【教授に聞く】大人の歯はどこから悪くなる?虫歯になりやすい歯と抜けてしまうしくみを解説!

【教授に聞く】大人の歯はどこから悪くなる?虫歯になりやすい歯と抜けてしまうしくみを解説!

補綴(ほてつ)という言葉を耳にすることは少ないかもしれませんが、入れ歯・差し歯・インプラントという言葉は歯科治療の場でよく耳にするワードですね。今回は 松本歯科大学 歯科補綴学講座 教授 黒岩昭弘先生に、補綴(ほてつ)治療の原因である歯が抜けてしまう理由や、歯を健康に保つための予防方法について詳しくお伺いしました。

この記事の目次

黒岩昭弘先生に【歯が喪失するしくみ】について聞いてみた!

Q.1 大人になるとどの歯から抜ける?歯が抜けてしまうしくみとは?

皆さんは、年をとったとき、たくさん歯がある中でどの歯から抜けていくかはご存じですか?

6歳臼歯という、6歳ころに新たに生える第一大臼歯があるのですが、そのくらいの年齢だと、この辺りってあまり歯磨きできませんよね。6歳臼歯の後ろにある臼歯は、12歳ころに生えてきますが、12歳くらいになってくると、だんだん自分で歯も磨かないといけないですよね。こちらの方が抜けないんじゃないか思うかもしれませんが、実は12歳で生えてくる奥歯の方が早く抜けてしまうんです。

なぜかというと、こんな実験があるんです。ワンちゃんの歯に糸を巻きます。そうすると、その糸の周りにいっぱい食べ物のカスが付き、歯茎に歯肉炎が起きます。ただ、歯が弱るのは歯肉炎だけが原因ではないのです。

もう1匹のワンちゃんには歯にプラスチックを張ります。そうすると、口の中で歯が強く当たるんですね。犬の歯も人間の歯も同様なのですが、顎の骨の中には靭帯(じんたい)があります。アキレス腱のように薄いのですが、その靭帯は歯が高くなったところでは炎症が起きるんです。

糸を巻いて高さを上げた歯は、汚れが付き、歯肉炎になるため急に周りの歯槽骨(しそうこつ)が溶けるんです。その考えからすると、一番奥にある12歳臼歯というのは、汚れやすくて、なおかつ磨きにくい。汚れた状況で、なおかつ噛む力によって負担がかかるので、とても抜けやすいんですね。

そのため、この奥歯の辺りの歯をちゃんと磨かないと、歯が抜けてしまうということになってきてしまいます。

患者さんには、歯ブラシ指導をする際に右利きか左利きかということを聞きます。右利きの方は、左側の歯だけきれいに磨けていることが多いです。なので、右利きの人には、磨きづらい右側から磨きなさいと指導をします。そうすると歯磨きがうまくできます。このような傾向からも「奥の歯から失っていく」と感じます。

Q.2 下の歯が抜けると上の歯はどうなる?上下の歯の関係性とは?

下の歯が失われると今度は上の歯が失われる傾向にあります。「下の歯が無くなって、そんなに上の歯は使われないのに、なぜ上の歯が失われるのか?」というと、噛まない歯は汚れるためです。

基本は、食べ物が流れることによって歯ブラシをしていなくても、ある程度自然に歯が磨かれます。よく噛むことが歯をよくするというよりは、噛むことで歯の周りがきれいになるのです。そのため、下の歯が無くなれば、(噛み合わせる歯がないために)上の歯が汚れやすくなります。

6歳臼歯辺りが抜けていくと、今度は噛み合わせの力がどんどん前に移り、噛む力が前の方に寄っていきます。そうなった場合、上の歯と下の歯、どちらの方が長持ちするでしょうか。

人間の噛み合わせというのは、下顎が上顎を突き上げるようなシステムになっています。人間の噛み合わせは、どうしても下顎が突き上げます。下顎の歯の方が小さく、上の歯の方が大きいのに、下から突き上げられますから(負荷がかかって)どうしても上の歯の方が抜けやすくなります。上の歯の方が抜けやすい要因のもう一つは頭蓋骨にあります。頭蓋骨というのは外力に関して弱くないと、たたかれたときに割れてしまうため、上顎の骨は弱いという特性があります。

人間の歯の抜け方としては、まずは下の歯の奥から始まり、犬歯の方まで到達し、次は上の奥歯、その次は上の歯の前側が抜け、下の歯の前側部分が最後に残るという傾向にあります。ですので、お年寄りの方を見ると上側は総入れ歯で、下の方は前側の糸切り歯(犬歯)までは残っているというようなことがあるかと思いますが、このような原理で歯が抜けているということが考えられます。

Q.3 高齢化社会を迎える私たちが考えなければならない歯との付き合い方とは?

(歯科治療の)現状としては、「8020運動(※)」もだいぶ進み、52%くらいの達成率となってきました。私たち歯科医師としては、今度は「9020」「10020」までできるかは分かりませんが、体の方のシステムが個人差をもって老化が進む中で、いかに口の中を清潔に保つか、ということを考えていかなければならないと思います。

年をとり、手が麻痺してしまって歯磨きが難しくなったときに歯がいっぱいあったらどうしますか?歯がいっぱいあったら邪魔だから歯を抜いちゃおう、という歯医者さんは少ないですよね。

この先10年くらいで私たちが迎える時代というのは、高齢者で歯がいっぱい残っていてよく噛める方もいらっしゃいますが、急にあるところで歯周病が増え、歯を抜かなければいけなくなることもあるかもしれません。全身疾患がいろいろあるときは、(体全体のことを)総合して考えていかなければいけないです。

※編集部注: 8020(ハチ・マル・二イ・マル)運動」は、「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という運動であり、1989年に厚生省(当時)と日本歯科医師会の提唱にて開始

Q.4 老後も健康な歯でいるためにこれからできる虫歯予防法は?

虫歯予防のためにぜひやっていただきたいことがあります。これは私が患者さんにいつもお願いしていることです。

夜に食事をされて歯を磨かれる方も多いと思いますが、寝る直前までのあいだに例えば2時間とか3時間とか時間がたちますよね。その間に体の活動量も落ちてきますし、(寝る直前は)食べ物や飲み物を口にしないため、お口の中の細菌数がぐんと上がるんですね。寝ているときはどうなのかというと、細菌数はもっと上がります。なので、寝る前直前にうがいをして寝ていただくといいかなと思います。

そのときのうがい薬は殺菌成分が入っているものがいいと思います。それを使ってうがいをしていただいて、朝起きたときにも、最初にうがいをする。それで自分のお口の中にたまったものを全部吐き出していただく。そうすると、お口の中にたまった細菌を飲み込まなくて済みます。そういう習慣がつきますと、肺炎予防にもインフルエンザの予防にもなると思いますので、ぜひ行っていただければいいと思います。

それが行き過ぎて「何か口の中に異常が起きるんじゃないですか?」という質問をされる方もいらっしゃいます。例えば味覚が変わったり、お口の中がひりひりしたりといったことがありましたら、少しうがい薬を使用することは避けていただければ結構です。薬の濃度を変えたりしながらぜひ習慣化して、寝る前、そして起床直後にうがいすること、肺炎予防としてもいいので、行っていただけたらと思います。

まとめ

今回は、黒岩先生に歯が抜けてしまう理由や、歯を健康に保つための予防方法についてお聞きしました。
次回は引き続き黒岩先生に入れ歯でよく使われる材質の特徴についてお伺いいたします。

松本歯科大学 歯学部 歯科補綴学講座
黒岩昭弘教授監修
経歴・プロフィール

松本歯科大学 歯科補綴学講座 教授

【略歴】
2010年 松本歯科大学 歯科補綴学講座 教授
2015年 明海大学 客員教授
2016年 松本歯科大学 歯科理工学講座 教授
2017年 松本歯科大学 硬組織疾患制御再建学講座 教授
2018年 松本歯科大学 歯科補綴学講座 主任教授

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執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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