顎関節症の治し方!原因別のセルフケア法・治療法を徹底解説

顎関節症の治し方!原因別のセルフケア法・治療法を徹底解説

口を開けるときに、「顎が痛む」「顎から雑音がする」などの症状はありませんか? もし、顎の関節に違和感があるなら、顎関節症かもしれません。悪化すると「口を大きく開けることができない…」などの問題に発展する恐れもありますから、早めに診断・治療を受けたほうが良いでしょう。

こちらの記事では、「顎関節症の基本的な治し方」を解説しています。「自宅でのセルフケア」から「医療機関での治療」まで、顎関節症の治し方を全般的に紹介したいと思います。ぜひ、参考にしてみてください。

この記事の目次

1.軽い顎関節症の治し方!原因別のケア方法を解説

軽度の顎関節症を治療するにあたっては、「患者さん自身による生活改善」が主軸になります。医療機関を受診したときも、医療機関での治療に加え、「セルフケアによる自己管理」を指導されるはずです。

◆軽度の顎関節症→医療機関の指導・助言を受けた上で、自己管理が主体
◆中等度の顎関節症→医療機関での治療に加えて、補助的に自己管理

基本的には上に示したように、何らかの形でセルフケアをおこなうのが基本的です。そこで、まずは「原因別の主なセルフケア方法」を紹介したいと思います。

1-1 開口訓練療法

顎関節症にはいくつかの原因が存在しており、そのうちの1つに「3型顎関節症(関節円板障害)」と呼ばれる病態があります。これは「顎関節をスムーズに動かすためのクッション材(関節円板)」の位置がずれて、顎関節がうまく動かなくなった状態です。

3型顎関節症のうち、「症状が中等度までで、開口障害(口が開かない・開きにくい)を訴えている症例」に関しては「手で口を開くストレッチ」が有用とされています。患者さん自身の手指で口を開き、顎関節を慣らすわけです。

強い痛みが出る場合は中止するべきですが、若干の痛みであれば、鎮痛剤を用いて開口訓練を実施しても構いません。ただ、正しい方法でおこなわないと逆にトラブルを起こす恐れがありますので、歯科医師の指示に従って実施してください。

1-2 咀嚼筋のマッサージ

顎関節症の中には「1型顎関節症(咀嚼筋障害)」という種類が存在します。これは顎を動かす筋肉(咀嚼筋)に痛み・コリが出る病態です。痛みの要因になりやすいのは、口を閉じるときに働く4つの筋肉のうち2つ(咬筋・側頭筋)です。

1型顎関節症に対しては、「緊張状態にある咬筋・側頭筋をマッサージして、筋肉のコリを緩和する」というセルフケア方法があります。ただし、あまり強く揉んだり、方法を間違えたりすると逆効果になるかもしれません。きちんと歯科医師に相談し、指導を受けた上で実施してください。

1-3 認知行動療法

顎関節に負担をかける悪習慣に「TCH(歯列接触癖)」というものがあります。上下の歯が接触するのは、1日20分未満が適正です。何事もないとき、上下の歯には2~3mmの隙間(安静時空隙)があり、「ふだんから歯が触れあっている状態」は異常なのです。しかし、中には「上下の歯がたびたび接触している人」がいて、この「上下の歯が頻繁に接触する悪習慣」のことをTCHと呼んでいます。

TCHは歯・顎など口腔全体に負担をかけ、「歯の摩耗」「顎関節症」などを招く要因になります。「顎関節症で、なおかつTCHがある」という場合、TCHを改善することで顎関節症が落ち着く可能性もあるでしょう。

こういった症例では、「患者さん自身が、上下の歯をしっかり離す習慣をつけること」が大切です。室内に「歯を離す」と書いたメモを貼るなど、ふとした拍子に「上下の歯を離さなければ…」と気づける環境を用意しましょう。こうした方法をリマインダー法と呼んでおり、広い意味では認知行動療法の一環になります。

2.医療機関で治療を!顎関節症の基本的な治し方

自己管理も大切ですが、やはり、医療機関で治療をおこなったほうが改善率は高くなります。また、「なかなか改善しない顎関節症」「口を開くことができない症例」に関しては、抜本的治療を検討する必要があります。

◆難治性の顎関節症→保存療法を主軸に、医療機関で治療
◆重度の顎関節症→口が開けられないようなら、外科的治療も検討

セルフケアでの改善が見込めない症例では、歯科口腔外科での治療が必要になります。後戻りのできる治療(保存療法・可逆的治療)が第一選択となりますが、ほかに改善策がない場合は外科的治療(非可逆的治療)も選択肢に含めることがあります。

2-1 保存療法①~スプリント療法

広く知られている保存療法としては、スプリント療法が存在します。一言で説明するならば、スプリントとは「顎関節への負担を抑え、痛みなどの自覚症状を軽減するためのマウスピース」です。

もう少し細かく説明するには、スプリントの種類に言及する必要があります。ここでは「スラブライゼーションスプリント」と「リポジショニングスプリント」の2種類を紹介したいと思います。

スタビライゼーションスプリント

上下の歯全体に「均等に力がかかる状態」を目的として、上下どちらかの咬合面全体を覆うマウスピースです。全体に均等な力がかかっていれば、下顎に無理な圧力が加わらず、安静な状態を維持できます。

さて、「スタビライゼーションスプリントが、どの種類の顎関節症に向いているか」に関しては、歯科医院・学会によっても判断がわかれます。

実際、日本顎関節学会は(同学会が発行している初期治療診療ガイドラインを参照する限りでは)「1型顎関節症(咀嚼筋障害)」だけに作用が認められると判断しているようです。一方、日本補綴(ほてつ)歯科学会は「心因性を除く、すべての顎関節症」に一定の作用がある…と見なしています。

参照URL①:http://www.kokuhoken.or.jp/exterior/jstmj/file/guideline_TMJ_patient.pdf
参照URL②:http://hotetsu.com/s4_03_001.html

リポジショニングスプリント

「下顎の位置」「関節円板の位置」を補正するためのスプリントです。日本補綴歯科学会は「3型顎関節症(関節円板障害)」に対して有用性を認めており、多くの歯科医院・歯科口腔外科がリポジショニングスプリントを使用しています。

一方、「調整・使い方を誤るとむしろ悪化する」「関節円板障害に対するスプリントの有用性は限定的」といった反論も存在しており、中には「関節円板症に対して、スプリントはほとんど意味がない」と考えている歯科医師もいるようです。

以上から、リポジショニングスプリント治療を受けるにあたっては、担当歯科医師の説明をよく聞き、納得の上で受けるようにしてください。最終的には、患者さん自身の選択になります。

2-2 保存療法②~薬物療法

顎関節症の痛みを緩和するにあたっては、薬物の処方がおこなわれます。顎関節症の薬物療法に用いられるのは「非ステロイド性の消炎鎮痛剤」です。ただ、あくまで痛みを緩和するための対症療法であり、根治を目指す治療ではありません。

顎関節症を適応症とする消炎鎮痛剤には、「アンフェナクナトリウム(商品名:フェナゾックス)」「インドメタシン(商品名:インダシン)」があります。ただ、いずれも消化器に症状の出る副作用を持っているので、「顎関節症に適応可能で、消化器症状をきたさない消炎鎮痛剤」が望まれています。

2-3 保存療法③~理学療法

理学療法というのは、「身体の動作能力を改善させるための運動療法・物理療法・動作訓練」を総称する言葉です。顎関節の動作を改善させる方法としては、「電気療法」「温熱療法」などが知られています。ただ、いずれも「筋肉の緊張を解く作用機序」なので、広く有用性が認められているのは「1型顎関節症(咀嚼筋障害)」のみです。

電気療法

顎関節症に対する電気療法としては、「マイオモニター」「TENS」が知られています。マイオモニターは、「11~12Vのパルス波電流」を0.005秒間、発生する装置です。筋肉の緊張を解いて、咀嚼筋の痛み・コリを緩和します。

TENS(経皮的末梢神経電気刺激)は、「痛みのある部位の表面に電極を配置し、末梢神経への電気刺激で鎮痛を図る方法」です。

温熱療法

温熱療法は、患部を温めることで痛みを緩和する治療です。患部に「75~80℃に加温したシリカゲル素材」を当てる「ホットパック」のほか、「顎関節に炭酸ガスレーザーを照射する方法」も知られています。

2-4 外科的療法①~顎関節腔内洗浄療法

関節は「骨と骨の結合部」です。結合にある「骨と骨の隙間」を「関節腔」と呼んでいます。顎関節症のうち「3型顎関節症(関節円板障害)」「4型顎関節症(変形性顎関節症)」においては、関節腔内に浮遊物・炎症性物質・発痛物質などが滞留しているのが普通です。

そこで、関節腔の浮遊物・炎症性物質・発痛物質を除去するため、関節腔内を洗浄する治療法が存在します。局所麻酔をして、注射針2本の穿刺をおこない、一方から生理食塩水(リンゲル液)を注入、もう一方から排出することで洗浄が可能です。

関節腔洗浄療法で痛みが緩和する症例が多いのは事実ですが、一方で「本当に関節腔の洗浄によって痛みが低減したのかどうか、検討を要する」という視点も存在します。関節腔洗浄療法の報告では、洗浄後、「ステロイド剤(消炎鎮痛剤)」または「ヒアルロン酸ナトリウム製剤」の注入をおこなっているからです。現状では、「痛みの緩和は、主にステロイド剤・ヒアルロン酸の作用である」という見方も可能でしょう。今後より詳細な検証が望まれます。

参照URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/gakukansetsu1989/7/2/7_2_328/_pdf

2-5 外科的療法②~パンピングマニピュレーション

関節腔洗浄をおこなった後、シリンジ(手動注射器)を使って関節腔内に圧力をかけ、関節円板の位置を動かす治療法です。「3型顎関節症(関節円板障害)」の原因は「関節円板の位置がもとより前方にずれたこと」にあります。そこで、シリンジ操作による圧力で、正しい位置に戻してあげるわけです。

当然ながら、パンピングマニュピレーションは、「3型顎関節症(関節円板障害)」だけに功を奏する治療法です。

2-6 外科的療法③~外科手術

ほかの方法で問題が解消できなければ、最後の手段として外科手術を検討します。外科手術の適応があり得るのは、「3型顎関節症(関節円板障害)」と「4型顎関節症(変形性顎関節症)」です。

多くは、顎関節に関節鏡(内視鏡)を入れ、関節円板の位置・形状を修正する「内視鏡下手術」になります。ただ、骨自体に手を加える手術をする場合は、メスで切開する「開放手術」となります。内視鏡・開放のいずれにおいても、顎関節の外科手術は全身麻酔下でおこなわれます。

2-7 推奨されない治療法~咬合調整

最近は減りましたが、「歯を削り、噛み合わせを調整することで顎関節の負担を軽減する」という治療法(咬合調整)が存在します。2008年に改訂された日本顎関節学会のクリニカルクエスチョン(初期治療診療ガイドライン)において、「顎関節症の治療を目的として咬合調整はおこなわないことを推奨する」となっています。

ただし、歯科治療の後に顎関節症を発症し、「原因が歯科治療にある」と考えられる場合は、咬合調整が必要になることもあります。たとえば、「詰め物・かぶせ物の高さが合わず、顎関節に負担がかかっている状態」なら、詰め物・かぶせ物を削り、咬合調整をする意義は十分でしょう。

参照URL:http://www.kokuhoken.or.jp/exterior/jstmj/file/guideline_TMJ_patient_3.pdf

3.まとめ

顎関節症にはさまざまな種類があり、原因ごとに治し方も変わってきます。「顎が痛い」「顎から変な音がする」などの自覚症状に気づいたら、まずは歯科医院・歯科口腔外科を受診しましょう。その上で、原因・重症度に合わせた「正しい治し方」を選択することが、改善への第一歩になります。

初診は歯科医院・歯科口腔外科のいずれでも構いませんが、「町の歯医者さん」には顎関節症に対応していないところも多いです。念のため、事前に「顎関節症の診療をしているかどうか」を問い合わせたほうが賢明でしょう。

 

先生からのコメント

近年では、顎関節内へのヒアルロン酸や咀嚼筋群へのボツリヌストキシンの応用が効果的になってきております。

執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。

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