ひどいむし歯で歯が大きく欠けた。けれど歯科医院に行くのは恥ずかしい、人前で口を開けるのも躊躇してしまう。それに歯科医院は怖いし…という人もいるかもしれません。また、自分のむし歯は治療可能なのか抜歯になるのか、治療費はどのくらいかなど、不安も尽きないものです。
この記事では、ひどいむし歯の治療法と費用の考え方とともに、知っておきたいむし歯の知識も解説しています。ひどいむし歯でも、状態によっては歯を残せる場合があります。できるだけ早く歯科医院で相談し、自分の状態に合った治療法を確認しましょう。
※本記事に掲載している自由診療の料金は、2026年時点でEPARK歯科に掲載されている歯科医院の料金情報を参考にしたものです。料金は地域や施術内容、使用する機材、歯科医院の方針等によって異なります。実際の料金については受診予定の歯科医院へご確認ください。
※ここでは2026年現在の3割負担の場合の保険診療の費用を記載しています。初診料やレントゲンは含んでいません。区分や制度の改定でも変動しますので、あくまで目安としてください。
この記事の目次
1.ひどいむし歯の治療法
むし歯菌が、神経や血管が入っている「歯髄腔(しずいくう)」にまで感染している場合、抜髄や抜歯が必要になる可能性があります。
1-1 抜歯
むし歯で歯を抜くのは、歯を支える部分まで感染が広がっているケースや、歯根が大きく壊れているケース、治療しても歯を残すことが難しいと診断されたケースなどです。
抜歯により失われた「歯の機能を補うための方法」には、次のようなものがあります。
■部分入れ歯
大きな欠損やいちばん奥の歯など、ブリッジが適用できない場合でも失った歯の機能を補える方法が「部分入れ歯」です。残っている歯に、金属などの止めがね(クラスプ)をかけて、人工歯を固定します。
| メリット ・取り外して洗浄できるため清潔さを保ちやすい ・保険のものなら費用を抑えやすい ・クラスプをかける歯を大きく削らずに済む場合がある ・連続した歯など大きな欠損でも適用できることがある ・他の方法と比べて治療期間が短く済むことが多い |
| デメリット ・口を開けたときに金属が見えてしまうことがある ・天然歯に比べて噛む力が弱くなることがある ・強度を保つため厚めに作られており異物感となることがある ・入れ歯や土台となる歯の定期的なメンテナンスが必要 ・金属以外のクラスプを希望する場合は保険外になることがある |
■ブリッジ
抜いた歯の両隣の歯を削って土台とし、人工歯をつなげて両隣から橋を架けるようにかぶせる治療法です。
| メリット ・保険が適用される症例であれば費用を抑えやすい ・入れ歯と比べて異物感が少ないことがある ・固定式なので取り外しの手間がかからない ・材料によっては天然歯に近い見た目を目指せる ・インプラントよりも治療期間が短く済むことが多い |
| デメリット ・土台のために両隣の歯を削る必要がある ・土台の歯に負担がかかる ・保険で使える素材や適用範囲には条件がある ・保険外では白い材料が使用できる場合があるが費用が高くなる ・装着している部分と歯ぐきとの間が不衛生になりやすいため、丁寧なブラッシングが重要 |
■インプラント
人工の歯根(インプラント)を顎の骨に埋め込み、上部に人工歯をつける治療法です。
| メリット ・ブリッジと違い、隣の歯を削らずに治療できる場合がある ・顎の骨に人工歯根を固定するため、入れ歯のようなクラスプが不要 ・噛みやすさを得られる場合がある ・残っている歯への負担を抑えられることがある ・材料や設計によって自然な見た目を目指せる |
| デメリット ・インプラントを埋め込むためには手術が必要 ・原則として自由診療のため、治療費が高額になることがある ・治療期間が長期にわたる場合がある ・顎の骨や全身状態によっては適用できないことがある ・ケアやメンテナンスを怠ると「インプラント周囲炎」を招くことがある |
1-2 抜歯以外の治療法
歯の中にある神経や血管が通る「歯髄腔」までむし歯菌が侵入していても、感染の度合いや歯の残り方によっては抜歯せずに済むことがあります。
その場合、歯髄(神経)を取りのぞく「抜髄(ばつずい)」、そして歯髄や歯の内部をきれいに洗浄・消毒して薬剤を詰める「根管治療」をおこないます。
抜髄や根管治療が必要になるのは、以下のような状態です。
■神経を取り除かなければならない状態
以下のような状態を放置すると、歯の根の方までむし歯が進行して膿が溜まり、突然激しい痛みを感じたりすることもあるため、注意が必要です。
| ・むし歯が深く、歯髄にまで達している ・すでに歯髄が死んだり腐敗したりしている ・歯髄がひどい炎症を起こし、激しい痛みがある ・歯の打撲や破折で歯髄が断裂したり感染を起こしたりしている |
抜髄・根管治療をした歯の機能を補うには、次のような方法があります。
■根管治療後の治療
A:クラウン法
クラウンとは「被せもの」のことです。むし歯による歯冠の欠損が大きい場合に適用される治療です。根管治療をした歯では、この方法で欠損部分を補うことがあります。クラウンには、例えば次のような種類があります。
-硬質レジン前装冠-
金属のフレームの上にレジン(樹脂)を被せたものです。保険適用には部位などの条件があります。
-オールメタルクラウン-
金属のみで作られた、いわゆる「銀歯」です。保険適用には条件があります。
-オールセラミッククラウン-
セラミックのみで作られた被せものです。原則として自由診療になります。
-CAD/CAM冠-
CAD/CAMと呼ばれるシステムを用いて作られた、歯科用レジンなどを含む白い被せものです。保険適用になるケースと自由診療になるケースがあります。
B:インレー法
インレーとは「詰めもの」です。奥歯の歯冠の欠損がそれほど大きくない場合に適用される方法です。保険のものはメタルインレーなど、自由診療のものはゴールドインレー、セラミックインレーなどがあります。
C:レジン法
レジンとは「樹脂(プラスチック製)の詰めもの」です。歯冠の欠損が小さい場合に適用されます。前歯にも奥歯にも使えることがありますが、適応は歯の状態や噛み合わせによって異なります。
1-3 ひどいむし歯でも抜歯をしない治療法とは?
ひどいむし歯でも、歯根の状態や歯を支える骨の状態によっては、できるだけ自分の歯を残す治療が検討されることがあります。
■クラウンレングスニング治療
歯ぐきや周囲の骨を調整し、歯ぐきの下にある歯根の部分を出して、そこに土台を立てて被せものをする治療法です。
歯冠がほとんどなく、歯ぐきが覆いかぶさった状態になるひどいむし歯では、土台が作れないため抜歯になることがあります。しかし、クラウンレングスニング治療を適用できる場合は、抜歯を避けられる可能性があります。
■エクストルージョン治療
エクストルージョンとは、歯科矯正を応用した治療法です。矯正力で歯を引っ張り出すことで「歯根」を露出させて土台を立てます。そのうえに被せものをして歯冠を作る治療法です。
ただし、どちらの治療もすべての歯に適用できるわけではありません。歯根の長さ、割れの有無、歯周組織の状態、噛み合わせなどを確認したうえで判断されます。
2.ひどい虫歯の治療費
2-1 むし歯の数と状態により異なる
むし歯の本数や深さには個人差があるため、具体的な治療費はさまざまです。むし歯がひどければ治療回数や治療期間が長くなり、それに応じて費用も増えることがあります。
根管治療、抜歯、被せもの、入れ歯、ブリッジ、インプラントなどの費用は、保険診療か自由診療か、歯の部位、治療内容、使用する材料、医療機関によって異なります。
費用: 被せ物で治療する場合は保険適用内で約5,000円~8,000円、
自由診療で約40,000円~120,000円と材質、歯科医院等によって大きく異なってきます。
抜歯になった場合でも、保険適用内で治療となればブリッジや入れ歯で約2,000円~15,000円、
自由診療のインプラントも選択肢に入れると、インプラントは1本あたり約350,000円~500,000円程度、骨造成や本数によっては数百万円を超える選択肢もあります。
※2026年時点のEPARK歯科掲載自由診療料金情報を参考に編集部集計
※歯科医院によって選択肢、費用は大きく異なるため、受診予定の医院で相談、見積もりの作成をしてください。
2-2 「保険」が使える治療と使えない治療
むし歯の治療には「保険診療」と「自由診療」があります。多くのむし歯治療は保険診療で受けられますが、すべての治療が保険適用になるわけではありません。
■「保険内」と「保険外」の違い
保険診療は、国が定めた制度のもとでおこないます。保険が適用されるため費用は抑えられますが、材料や治療法が限られています。
これに対し、自由診療では保険診療では選べない材料や治療法を選択できる場合があります。しかし、保険が適用されないため、治療費は全額自己負担になります。
■保険外の歯科治療とは?
-予防のための施術-
保険は、原則として「治療」が必要とされる病気に対して適用されます。予防目的の処置は、保険適用外となる場合があります。
-見た目をよくすることが目的の治療-
治療ではなく、美容面のみを目的とした白い被せもの、ホワイトニング、矯正などは原則として保険が利きません。インプラントなどの治療も、原則として自由診療です。
-保険収載されていない治療法や材料-
新しい治療法や接着させるセメント等の一部の材料は、保険が適用されないことがあります。保険適用の範囲は変更されることがあるため、歯科医院で確認しましょう。
2-3 高額な歯科治療費は医療費控除で還付
医療費控除とは、本人あるいは生計を一にする家族のために1年間に支払った医療費が一定額を超える場合に、所得控除を受けられる制度です。
歯科治療も医療費控除の対象になることがありますが、すべての治療が対象となるわけではありません。美容のみを目的とした処置は、基本的に対象外となります。
| 「実際に支払った医療費の合計」-「保険金などで補填される金額」-「10万円(※)」 |
※その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%
■医療費控除の対象となる歯科治療の例
・むし歯や歯周病治療
・被せものや入れ歯などの義歯
・一般的に使用される金やポーセレンなどを使った治療
・年齢や目的などからみて必要と認められた矯正治療
・治療のための通院費
・小さい子どもなど、付き添いが必要な場合の付き添い人の交通費
※自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場代などは、医療費控除の対象になりません。
■医療費控除の申請について
医療費控除を受けるには、原則として確定申告が必要です。給与所得者の還付申告は、対象となる年の翌年1月1日から5年間行える場合があります。
申告時には、医療費控除の明細書などが必要です。領収書は提出不要でも、一定期間保存が必要です。制度を利用する際は、税務署または国税庁のホームページなどで最新情報を確認してください。
■医療控除のヒント
医療費控除は、生計を一にする家族の医療費をまとめて申告できる場合があります。また、申請を忘れてしまった場合でも、一定期間内であればさかのぼって申告できることがあります。
※医療費控除に関する情報は制度改正などにより変わることがあります。利用する際は、国税庁または税務署で最新情報を確認してください。
国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
3.むし歯をひどくする原因とひどいむし歯による弊害
むし歯の原因には、歯垢(プラーク)中の細菌が関係しています。
歯垢は食べカスではなく細菌の塊で、この細菌が口の中の糖を分解して作る「酸」が歯の表面を溶かしてしまいます。ごく初期の脱灰であれば再石灰化が期待できることもありますが、歯質が崩れて穴が開いたむし歯は自然に元へ戻りません。早めの治療が大切です。
3-1 むし歯をひどくしてしまう人の傾向
歯磨きが不十分な人や、甘いものをダラダラ食べる習慣がある人は、むし歯のリスクが高くなります。この機会に見直しましょう。
「痛みが出てからしか歯科医院を受診しない」「忙しくてつい後回しにしてしまう」という人も多いですが、痛みが出る頃にはすでにむし歯が進んでいることがあります。
むし歯をひどくしてしまう原因になりますので、そういった人はぜひ、この機会に定期健診を検討しましょう。
そのほか、次に挙げるような「歯科恐怖症」の人もいます。むし歯をひどくしてしまう心理的な原因のひとつと言えます。
3-2 「歯科恐怖症」
歯科恐怖症とは、過去の不快な治療経験などがきっかけとなり、治療だけでなく歯科自体に強い恐怖を感じ、心と体が過剰反応する状態です。ひどい場合は、緊張で脂汗をかいたり、震えが止まらなくなったり、呼吸が苦しくなったりすることもあります。
そのため歯科恐怖症の方は、むし歯や痛みがあっても歯科治療を後回しにしてしまい、むし歯が進行してしまうことがあります。むし歯がひどくなれば、それだけ治療にも時間がかかり、歯科恐怖症の方にとっては悪循環となることがあります。
しっかり治療するためには、この悪循環を断ち切り、無理のない形で歯科治療に向き合うことが大切です。
痛みに配慮した治療や、治療前のカウンセリング、段階的な治療を行っている歯科医院もあります。予約時に不安が強いことを伝え、対応可能か確認してみましょう。
3-3ひどい虫歯を放置した場合に起こりうる影
ひどいむし歯は歯髄まで細菌感染が広がっている場合が多く、根管治療が必要なケースも少なくありません。根管治療には時間がかかり、精神的にも金銭的にも負担が大きくなることがあります。
また、むし歯が進行すると、歯の根の先に病巣ができたり、歯ぐきから膿が出たり、腫れや痛みが出たりすることがあります。さらに進行した場合には、抜歯が必要になることもあります。
これらの弊害を避けるためにも、ひどいむし歯は放置せずに、できるだけ早く歯科医院を受診するようにしましょう。
4.むし歯治療後の注意点
4-1 むし歯のできにくい環境を作る
むし歯のできにくい環境を作ることが大切です。まず、口の中の歯垢(プラーク=細菌)を減らすことを心がけましょう。
「プラークコントロール=歯磨き」と思われがちですが、歯磨きだけで全てのプラークを取り除くことは難しい場合があります。デンタルフロスや歯間ブラシなども使用して、口内を清潔に保つことが大切です。
また、糖分を含む飲食の回数が多いと、歯が酸にさらされる時間が長くなります。間食の回数や時間を見直すことも、むし歯予防につながります。
4-2 定期健診を受ける
ひどいむし歯を治療した後は、再発しないように定期健診を受けることをおすすめします。受診間隔は口の中の状態やむし歯・歯周病のリスクによって異なるため、歯科医院で相談しましょう。
定期健診では、むし歯の有無、歯のクリーニング、歯石取り、フッ化物の利用、ブラッシング指導などを受けられる場合があります。
5.まとめ
ひどいむし歯でも、歯の状態によっては治療できる場合があります。ただし、むし歯の進行度、歯根の状態、歯を支える骨や歯ぐきの状態によっては、抜歯が必要になることもあります。
費用に関しては一概にいえません。むし歯の状態と予算、保険診療でできる治療と自由診療になる治療を確認し、自身が何を一番に優先させたいか、歯科医院と相談のうえで治療を進めることが大切です。
また、高額な医療費を支払った場合は、医療費控除を申請できるか確認してみましょう。同時に、むし歯に関する知識を身につけ、ひどいむし歯の再発を防ぐようにすることも重要です。
【参考サイト】
・厚生労働省 e-ヘルスネット「むし歯の特徴・原因・進行」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-02-001.html
・国税庁「No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1128.htm
・国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
・日本歯内療法学会
https://jea-endo.or.jp/
・日本歯周病学会「インプラント周囲炎の診断・リスク因子・治療に関するエビデンス」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/65/3/65_81/_html/-char/ja
・厚生労働省 令和8年度診療報酬改定について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
1987年 日本歯科大学 卒業
1987年~1996年12月 氷川下セツルメント病院歯科勤務
1997年 歯科大橋 開業
現在に至る

執筆者:
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