歯列矯正は、歯並びや噛み合わせを整えることを目的とした治療です。見た目の印象に関わることもありますが、歯並びや噛み合わせの状態によっては、噛みにくさや歯磨きのしづらさなどにつながることもあります。
歯列矯正は大きく二つに分かれます。それは「全体矯正」と「部分矯正」です。「歯列矯正は費用が高い」というイメージがあるかたも少なくないでしょう。
部分矯正は治療範囲が限られるため、症例によっては費用が全体矯正より下がる場合があります。ただし、部分矯正ができるかどうかは、歯並びや噛み合わせの状態によって異なります。それでは、部分矯正の具体的な費用や特徴をご紹介します。
※本記事に掲載している自由診療の料金は、2026年時点でEPARK歯科に掲載されている歯科医院の料金情報を参考にしたものです。料金は地域や施術内容、使用する機材、歯科医院の方針等によって異なります。実際の料金については受診予定の歯科医院へご確認ください。
※矯正治療は自由診療です。主なリスク・副作用として、歯の移動に伴う痛み・違和感、歯根吸収、歯肉退縮、むし歯・歯周病リスク、後戻りなどが生じることがあります。
この記事の目次
1.部分矯正の費用と全体矯正との違い
1-1 部分矯正にかかるおおよその費用
部分矯正では、「検査・診断料」「矯正基本料」「調整料」など、治療工程ごとに費用が発生することがあります。支払い方法は医院によって異なり、総額制の場合もあれば、通院ごとに調整料がかかる場合もあります。
矯正にあたっての検査、診断料 およそ3~5万円
矯正装置などを取り付ける基本料 およそ15~50万円
矯正装置のメンテナンスなどを行う調整料 1回あたりおよそ4,000円~8,000円
※2026年時点のEPARK歯科掲載自由診療料金情報を参考に編集部集計
※費用は医院、治療範囲、使用する装置、治療期間によって異なります。詳しい費用は、受診する歯科医院で確認しましょう。
1-2 種類によって異なる費用
矯正の種類によっても費用は変わってきます。例えば、「ブラケット」による矯正は、歯に装置を取り付け、ワイヤーなどの力で歯を動かす方法です。前歯の凹凸がある場合などに用いられることがあります。
ブラケットによる矯正では、歯を並べるスペースを確保するために、歯と歯の間をわずかに削る処置を行うことがあります。ただし、削るかどうかや削る量は、歯並びや噛み合わせの状態によって異なります。
これに対して「マウスピース」による矯正は、透明なマウスピース型の装置を交換しながら歯を動かす方法です。軽度の凹凸やすきっ歯などで適応になることがありますが、すべての症例に対応できるわけではありません。
マウスピース矯正は、複数のマウスピースを作成しながら治療を進めるため、装置の種類や作成枚数によって費用が変わります。ブラケット矯正とマウスピース矯正のどちらが高くなるかは、医院や治療内容によって異なります。
■ブラケットの装置費用
15~45万円
■マウスピースの装置費用
25~50万円
※2026年時点のEPARK歯科掲載自由診療料金情報を参考に編集部集計
※実際の費用は、治療範囲、装置の種類、通院回数、医院の料金体系によって異なります。
1-3 部分矯正と医療費控除
部分矯正を検討する際は、「医療費控除」について知っておくこともポイントです。医療費控除とは、一定額以上の医療費を支払った場合に、確定申告によって所得控除を受けられる制度です。
部分矯正でも、噛み合わせや発音、咀しゃくなどの機能面の改善を目的とし、社会通念上必要と認められる場合には、医療費控除の対象となることがあります。一方、容姿を美化することだけを目的とした矯正は、医療費控除の対象とはなりません。
医療費控除は、一般的にその年に支払った医療費が10万円を超える場合などに対象となります。ただし、所得金額によって基準が異なる場合があります。詳しくは国税庁の情報や税務署で確認しましょう。
医療費控除を申請する際には、医療費控除の明細書を作成して確定申告を行います。領収書は提出不要ですが、一定期間保存が必要です。また、治療目的を確認できる書類が必要になる場合もあるため、必要に応じて歯科医院に相談しましょう。
1-4 部分矯正と全体矯正の違い
部分矯正と全体矯正の大きな違いの一つは「治療範囲」です。部分矯正は、その言葉通り部分的な矯正を行うため、全体矯正よりも治療範囲が限られます。治療範囲が限られる分、費用や治療期間を抑えられることがあります。
部分矯正治療ではまず、そもそも部分矯正が可能かどうかの診断が行われます。
歯の生え方や、どのくらい歯並びが乱れているか、噛み合わせにどの程度の問題があるかなどには個人差があるため、部分矯正ではなく全体矯正が必要だと診断される場合もあります。部分矯正が可能な場合は、さらに精密な検査へ進みます。そして実際に矯正装置を装着する段階を経て、ワイヤーなどの矯正装置の調節・メンテナンスをしながら治療していきます。
2.部分矯正の保険適用の有無について
医療費控除の他に、「保険」が適用されるケースの場合は、医療費を抑えられることがあります。しかし、矯正治療で保険が適用されるケースは限られています。それでは、具体的な条件について見ていきましょう。
2-1 部分矯正の治療で保険が適用されるケース
矯正治療は、基本的には「自由診療」になるため健康保険は適用されません。しかし、すべての治療で保険が適用されないかというと、一部保険が認められる場合があります。
日本矯正歯科学会では、矯正歯科治療が保険診療の対象となる場合として、主に以下を挙げています。
・厚生労働大臣が定める疾患に起因した咬合異常に対する矯正歯科治療
・前歯および小臼歯の永久歯のうち3歯以上の萌出不全に起因した咬合異常で、埋伏歯開窓術を必要とするもの
・顎変形症で、顎離断等の手術を必要とする場合の手術前・手術後の矯正歯科治療
具体的な疾患としては、唇顎口蓋裂(こうしんこうがいれつ)などが含まれます。保険適用で治療を受けるには、厚生労働大臣が定める施設基準に適合し、届け出を行っている保険医療機関で治療を受ける必要があります。
2-2 部分矯正の治療で保険が適用されないケース
保険に適用されないケースの代表的なものとして「美容を目的とした治療」が挙げられます。見た目を整える目的のみの矯正治療は、基本的に保険適用外となります。
悪い咬み合わせ(不正咬合)があり、咀しゃくや発音などに影響している場合でも、すべてが保険適用になるわけではありません。保険適用となるかどうかは、原因となる疾患や手術の必要性、施設基準などによって判断されます。多くの矯正治療は自由診療となるため、事前に歯科医院で確認しましょう。
3.部分矯正によるメリット・デメリット
それでは、部分矯正を施した場合の、具体的なメリット・デメリットを考えてみましょう。メリット・デメリットを理解することで、どんな症状が部分矯正に向いているのか、あるいは部分矯正を施した場合にどのような状態になるのかを、より把握できます。
3-1 部分矯正のメリット
部分矯正におけるメリットの一つ目は「全体矯正よりも治療期間を短くできることがある」こと、二つ目は、気になる部分だけを治療できることです。ただし、部分矯正で対応できるかどうかは、歯並びや噛み合わせの状態によって異なります。
■出っ歯/八重歯の場合
出っ歯や八重歯の矯正治療では、犬歯を含めて歯を動かす必要があるケースもあり、治療の規模が大きくなることがあります。部分矯正で対応できるかどうかは、歯の位置や噛み合わせを確認したうえで判断されます。
■すきっ歯の場合
すきっ歯は、隙間の大きさや原因によって、部分矯正で対応できる場合と、全体矯正やほかの治療が必要になる場合があります。マウスピースで徐々に動かしていく方法が適していることもありますが、症例によって判断が異なります。
■その他
前歯だけの部分的な矯正の場合、全体矯正と比べると装置による違和感や負担が少ないことがあります。
装置自体も全体矯正と比較して目立ちにくい場合があり、咬み合わせの変化による違和感も少なく済むことがあります。また、治療範囲が限られるため、歯磨きなどの手入れをしやすい場合もあります。
そして、短期間の治療で対応できることがある点もメリットです。全体矯正の場合は、実際の矯正期間と、その後の保定期間を含めて数年かかることもあります。しかし部分矯正であれば、症例によっては数か月で治療を進められる場合もあります。
3-2 部分矯正のデメリット
部分矯正にも、デメリットはいくつか存在します。
■部分矯正では治せない場合がある
歯並びや咬み合わせが大きくずれている場合、部分矯正では対応できないことがあります。部分矯正は、部分的な歯の乱れを整えるには向いていることがありますが、上下の噛み合わせや歯列全体を整える必要がある場合には、全体矯正が必要になることがあります。
■歯を削ることがある
部分矯正では、歯を並べるスペースを確保するために、歯と歯の間をわずかに削る処置を行うことがあります。削る量は歯科医師が診断したうえで決めますが、歯を削る処置に不安がある場合は、事前に相談しましょう。

■全体的な矯正と比較して仕上がりに限界がある
あくまで部分矯正ですので、全体的な矯正と比較して仕上がりに限界がある、上下全体の咬み合わせを十分に調整しきれないなどの点もデメリットとして挙げられます。他の歯とのバランスなどが取りきれない部分もあるため、治療の際にどこまで改善を目指すかを事前に確認することが大切です。
4.まとめ
部分矯正は、気になる歯並びの一部を整える治療法です。症例によっては、全体矯正よりも費用や治療期間を抑えられることがあります。一方で、噛み合わせ全体に問題がある場合や、歯を大きく動かす必要がある場合には、部分矯正では対応できないこともあります。
まとまった費用がかかることは懸念されますが、部分的な症状に対応できる点は魅力です。将来的な噛み合わせや口腔内への影響なども考慮した上で、部分矯正が適しているかどうかを歯科医師に相談してみましょう。
【参考サイト】
・ 公益社団法人 日本矯正歯科学会「矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合とは」
https://www.jos.gr.jp/facility
・国税庁「歯列を矯正するための費用」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/08.htm
・厚生労働省 地方厚生局「保険医療機関等の施設基準の届出受理状況」
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/
・公益社団法人 日本矯正歯科学会
https://www.jos.gr.jp/
・公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会
https://www.jpao.jp/
出身校:日本大学大学院松戸歯学研究科
歯科医暦:13年
歯科医師を目指したきっかけ:元々細かい作業が好きだったのと、大学時代アルバイトで歯科医院で働いた事があり、そこから歯科の臨床・教育・研究をされている姿を見てから、臨床の勉強をしたい!と強く思ったためです。
歯科医師のやりがい:歯医者にいらっしゃる方は、痛い方や悩みがある方、解決策がわからずお困りになって歯医者に来られます。私たちは専門でやっているので、歯科のことに関しては対応できることが多いです。ずっと歯科専門でこだわって勉強してきたので、困っている方の役に立つということがとても嬉しく、やりがいを感じます。
2004年3月 日本大学松戸歯学部卒業
歯科保存学入局
千葉県の歯科医院、都内の歯科医院を勤務
松島歯科にて副院長を努める
2014年3月 日本大学大学院松戸歯学研究科卒業
日本大学松戸歯学部口腔病理学非常勤講師
2014年10月2日 丸の内 帝劇デンタルクリニック開院
現在に至る

執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。
