歯肉癌の分類・治療法を解説!初期症状を見つけたら医療機関へ

日本人の死亡率第1位は、悪性新生物(=癌)です。2015年は、死亡者の28.7%が癌により死亡しました。癌は全身どこにでも発生しますから、当然、口の中にできる場合もあります。口腔内の癌を総称して、「口腔癌」と呼んでいます。

こちらの記事では、「口腔癌の中でも歯茎にできるもの=歯肉癌」について解説することにしました。歯肉癌の「一般的な治療法」「初期症状」などをまとめています。

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この記事の目次

1.歯肉癌の分類

歯肉癌を分類する上では、いくつかの基準が存在します。この章では、「腫瘍ができる部位」「癌の進行度(ステージ)」による分類を解説することにしましょう。部位・ステージにより、一般的に選択される治療法も変わってきます。

1-1 部位による歯肉癌の分類

歯肉癌は「歯茎にできる癌」ですが、「上顎(うわあご)と下顎(したあご)のどちらなのか」で分類されます。上顎のほうが発生頻度は低いものの、予後(治療後の見通し)がやや悪く、外科手術の影響も大きくなります。

上顎歯肉癌(じょうがくしにくがん)

骨に浸潤しやすく、進行すると鼻腔・頬粘膜などにも進展します。下顎歯肉癌と比べれば、「頸部リンパ節(首のリンパ節)」に転移する確率は低くなっています。

下顎歯肉癌(かがくしにくがん)

早い段階で骨に浸潤し、骨を破壊する傾向があります。上顎より発生頻度が高く、特に下顎の臼歯部(奥歯の歯茎)が好発部位です。

1-2 進行度による歯肉癌の分類

癌の進行度を考える上では「TNM分類」が役立ちます。Tは「Tumor(腫瘍)」、Nは「Lymph Node(リンパ節)」、Mは「Metastasis(転移)」の頭文字です。それぞれ、「腫瘍の状況」「リンパ節への転移」「遠隔転移」を意味します。

T:腫瘍の状況

腫瘍の状況によって、T0~T4に分類されます。

・T0…腫瘍が認められない
・Tis…腫瘍が上皮内(表面付近)にとどまっている
・T1…腫瘍が2cm以下
・T2…腫瘍が2cmを超え、4cm以下
・T3…腫瘍が4cmを超える
・T4a…腫瘍が「口腔周囲の粘膜」・上顎洞などに拡大
・T4b…腫瘍が「喉の奥」・頭部にまで拡大

N:リンパ節への転移

所属リンパ節への転移状況によって、N0~N3に分類されます。

・N0…所属リンパ節への転移がない
・N1…腫瘍と同じ側の所属リンパ節に転移(1か所で3cm以下)
・N2a…腫瘍と同じ側の所属リンパ節に転移(1か所で3cmを超えて6cm以下)
・N2b…腫瘍と同じ側の所属リンパ節に転移(複数で6cm以下)
・N2c…腫瘍と反対側または両側の所属リンパ節に転移(6cm以下)
・N3…所属リンパ節に転移しており、6cmを超えている

M:遠隔転移の有無

遠隔転移の有無によって、M0~M1に分類されます。

・M0…遠隔転移が認められない
・M1…ほかの臓器に遠隔転移している

ステージの分類

癌のステージは、TNM分類により、以下のように分類されます。「遠隔転移がある(M1)」場合はほかの数字に関係なく「ステージⅣc」となりますので、特に記載のない場合は「遠隔転移がない(M0)」であることを意味します。

Tis・N0→ステージ0
T1・N0→ステージⅠ
T2・N0→ステージⅡ
T3・N0→ステージⅢ
T1~3・N1→ステージⅢ
T4a・N0~2→ステージⅣa
T1~3・N2→ステージⅣa
T4b・N0~3→ステージⅣb
T1~T4b・N3→ステージⅣb
M1→ステージⅣc

2.歯肉癌の一般的な治療法

この章では、上顎歯肉癌・下顎歯肉癌それぞれの一般的な治療法を解説します。外科手術の規模は、主としてTNM分類の「T:腫瘍の状況」によって導き出されます。

2-1 上顎歯肉癌の治療法

鼻腔・眼窩底につながっていることから、外科手術の美容的・機能的障害が大きくなりがちです。そのため、進行癌では外科手術だけでなく、「放射線療法」「超選択的動注(腫瘍に栄養を供給している動脈から抗がん剤を入れる化学療法)」を組み合わせるのが普通です。ただ、腫瘍自体は外科手術によって切除する必要があるので、外科手術が治療の主体となることは間違いありません。

上顎歯肉癌(T1~2)→歯肉切除or上顎部分切除

深部に向かっていない早期癌の場合は、「歯肉切除」で済むこともあります。歯肉切除は「骨切除をせず、歯肉・骨膜だけを切除する術式」です。しかし、骨への浸潤が疑われる場合は「上顎部分切除」になります。上顎部分切除は、「上顎の骨の一部を切除する術式」です。

上顎歯肉癌(T2~3)→上顎部分切除or上顎亜全摘出

腫瘍が大きくなっていると、「上顎部分切除」または「上顎亜全摘出」となります。上顎亜全摘出は、「眼窩底を温存し、上顎骨の大部分を切除する術式」になります。

上顎歯肉癌(T4)→上顎全摘出or上顎拡大全摘出

進行癌で、上顎洞の深くまで及んでいる場合は「上顎全摘出」または「上顎拡大全摘出」になります。上顎全摘出は「上顎骨すべての切除」上顎拡大全摘出は「上顎骨に加え、頭蓋底・眼球などの摘出」を意味します。

2-2 下顎歯肉癌の治療法

下顎の場合、外科手術が基本になります。下顎骨には抗癌剤があまり入っていきませんし、放射線療法も効きにくいからです。強い放射線をあてると骨が壊死するなどの副作用があるので、放射線量をいたずらに増やすわけにもいきません。

下顎歯肉癌(T1~2)→歯肉切除or下顎辺縁切除

腫瘍が歯肉粘膜にとどまっていて骨に影響がない場合は、歯肉切除で済むこともあります。骨に浸潤している疑いがあれば「辺縁切除(へんえんせつじょ)」をおこないます。辺縁切除は、「下顎骨をえぐるように切除するが、切断はしない術式」です。下顎骨を2つに切断はせず、上のほうを削りとるようなイメージになります。

下顎歯肉癌(T2~3)→下顎辺縁切除or下顎区域切除

腫瘍が歯槽にとどまっていれば、辺縁切除が適応になります。しかし、下顎の深いところまで腫瘍が浸潤している場合、「下顎区域切除」をおこないます。下顎区域切除は、「下顎骨の一部を切除し、下顎骨のつながりが失われる術式」です。下顎の一部分を全て切除するので、下顎骨が2つにわかれます。

下顎歯肉癌(T4)→下顎区域切除or下顎亜全摘出or下顎全摘出

腫瘍が下顎骨を大きく浸潤している場合は、進行度に応じて切除範囲を決定することになります。区域切除で対応できない場合、「下顎亜全摘出(かがくあぜんてきしゅつ)」または「下顎全摘出」をおこないます。下顎亜全摘出は「下顎の半分以上を切除する術式」下顎全摘出は「下顎すべてを切除する術式」です。

参照URL①:http://jsco-cpg.jp/guideline/04.html
参照URL②:http://jsco-cpg.jp/guideline/04_2.html

3.歯肉癌の初期症状には何がある?

歯肉癌を含めた口腔癌は、あまり初期症状が見られません。初期に痛みを感じることが少ないので、早期受診に至る確率が決して高くないのが現状です。結果、進行癌になってから受診する例が多く、患者さんの予後・QOLにネガティブな影響を与えています。とはいえ、初期症状がまったくないわけではありません。主な初期症状としては、以下の2つがあげられます。

白板症

白板症(はくばんしょう)は、口腔粘膜の一部がやや盛り上がり、白色になります。触った感じはザラザラしています。特に痛みは生じず、こすってもとれることはありません。3~5%が癌に変わると言われており、「前癌病変(癌の前段階)」とされます。

紅板症(紅色肥厚症)

紅板症(こうばんしょう)は、口腔粘膜の一部が赤く腫れたような外見になります。境界線ははっきりしていて、表面はつるつるしています。半分程度が癌に変わる「前癌病変」です。

4.まとめ

口腔癌は「目で見える位置にできる癌」ですが、決して予後が良好とは言えません。進行癌では5年生存率が40~60%まで低下し、明確に「生命を脅かす病気」です。初期症状が現れたら迷わず医療機関を受診し、早期発見・早期治療に努めましょう。また、喫煙・飲酒などがリスクファクターとなりますので、禁煙するとともに、過度な飲酒を控えることも大切です。

先生からのコメント

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執筆者:歯の教科書 編集部

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