歯が痛くなる原因の筆頭は、もちろん虫歯です。しかし、歯が痛む原因は虫歯だけではありません。「冷たい飲み物」「甘いお菓子」が歯にしみる症状である知覚過敏もまた、強い痛みを伴うことがあります。
こちらの記事では「虫歯と知覚過敏がどのように異なるか」を解説し、それぞれの治療法の違いにも言及しています。
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この記事の目次
1.虫歯と知覚過敏~それぞれの原因
虫歯と知覚過敏は「歯が痛む」という共通点を有するものの「痛みが生じるまでのメカニズム」が異なります。まずは、虫歯と知覚過敏それぞれの原因を解説したいと思います。
1-1 虫歯の原因は「虫歯菌が産生する酸」
虫歯の原因が虫歯菌であることは、広く知られています。もっと厳密に説明するなら、乳酸菌の一種である「ストレプトコッカス・ミュータンス菌」です。
ミュータンス菌は「糖質を乳酸に変える働き」を持っています。食事の際に摂取した糖質を乳酸に変えることで、口腔内を酸性に変えていくのです。ちなみに、炭水化物は唾液中の消化酵素―アミラーゼによって麦芽糖(マルトース)に変わりますから、「炭水化物=糖質」と捉えてください。砂糖を食べなくても、虫歯になることはあります。
さて、歯の表面にある「エナメル質」は酸に弱く、「pH5.5以下」の酸性環境で溶けはじめます。ミュータンス菌が乳酸を産生することで「pH5.5以下の酸性」が長く保たれると、歯が溶けていくわけです。こうして、エナメル質に穴があくと虫歯になります。
いったん、エナメル質が突破されてしまえば、虫歯は進行の一途をたどります。象牙質は「pH6.0~6.2」という弱い酸性環境でも溶けるからです。象牙質まで達した虫歯を「C2:象牙質齲蝕」と呼びます。
「C2」の虫歯は「甘いもの・冷たいものがしみる状態」で、まだ自発痛(何もしなくてもズキズキ痛むこと)はありません。これが歯髄(神経)まで到達すると、「C3:歯髄の仮性露出」となり自発痛が生じてきます。このように、虫歯は進行していくのです。
1-2 知覚過敏の原因は「虫歯以外の要因による象牙質露出」
知覚過敏は「象牙質が露出すること」で痛みが生じます。虫歯以外の要因で象牙質が露出し、結果として痛みが生じれば知覚過敏と呼ばれることになります。それでは、「象牙質が露出する虫歯以外の要因」をまとめることにしましょう。
歯ぎしり
歯を強く食いしばったり、擦りあわせたりすると、表面のエナメル質が摩耗します。エナメル質がなくなるほど摩耗すれば、当然、象牙質が表面に出てきます。
オーバーブラッシング
毎日の歯みがきは大切ですが、硬い歯ブラシでゴシゴシ磨くような方法はおすすめできません。あまりに強い力で歯を磨くと、歯の表面が削れてしまうからです。こういった磨き方のことを指して「オーバーブラッシング」と呼んでいます。
歯茎の後退
歯周病などの要因で歯茎が痩せると、歯の根元が露出してしまいます。歯根付近はエナメル質が存在せず、代わりに「セメント質」という層が表面を覆っています。歯茎が下がってくると、「歯根付近のセメント質に覆われた部分」が表に出てきます。セメント質はエナメル質ほど硬くありません。むき出しになったセメント質が削れて、象牙質が露出するのは時間の問題です。
酸蝕歯(さんしょくし)
虫歯の項目で先述したとおり、エナメル質は「pH5.5以下の酸性」で溶けはじめます。虫歯菌が産生した酸で溶ければ虫歯ですが、虫歯菌が介在しなくても「pH5.5以下の酸性」が維持されるケースがあります。「酸性の飲食物を頻繁に摂取した場合」「頻繁に嘔吐した場合」などです。
食習慣・嘔吐などの原因で口腔内が酸性化したケースでも、歯が溶けることはあります。このような要因で歯が溶けることを「酸蝕歯」と呼んでいます。酸蝕歯になってエナメル質が溶けてしまえば、やはり知覚過敏の症状が出ます。
2.虫歯と知覚過敏~それぞれの治療法
虫歯と知覚過敏は治療法も異なります。この章では、虫歯と知覚過敏それぞれに対しておこなわれる歯科治療を確認することにしましょう。
2-1 虫歯の治療は「虫歯の除去」
虫歯治療は「虫歯になった部分を取りのぞいて、詰め物・かぶせ物で補修する」という方向性になります。ただ、虫歯の重症度によって治療法が変わる部分もありますから、わかりやすく解説したいと思います。
C1:エナメル質齲蝕
エナメル質に穴があいた段階なら、治療はシンプルです。虫歯になった箇所を削り、「コンポジットレジン」と呼ばれる樹脂を詰めます。コンポジットレジンは白色なので、見た目にも自然に治ります。基本的に、治療は1回で終わります。
C2:象牙質齲蝕
象牙質に穴があくと、「甘いもの・冷たいもの」がしみるようになります。やはり、虫歯になった箇所を削って詰め物を入れます。虫歯の部位・大きさによって、コンポジットレジンまたは銀歯を詰めます。自由診療なら、銀歯の代わりにセラミック製の白い詰め物を入れることも可能です。
C3:歯髄の仮性露出
虫歯が歯髄(神経)まで到達すると、「歯の内部を無菌化する治療(根管治療)」が必要になります。細い針状の器具で内部の虫歯を除去し、再感染を防ぐための薬剤を詰めます。虫歯の大きさによって、詰め物・かぶせ物のいずれかを入れます。
C4:残根
神経が死んでしまい、歯冠(歯の本体)がほとんど失われた状態を指します。神経が死んだばかりなら歯を救えることもありますが、長く放置されていた虫歯はたいてい抜歯になります。
2-2 知覚過敏の治療は「鈍麻・凝固・封鎖」
象牙質が露出すると、なぜ「冷たいもの・甘いもの」がしみるのでしょうか? これは、象牙質の構造に起因しています。象牙質には、表面から歯髄(神経)につながる「無数の細い管」が存在します。この管を象牙質細管と呼びます。
象牙質細管の中には、組織液という液体が入っています。そして、温度変化・浸透圧変化が生じると、組織液が移動します。この「組織液の移動」により、歯の内部にある神経が刺激されて痛みが生じるのです。これが知覚過敏のメカニズムです。
つまり、次の3つの方法で知覚過敏の痛みを抑えることが可能になります。
・鈍麻…組織液の移動による刺激を感じにくくする
・封鎖…象牙質細管に封をして、刺激が組織液に伝わらないようにする
・凝固…組織液を固めて、動かないようにする
これだけではピンとこないでしょうから、それぞれの治療方針をわかりやすく説明することにしましょう。
「鈍麻」による知覚過敏治療
「組織液が移動した刺激」が歯髄に伝わらなければ、痛みを感じなくなるはずです。それなら、「刺激が伝わるのを妨害する物質」を用いることで、痛みを抑えることが可能になります。刺激を伝わりにくくする物質には、たとえば「硝酸カリウム」があります。実際、市販の「知覚過敏向け歯磨き粉」などには硝酸カリウムが配合されています。
「封鎖」による知覚過敏治療
象牙質細管に蓋をすれば、温度変化・浸透圧変化が組織液に伝わりません。結果、組織液は動かず、神経が刺激されることもないわけです。象牙質細管に蓋をする物質としては「シュウ酸カルシウム」「フッ化物」などが知られています。多くの歯科医院で、これらの成分を利用した知覚過敏治療を受けることができます。
「凝固」による知覚過敏治療
組織液を固めてしまえば、「組織液の移動が神経を刺激する」というメカニズムは成立しません。つまり、「組織液を固める物質」を使えば、知覚過敏の痛みを抑えることができます。組織液を固める物質としては「グルタルアルデヒド」が知られています。歯科医院によっては、「5%グルタルアルデヒド製剤(知覚過敏抑制剤)」を用いた知覚過敏治療をおこなっています。
例外的な治療法
酸蝕歯で歯が大きく溶けている場合をはじめ、歯の損傷が大きいケースでは「虫歯治療と同じ手法」を採ることもあります。要するに、「詰め物・かぶせ物で欠損部分を補修する治療法」です。
また、ほかの処置を施しても痛みが緩和されず、食事にさえ不自由するようなケースでは「抜髄(神経の抜去)」をおこなう例もあります。
3.まとめ
虫歯と知覚過敏には、原因・治療法とも異なる部分が数多く存在しています。とはいえ、「自然治癒が期待できず、治療するには歯科医院を受診するしかない」という部分は共通しています。「甘いもの・冷たいものが触れたときに痛む…」という場合は、歯医者さんを受診するようにしてください。
もともと唾液には象牙細管をふさぐ機能があります。よく歯医者さんと相談して治療してください。
電話:03-3601-7051
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