鼻腔のとなりには、「副鼻腔」と呼ばれる空洞があります。副鼻腔のうち、鼻の両脇に位置する空洞を「上顎洞(じょうがくどう)」と呼んでいます。癌は体内の至るところに発生しますので、上顎洞に癌ができることもあります。
こちらの記事では、上顎洞癌の原因・初期症状・治療法を解説しています。厳密には耳鼻咽喉領域の癌ですが、口腔癌と関連する部分も多いことから「口腔癌の一種」と扱われるケースもあるようです。
この記事の目次
1.上顎洞癌の基礎知識をチェック!
人間の副鼻腔には、上顎洞のほか、「前頭洞(ぜんとうどう)」「篩骨洞(しこつどう)」「蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)」が存在します。副鼻腔にできる癌を「副鼻腔癌」と総称しますが、もっとも頻度が高いのは上顎洞癌です。ただ、近年は減少傾向にある癌で、年間の患者数は1,000名程度と推定されています。
1-1 上顎洞癌の原因は?
上顎洞癌の原因は、その大半が「慢性副鼻腔炎」と考えられています。慢性副鼻腔炎は世間的に「蓄膿症(ちくのうしょう)」と呼ばれている疾病です。慢性副鼻腔炎による上顎洞の炎症が長期的に続くことで、内部の粘膜が癌化します。慢性副鼻腔炎のすべてが癌化するわけではありませんが、数十年の単位で長期化すると癌になることがあるのです。
最近は、抗生物質などの創造が進んだことで、慢性副鼻腔炎を治療することが容易になりました。結果、慢性副鼻腔炎そのものが減少したことで、上顎洞癌も減ってきています。慢性副鼻腔炎と上顎洞癌が連動して減っている事実から、「慢性副鼻腔炎が上顎洞癌の主な原因である」という臨床疫学的な結論を得ることが可能です。
1-2 上顎洞癌の初期症状
初期段階ではほとんど自覚症状がありません。そのため、初期症状に気づいたときは、すでに進行癌になっていることも多いです。もし、「上顎洞癌の症状かな?」と思ったら、なるべく早く医療機関を受診するようにしてください。
上顎・頬(ほお)が痛い
上顎・頬(ほお)が痺れて、感覚がにぶい
眼球が突出する
物が二重に見える
頻繁に目ヤニ・涙が出る
長期間にわたって、歯茎が腫れる
虫歯などの原因がないのに、歯が痛む
硬口蓋が腫れる
鼻から頬にかけて腫れる
長期間にわたって、鼻づまりが続く
粘性が強く、悪臭をともなう鼻汁が続く
血の混じった鼻汁が続く
これらの症状は、左右のどちらか一方に出るのが普通です。上顎が腫れるなら、左右どちらかが腫れます。同様に、目ヤニ・涙が出るのも片目ですし、鼻づまり・鼻汁が出るのも片方の鼻です。上顎洞は鼻の左右に1つずつ存在します。左右両方が同時に上顎洞癌になる確率はとても低く、基本、症状が左右どちらかに出るのです。
春先、花粉症にかかっていると、上顎洞癌の症状を見落とす恐れがあります。鼻汁・鼻づまり・目ヤニ・涙といった症状が、花粉症と共通しているからです。ただ、花粉症は両目・両鼻に症状が出ますが、上顎洞癌が片側だけに出るのが普通です。この事実から、「慢性副鼻腔炎の既往があり、花粉症のような症状が片側だけに出る場合、上顎洞癌の恐れがある」と予測することができます。
1-3 上顎洞癌が進行すると、どうなる?
上顎洞癌の腫瘍が大きくなると、やがて頬骨を突き破るほどに肥大します。そのほか、頭蓋底に浸潤して脳に拡大する例もあります。頭蓋底に進行した場合、予後不良となり、根治は望めません。進行すればするほど危険が増していくのは、ほかの癌と同様です。
ちなみに、痛みが出てきたときに上顎の奥歯が虫歯になっていると、虫歯の痛みだと誤解する恐れがあります。これは上顎洞癌の発見を遅らせる要因になるので、虫歯を早めに治しておくことも重要です。
2.上顎洞癌の基本的な治療法は?
かつては、上顎洞癌の根治を目指す場合、「外科手術による切除」が第一選択でした。ただ、腫瘍の摘出時は、周囲の組織を含めて摘出しなければなりません。結果、上顎周辺を大きく切除することになり、機能的にも外見的にも、患者さんには大きな後遺症をもたらしていました。特に、腫瘍が大きく「上顎拡大全摘出」となった場合には、眼窩内容物まで摘出しなければならないからです。眼球を摘出すれば視力を奪われ、患者さんのQOLは大きく低下することになります。
2-1 集学的治療の進歩で、上顎洞癌の治療成績が向上!
しかし、最近は患者さんのQOLを維持したまま、上顎洞癌を根治できる例も増えてきています。外科手術・放射線療法・化学療法を組み合わせた集学的治療(三者併用療法)が進歩してきたからです。
化学療法には「超選択的動注」といって、腫瘍に栄養供給している動脈に抗癌剤を入れる治療が存在します。そこに放射線治療を組み合わせて、腫瘍をなるべく小さくするのです。腫瘍を十分に小さくしてから外科手術をおこなえば、顔面の機能・形態を温存した上で上顎洞癌の根治を目指せます。
2-2 早期発見できれば、内視鏡手術も!
早期癌ならば、鼻の穴から内視鏡を入れる内視鏡手術が可能です。この場合、術後の痛みも軽く、後遺症も残りません。
腫瘍が上顎洞の内部にとどまっているうちは自覚症状がなく、早期発見は困難とされています。しかし、鼻・歯・口腔内にわずかな異変を感じた時点で医療機関を受診すれば、早期癌のうちに発見できるかもしれません。
3.まとめ
虫歯など、口腔トラブルの影響で副鼻腔炎(上顎洞炎)を起こすことがあります。上の奥歯がひどい虫歯になると、虫歯菌が上顎洞に入りこむことがあるからです。こういった「歯が原因の上顎洞炎」を「歯性上顎洞炎」と呼びます。
副鼻腔炎が上顎洞癌を引き起こすと考えられている以上、「歯の健康」と「上顎洞癌」はまるっきり無関係というわけではありません。上顎洞癌で歯・歯茎に症状が現れるケースがあることも相まって、「口腔トラブルとの関連が深い癌」と言えるでしょう。
癌と聞くだけで怖いですね。上顎洞癌は歯医者さんで発見されることも多い癌の一つです。歯医者さんでも初診時に全体が写ったレントゲン写真を撮影することが良くあると思いますが、その写真からも上顎洞癌を発見できることがあります。いまは地域のクリニック規模の歯医者さんでもCTを備えている医院が多くなり、さらに広がりまで精査できる時代になりました。当院でも発見後に大学病院に送って1種間で手術までといったケースもあります。なによりも早期発見が大切な癌治療だからこそ、定期検診の重要性にもつながるのだと思います。
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歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。