歯医者さんで治療や抜歯をする際、痛みを軽減するために麻酔することがあります。麻酔の持続時間は種類によって異なるだけでなく、個人差もあります。中には、歯医者さんから伝えられた時間以上に麻酔作用が持続し、不安を感じたという人もいるのではないでしょうか?
本記事では、歯医者さんで用いられる麻酔の、持続時間の目安を紹介しています。併せて、麻酔がなかなか切れない理由やその対処法、効いている間の注意点、切れた後の痛みを防ぐ方法なども解説しています。麻酔の特徴や対処法、注意点を知ることは不安の軽減にもつながります。ぜひ最後まで読んで、今後の参考にしてください。
この記事の目次
1.歯医者さんの麻酔の種類と持続時間の目安
歯茎に麻酔薬を注射する、いわゆる「局所麻酔(きょくしょますい)」には3つの種類があります。
それぞれの特徴や麻酔の持続時間の目安について、大人と子どもに分けて紹介します。
1-1 大人の表面麻酔
表面麻酔とは、歯茎の表面に塗る麻酔です。
麻酔針を刺す際の痛みを軽減するために、歯茎の粘膜をまひさせる目的でおこないます。
治療の痛みを軽減することが目的ではないため持続時間は短く、10~15分程度で切れるのが目安です。
表面麻酔をおこなうことで、「治療の痛みを少なくするための麻酔が痛い」ということが防げます。
ゼリー状やテープ状、スプレー状のものなどがあります。
痛みに敏感な患者さんや子どもに対し、歯石除去や乳歯を抜歯する際に使うこともあります。
1-2 大人の浸潤麻酔(しんじゅんますい)
浸潤麻酔とは注射による麻酔で、治療の際に感じる痛みを軽減するためにおこないます。
歯茎に細い麻酔針を刺し、治療する歯とその周辺組織に麻酔薬を行き渡らせます。
歯医者さんでおこなわれる一般的な麻酔が、浸潤麻酔です。
治療が終わった後もしびれている感覚が残ることがほとんどですが、治療後約1~3時間で麻酔が切れはじめ、徐々に普段の感覚に戻ります。
注射針を刺す際の痛みを和らげるために、歯茎に表面麻酔を塗ったり、細い針を使用したりするといった工夫を取り入れている歯医者さんが多いです。
また、麻酔薬が冷たいと、体内に入ったときに痛みを感じることがあります。
このときの痛みを軽減するため、事前に麻酔薬を人肌程度に温めておく歯医者さんも少なくありません。
ほかにも、麻酔針を刺す際に余計な圧力をかけずに済むよう、電動麻酔注射器(※)を使用する歯医者さんもいます。
※電動麻酔注射器とは、麻酔針を刺すスピードを、一定にコントロールすることができる機械です。
歯茎にかかる圧力を押さえ、麻酔薬を注入する際の痛みを軽減することが可能です。
1-3 大人の伝達麻酔(でんたつますい)
伝達麻酔とは、主に麻酔薬が効きにくい下顎(ががく=下の顎)の奥歯に使われることが多い麻酔です。
この麻酔も注射でおこないます。
親知らずの抜歯といった際に、浸潤麻酔に加えて用いられることが多くあります。
また、親知らず以外の抜歯や治療でも、歯医者さんが浸潤麻酔だけでは効きが薄いと判断したときに併用することがあります。
そのため、浸潤麻酔だけを使用したときに比べて麻酔の作用時間が長く、治療後約3~6時間持続します。
伝達麻酔は、下顎に向かう神経の途中に麻酔薬を注入します。
それにより、唇や舌など広い範囲に麻酔の作用を与えることができます。
1-4 子どもの表面麻酔
子どもがよりリラックスして治療を受けられるように、フルーツ味のついたジェルで表面麻酔をおこなう歯医者さんもあるようです。
麻酔が切れるまでの時間は、大人の表面麻酔とほぼ変わりません。
※小児に対する表面麻酔の使用を控える歯医者さんもあります。
1-5 子どもの浸潤麻酔
子どもは歯茎や骨が大人に比べて薄いため、使われる麻酔薬の量は半分以下であることが基本です(※)。
そのため麻酔の作用が続く時間も短く、治療後約1~2時間で切れることが多いでしょう。
1-6 子どもの伝達麻酔
子どもの伝達麻酔も、大人の半分以下の量の麻酔薬を用いるのが基本です(※)。
しかし、子どもの歯茎や骨は薄いため、大きな神経にも麻酔の作用が及ぶことがあります。
その場合、治療後半日ほど麻酔の作用が持続することもありますが、時間とともに徐々に麻酔が切れていきます。
※参考資料:未承認薬・適応外薬の要望に対する企業見解
2.麻酔が切れない!そんな時はどうすれば良い?
「歯医者さんから伝えられた時間を経過しても麻酔が切れない」という経験をした人は、多くいるでしょう。
個人差こそありますが、自宅に帰った後もずっと麻酔が効いていると
「このまま切れないのでは?」
「副作用でも出ているの?」
と不安になってしまうかもしれません。
麻酔が切れない理由や、対処法を紹介します。
2-1 麻酔が切れない理由は?
多くの場合、歯医者さんから伝えられた時間の前後に麻酔が徐々に切れていきます。
しかし、麻酔の種類や麻酔薬の量、あるいは体調といった要素が絡み、伝えられた時間になっても麻酔が効いたまま、というケースもあるようです。
2-2 麻酔が切れないときの対処法は?
麻酔作用がなかなか切れなくても、しばらくは様子を見ましょう。
麻酔の持続時間には個人差があることは、前述の通りです。
そのため、多少切れるまでに時間がかかったとしても、次第に麻酔作用が薄まっていきます。
しかし、歯医者さんに伝えられた時間から、さらに数時間経過しても効き続けている場合は、一度歯医者さんに連絡を入れましょう。
事前に、麻酔が切れるまでの時間をしっかりと確認しておくことが大切です。
また、麻酔がなかなか切れないという経験がいままでにあれば、先生に相談しておきましょう。
麻酔が長時間切れなかった場合に備えて、歯医者さんに連絡するタイミングや対処法を個別にアドバイスしてくれるはずです。
3.麻酔を早く切りたい!そんなときはどうすれば良い?
3-1 麻酔を早く切る方法はない
残念ながら、麻酔を意図的に早く切る方法はないようです。
治療後もしばらくは、話しにくい、違和感があるといった、麻酔の感覚が残ります。
そのため、早く切りたいと思うことがあるかもしれません。
しかし、基本的には麻酔が自然に切れるのを待つことになります。
3-2 大切な予定がある日に麻酔を使用した治療を受けない
プレゼンテーションや商談、友人との食事など、大切な予定が入っている日は、麻酔を使用した治療を受けないようにすることをおすすめします。
すでに歯医者さんの予約が入っている日に大切な予定が入ったときは、麻酔を使用した治療の予定があるかを確認し、場合によっては予約の変更も検討しましょう。
4.麻酔が効いている間の注意点
治療が終わってからもしばらくは、麻酔の作用が持続しています。
いつも通りの生活をしていると、思わぬケガや出血を招くこともあります。
そのため、麻酔がしっかり切れるまでは以下の3つの注意点を守ることが大切です。
4-1 飲食は麻酔が切れてから
麻酔が効いている間は、唇や口の中の感覚が鈍っています。
唇や頬の内側を噛んでしまう恐れがあるため、食事は控えましょう。
熱も感じにくい状態のため、熱い飲み物も控えることをおすすめします。
どうしても食事をしなければならない場合は、熱くなく、柔らかいものを少量ずつゆっくり噛んで食べるようにすると良いでしょう。
なお、その際は麻酔が効いていない側の歯で噛むと、ケガのリスクを減らせます。
また、子どもは麻酔によって感覚がないことを不思議がったり面白がったりして、唇や頬の内側を噛んでしまうことがあります。
麻酔が切れるまで飲食を控えることはもちろん、いたずらに触れたり噛んだり、爪で引っかいたりしないように教えてあげることが大切です。
4-2.うっかり噛んでしまうおそれがある動きにも注意
少なくとも麻酔が切れるまでは、食いしばることがあるような運動、動きは避けることをおすすめします。
飲食をしていなくても、何かを持ち上げる拍子にうっかり噛んでしまったり、激しい運動をしているときに食いしばったりしてしまうことがあります。
また、運動は血流を促進させます。
傷口がしっかり閉じていなければ出血を招くおそれがあるので、そういった意味でも麻酔が切れるまでは安静にしていましょう。
4-3.アルコールや入浴も控えよう
麻酔が効いている間のアルコール摂取が直接的な原因で、体に悪影響を与えることはほとんどありません。
しかし、口の中の感覚がまひしているところにアルコールが入ることで、さらに感覚が鈍ってしまうことが考えられます。
- 口の中を噛んでしまったり熱いものでやけどしたりする
- 麻酔が抜けにくくなる(抜けても抜けていないような感覚になる)
- 麻酔が切れて実際に感じるべき患部の痛みを感じられなくなる
といったリスクがあります。
麻酔が切れるまでの数時間程度は、アルコールを控えましょう。
また、入浴は運動と同じように血流を促進します。
傷口がしっかり閉じていなければ出血を引き起こす恐れがあるので、やはり麻酔が切れるまでは安静にしていましょう。
抜歯をした日は特に、当日の入浴やアルコール、運動、喫煙などを控えるよう先生からアドバイスされることがあります。
その場合は、麻酔が効いている、効いていないに関わらず、歯医者さんの指示に従うようにしましょう。
5.麻酔が切れた後の痛みを防ぐ方法と腫れた場合の対処法
麻酔が切れた後、どの程度痛むのか不安に感じる人もいることでしょう。
麻酔が切れ始める頃に、患部の痛みや腫れが気になり出すという人も少なくありません。
この章では、そんなときの対処法を紹介していきます。
5-1.麻酔が切れた後の痛みを防ぐには?
麻酔が切れた後の痛みが予想される場合、歯医者さんでは主に「ロキソプロフェン」が配合された痛み止めを用意してくれます。
痛み止めを服用してから効き始めるまでに30分~1時間ほど時間がかかると言われています。
そのため、痛みが苦手な人や心配な人は、麻酔が切れてしまう前(目安として治療1時間後程度)に服用すると良いでしょう。
★小川先生からのコメント★ |
薬の改善が進み、胃への負担は少なくなってきていますが、牛乳でもいいので胃になにか入れてから服用しましょう。 ロキソプロフェンに関しては、空腹時の服用はおすすめできません。 また、アセトアミノフェンなど少し優しめ、弱めの鎮痛剤も良いでしょう。 |
※服用の際には薬剤師や医師の指示に従い、用法用量を守って服用してください
5-2.麻酔を打った場所が腫れた場合は?
傷口にはできるだけ触れないようにしましょう。
腫れが気になり触ってしまう人もいますが、傷口を刺激するだけでなく、新たな細菌が付着して炎症が悪化する恐れがあります。
なかなか腫れがひかない場合や、大きく腫れている場合は、歯医者さんに相談しましょう。
麻酔をするときは歯茎に針を刺すため、どうしても傷口ができてしまいます。
口の中は細菌が多いものです。
傷口に細菌が入り込んで炎症を起こすと、腫れてしまう場合もあります。
また、浸潤麻酔をした部分を押すと鈍痛がする場合がありますが、これは骨の近くや骨の中まで針を刺したことで起こります。
このときの痛みの程度には、個人差があるようです。
痛痒いものからうずくもの、ズキズキしたものなど、痛み方に差がありますが、目安として1~2週間ほどで痛みはなくなっていきます。
6.併せて知っておきたい麻酔の副作用
6-1.麻酔の副作用
薬を使用する以上、麻酔にも副作用のリスクが伴います。
歯医者さんの麻酔では、主に次のような副作用が考えられます。
■表面麻酔
表面麻酔には「アミノ安息香酸エチル 」という成分でできているものが多くあります。
「アミノ安息香酸エチル」によって、めまい、じんましん、吐き気、むくみ、眠気、不安感などの副作用が出ることがあります。
■浸潤麻酔と伝達麻酔
注射による麻酔薬の成分には、基本的には「アドレナリン」という血管収縮剤が含まれています。。
「アドレナリン」によって、動悸(どうき)、頭痛、悪心などの副作用が出ることがあります。
■小児に対する麻酔の副作用
痛みやしみるといった症状、口の中が麻痺したことによる違和感や不快感が現れる場合があります。
重い副作用が出ることは非常に稀(まれ)ですが、子どもがなんらかの副作用症状を訴えた場合、歯医者さんに相談しましょう。
軽い症状が、重篤な症状の前触れであることがあるためです(※)。
※参考資料:小児歯科学雑誌「小児に対する歯科用局所麻酔剤の安全性に関する臨床的研究」
6-2.少しでも不調を感じたら歯医者さんに伝えよう
歯医者さんで麻酔を含む治療を受けたあと、体に違和感や異変が起こった場合は、その場で歯医者さんに伝えましょう。
麻酔の後、体に不調が見られても、自分ではそれが副作用かどうか判断できないことがあります。
多くの場合、治療を中止して休んでいる間に回復しますが、無理をして治療を継続してしまうと副作用の症状が悪化してしまう恐れがあります。
自己判断や我慢はせず、歯医者さんに相談しましょう。
6-3.持病がある人や薬を服用している人は事前に歯医者さんに伝えよう
高血圧の人や、心臓疾患といった持病がある人は、歯医者さんで治療を受ける前に先生に伝えておきましょう。
過去に副作用が出たことがある人や、日常的に服用している薬がある人も、事前に歯医者さんに伝えておくとよいでしょう。
これらの情報は、歯医者さんが治療をおこなうために必要です。
せっかくの治療で思わぬリスクを引き起こさないためにも、持病や服用している薬、心配ごとなどは先生に伝えるようにしましょう。
また、治療が怖かったり、痛みに対して恐怖心が強かったりする場合も、きちんと歯医者さんに伝えましょう。
麻酔の種類を増やしたり、リラックスできる時間を取ってくれたり、さまざまな工夫をおこなってくれるはずです。
7.まとめ
今回は
- 歯医者さんの麻酔持続時間の目安・麻酔が切れない理由や対処法
- 麻酔を早く切る方法や対処法
- 麻酔が効いている間の注意点
- 麻酔が切れた後の痛みを防ぐ方法や腫れたときの対処法
- 併せて知っておきたい麻酔の副作用
について解説してきました。
持続時間を含め、歯医者さんで使用する麻酔の特徴を知っておくことは、麻酔への不安を軽減することにつながります。
麻酔を使った治療の予定がある人、すでに麻酔を使った治療をした後で麻酔が切れずに不安な人はぜひ、この記事を参考にしてください。
なお、歯医者さんの麻酔が怖いという方には、恐怖心を消すことができる「笑気麻酔(しょうきますい※1)」や、半分寝ているような感覚になる「静脈内鎮静法(じょうみゃくないちんせいほう※2)」という麻酔もあります。
ただし、これらの麻酔はすべての歯医者さんでおこなわれているわけではないため、気になる人は事前に問い合わせて確認しておきましょう。
麻酔が切れるまではケガや出血のないよう、歯医者さんの指示に従い、注意事項を守って過ごしましょう。
※1笑気麻酔は、保険適用の麻酔です。
※2静脈内鎮静法は、保険適応できる病院が限られます。多くの場合、自由診療(全額自己負担)となります。
2005年 日本歯科大学 卒業
2005~2006年 東京医科歯科大学摂食機能構築学 医員
2007~2011年 東京都内歯科医院 副院長
2011年 後楽園デンタルオフィス 院長就任
現在に至る
執筆者:
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