犬歯が前に出ていることを気にしている人も多いのではないでしょうか?
犬歯は、生える順番が原因で八重歯になることが多い歯です。ここでは、犬歯の役割を解説するとともに、犬歯の歯列が乱れる原因とそれによるトラブル、矯正も含めた治療法を紹介しています。
犬歯について悩んでいる人は、ぜひ参考にしてください。
1.犬歯ってなに?
1-1 犬歯とは?
犬歯とは、前歯から数えて3番目にある歯で、上下左右それぞれ対になって4本あります。
肉食の哺乳類にとっては、獲物を捕らえるために必要な歯で、牙に当たります。犬歯は尖頭(せんとう)と呼ばれ尖った形をしており、別名、糸切り歯とも呼ばれます。
犬歯は、他の歯よりも歯の根が長く、基本的に年齢を重ねても最後まで抜けずに残る歯です。歯の外側のエナメル質は、歯の中でも特に硬く容易に欠けたり虫歯になったりしません。
以上から、犬歯は歯の中でも丈夫な歯と言えます。
1-2 犬歯は噛み合わせのポイントとなる
人間は、食べ物を噛むときに、上下の歯と顎を縦方向に動かすだけでなく、横方向にも動かしています。これは、ほとんど意識せずおこなわれています。
下顎が複雑な動きをすることで、人間は前歯で食べものを小さく噛みきり、奥歯ですり潰すといった咀嚼運動が可能となります。
奥歯でものをすり潰すためには、奥歯を縦方向だけでなく、左右にも動かす必要があります。奥歯は、縦方向の力には強いものの、左右に動かす力には弱いという特性があります。
顎を左右に動かすときに犬歯だけがかみ合い、奥歯に左右の力が直接伝わらないようにしています。犬歯には、奥歯を守る役割もあります。
1-3 犬歯の正常な位置とは?
人間の歯は上下でかみ合うようになっており、左右対称になっています。
上の前歯の方が、下の前歯よりほんの少しだけ大きくなっているのが一般的です。したがって上の犬歯は、下の犬歯よりも約半分程度、後ろに位置しています。
良いかみ合わせができている状態だと、歯ぎしりしたときに上下の犬歯だけがかみ合い、その他の歯はかみ合わないはずです。つまり、犬歯がかみ合っているときは奥歯が守られていることになります。
本来の位置に犬歯があると、きれいなカーブを描いた前歯と、しっかり機能する奥歯で、きちんとしたかみ合わせができます。
1-4 犬歯の位置が歯列を決める?
歯の並びを見ると、前歯部、犬歯、臼歯部があることによってカーブを描いていることがわかります。カーブの曲線から奥へ向かい、まっすぐになる手前の位置に犬歯があります。
矯正治療で犬歯の位置を決めることは、上下の歯列の位置を決めることにもなります。
正しい犬歯の位置が良いかみ合わせの要因となるため、歯列矯正では犬歯の位置がとても重要です。さらに、犬歯は歯の中でとくに丈夫な歯で、矯正器具の支点に使用することもあります。
そのため、犬歯はできるだけ残す方針で治療計画が立てられます。犬歯は、歯列矯正にとっても、かみ合わせにとっても重要な歯です。
1-5 犬歯は人の表情も左右する
犬歯が正しい位置に生えず、歯列からずれている場合、八重歯になります。八重歯とは、犬歯だけでなく歯列からずれて重なっている歯のことを指します。
犬歯=八重歯と思われがちですが、それは犬歯の生える順番が遅く、歯列からずれる場合が多いためです。八重歯の位置が原因で、口を開けるのが怖い、笑顔になりにくい、と悩む人もいます。
2.犬歯が八重歯になる原因
2-1 顎の骨が小さい
顎の骨が小さく、永久歯の生えるスペースが少ない人は、犬歯が八重歯になりやすいと言えます。犬歯は永久歯の中でも生えてくるのが遅く、スペースが足りないと歯列の外へ押し出されることが多いためです。
顎の骨の大きさは、遺伝的な要素で決まることが多くあります。加えて、小さいころに柔らかいものばかり食べ、顎が発達しないことも骨が小さくなる原因とされています。
小さい頃から、しっかり咀嚼することが大切です。
2-2 犬歯が大きい
歯自体の幅が大きいと、歯が並ぶスペースが足りなくなってしまうため、歯列からずれて八重歯の原因となります。歯の大きさにも、遺伝的な要素が大きく関係しているとされています。
現代人は、昔の人と比べて歯が大きくなったとする論文も発表されています(ただし、諸説あります)。一方で、さまざまな研究から、食べ物がやわらかくなったなどの理由で顎の骨は退化し、小さくなっていることが分かってきています。
歯が大きくなっている・生えるスペースが縮小しているといった事柄は「現代人に八重歯など歯並びに問題がある人が増えている」ことを裏付けているのかもしれません。
2-3 乳歯が抜けるのが遅い
乳歯がなかなか抜けずに残っている場合、永久歯の犬歯が歯列からずれて、八重歯になることがあります。
珍しいケースではありますが、乳歯の歯の根が隣同士でくっついていることがあります。なかなか抜けない乳歯は、歯医者さんに相談しましょう。
また、乳歯が隙間なく生えている場合、永久歯が生えてくるスペースが足りなくなってしまい、八重歯になることがあります。
2-4 過剰歯がある
過剰歯とは、決まった本数(乳歯20本/永久歯32本)より多くある歯のことです。過剰歯は、女性より男性の方が発生しやすく、その多くが上の前歯付近にあります。
上の前歯付近に過剰歯があると、前歯が生えるスペースが少なくなってしまい、前歯の歯並びが悪くなったり、八重歯になったりします。
2-5 乳臼歯を早くなくしてしまう
奥歯の乳歯(乳臼歯)が虫歯になり、抜歯するなどして早くなくなってしまうことも、八重歯になりやすい原因です。
なくなってしまった乳臼歯の隙間を埋めるために、奥歯の永久歯が前の方に移動してきます。奥歯の永久歯よりも後から生える犬歯のスペースがなくなってしまうと、八重歯になります。
乳歯の頃の口のケアが、その後の歯並びに影響を与えます。
3.犬歯が八重歯になることで生じるトラブル
3-1 八重歯が口を傷つける
犬歯はとがっているため、八重歯になると唇、舌、口の中の粘膜を傷つけてしまう恐れがあります。何度も傷つけてしまうと、口内炎の原因となることがあります。
八重歯が当たり、口内炎を繰り返している場合は、歯医者さんに相談してみましょう。
3-2 笑顔になるのに抵抗がある
八重歯は、日本ではチャームポイントと言われることもありますが、八重歯がコンプレックスで笑顔になれない、自信が持てない人もいます。笑顔になれないことで、人とのコミュニケーションが上手くいかない場合もあります。
八重歯がコンプレックスで日常生活に支障をきたしているようであれば、矯正することを検討してみましょう。
3-3 虫歯や歯周病、口臭の原因にもなる
犬歯が八重歯になるということは、歯並びが悪くなっているということです。歯並びが悪いと食べかすなどがつまりやすく、さらに歯磨きのときブラシが届きにくくなります。
これらが影響して、虫歯や歯周病になりやすくなります。虫歯や歯周病は、口臭の原因にもなります。
3-4 口が閉じられず、口呼吸になる
犬歯が八重歯になることで、自然に口を閉じるのを邪魔することがあります。
口が自然に閉じられなくなることで、寝ているときに口が開いてしまう、ついつい口を開けっ放しになってしまうなど、日常的に口呼吸になってしまいます。
歯は、舌の力によって前に押し出されてしまうことがあります。口を閉じているときは、唇や唇の周りの筋肉を使い、前歯が前に出ないように抑えています。しかし、口呼吸になってしまうと口を開けたままになり、前歯が出てしまいます。
さらには、口呼吸をすることで口の中が乾燥し、唾液に含まれる免疫システムの働きが悪くなり、虫歯菌や歯周病の原因菌を増殖させてしまいます。
口呼吸の原因は、八重歯や前歯が前に出てしまっていることだけでなく、鼻やのどなど、耳鼻いんこう科の領域が原因のこともあります。自己判断はせず、まずは歯医者さんで確認してもらい、歯並びが原因でない場合は耳鼻いんこう科を受診しましょう。
3-5 他の歯や顎を悪くする
犬歯には、食べ物を噛むときに、奥歯に力が直接伝わらないようにする役割があります。しかし、犬歯が八重歯になるとその役割を果たせないので、他の歯が犬歯の代わりとなる必要が出てきます。
他の歯が犬歯の代わりを務めようとしても、犬歯ほど歯の根が長くないため、代役を務めた歯の寿命が短くなってしまいます。
さらに、顎にも負担をかけることになります。
4.八重歯を歯列矯正で治療
4-1 歯列矯正で八重歯は抜歯しない?
犬歯が八重歯で矯正する場合、矯正で歯並びを治すことによって、犬歯の入るスペースが空くこともあります。その場合、抜歯せずに矯正することが可能です。
基本的に犬歯は歯の根が長く、かみ合わせに重要なため抜歯せず、できるだけ残します。あまりにひどく前に出ていたり、隣の歯の後ろに生えていたり、ひどい虫歯になっていたりする場合は、抜歯をすることもあります。
また、犬歯が八重歯になっていて、犬歯以外の歯が問題なくかみ合っている場合も、犬歯を抜歯することがあります。抜歯した直後は歯茎に穴があいていますが、おおよそ3~4カ月ほどで埋まってきます。
歯の生え方には個人差があり、抜歯にはリスクがあります。抜歯するかしないか治療法の判断は、歯医者さんの方針によります。
4-2 八重歯を削って治療
八重歯の周りの歯を削って、八重歯が入るスペースを作り矯正する方法もあります。八重歯自体を少し削り、空いたスペースに入るようにすることもあります。
八重歯や、八重歯の周囲だけを削ったり動かしたりするので、治療期間も短くて済みます。しかし、歯並び全体が乱れている場合、おこなえないこともあります。
4-3 矯正のために抜歯するケース
小さい顎にきれいに歯を並べるためには、抜歯が必要な場合があります。抜歯をすることでスペースが増え、前歯全体が奥に移動することで、横顔がきれいになります。
顎が小さいのに抜歯せずに矯正すると、後戻りしてしまう場合があります。そうしたケースでは、抜歯でスペースを作った上で矯正すると、きれいに歯が並ぶため後戻りしにくくなります。
ただし、この場合、犬歯ではなく小臼歯(前から4番目や5番目の歯)を抜歯するのが主な方法です。
犬歯を抜歯してしまうと口元にふくらみがなくなったり、歯並び全体が悪くなったりする恐れがあります。また、矯正治療でも、犬歯を起点にして治療をおこなうケースがあるため、犬歯を抜歯してしまうと治療できないケースが出てきます。
抜歯をともなう矯正をする際は、歯医者さんとよく相談し、納得できる方法を選ぶようにしましょう。
4-4 八重歯を抜歯する理由
- ・犬歯に大きな虫歯がある
・破損している
・顎の骨の中に埋まったまま生えてこない(埋伏歯)になっている
・他の歯よりも寿命が短いと予測される
おおよそ、以上のケースで、矯正治療のために犬歯を抜歯することが多いです。特に虫歯になってしまった場合、対になっている歯も一緒に虫歯になってしまうことが多いため、対の歯を守るために抜歯するケースもあります。
5.歯列矯正で抜歯をともなう治療のメリット・デメリット
5-1 メリット①口元がきれいになる
抜歯をともなう矯正治療では、小さな顎に無理なく歯を並べることができます。きれいな歯並びになりやすく、また矯正後に後戻りしにくくなります。
奥歯がきれいに並ぶことで、かみ合わせが整うことも期待できます。
5-2 メリット②口が自然に閉じ、鼻呼吸が出来る
前歯が前に出ていたり、顎の位置が悪かったりすると、自然に口が閉じられなくなることがあります。その結果、口呼吸となり口臭や歯周病の原因になることがあります。
抜歯をともなう矯正によって前歯全体が奥に移動したり、顎の位置が正常にもどったりするので、自然に口が閉じ、鼻呼吸ができるようになります。
5-3 メリット③虫歯、歯周病の予防になる
犬歯が八重歯になっていたり前歯が前に出ていたりすると、自然に口が開き口の中が乾燥してしまいます。
唾液には、自然の免疫システムが備わっています。乾燥することで唾液の免疫システムが働かなくなり、虫歯菌や歯周病菌が増殖する恐れがあります。
矯正によって自然に口が閉じることができるようになると、口の中の唾液が正常に働き、虫歯や歯周病の予防になります。
5-4 デメリット①歯を抜くときに苦痛が生じる
矯正での抜歯は健康な歯を抜くことなので、抜くときに苦痛が生じることがあります。歯の状態によりますが、抜歯することによって痛みや腫れをともなうことがあります。
さらに、抜いた隣の歯の歯根がむき出しになり、知覚過敏になる恐れもあります。
5-5 デメリット②治療期間が長くなる
抜歯をともなう矯正は、歯列全体を大きく動かすため、治療期間が長くなることがあります。矯正で抜歯が必要か必要でないかは、歯医者さんと相談しましょう。
6.まとめ
犬歯は、歯の中で重要な役割を担っています。
犬歯の大きさや形、犬歯が八重歯になっているかどうかは個人差があります。ここでは、あくまでも基本的な例を前提に、犬歯の矯正について解説しました。
犬歯が八重歯になっているかどうか、どのように矯正するかは、歯医者さんに行き、納得した上で進めましょう。
1987年 日本歯科大学 卒業
1987年~1996年12月 氷川下セツルメント病院歯科勤務
1997年 歯科大橋 開業
現在に至る
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。