それでも金属ですから体に溶けだすこともあります。やはり金属を口に入れるとき、入れ歯の場合はすでに歯が無いですから、金属が含まれるものをアクリル樹脂製のもの、どちらを選ぶかはいろいろ相談していただかないといけません。

金属を使わない治療っていうのも一つですし、デメリット・メリットをよく考えてどの素材にするのかを考えて、うまく使いこなして、より快適なものが選べれば生活の質がもっと上がっていくかと思います。

まとめ

今回は黒岩先生に、アクリル樹脂でできた入れ歯と、金属が入った入れ歯のそれぞれのメリット・デメリットについて詳しくお伺いしました。次回は黒岩先生に歯が抜けてしまったときの治療方法としてどのような種類があるかについてお伺いします。

松本歯科大学 歯学部 歯科補綴学講座
黒岩昭弘教授監修
経歴・プロフィール

松本歯科大学 歯科補綴学講座 教授

【略歴】
2010年 松本歯科大学 歯科補綴学講座 教授
2015年 明海大学 客員教授
2016年 松本歯科大学 歯科理工学講座 教授
2017年 松本歯科大学 硬組織疾患制御再建学講座 教授
2018年 松本歯科大学 歯科補綴学講座 主任教授

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執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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